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あなたのいきつけは?  作者: しまのすけ
7/8

「私には、6つ離れた姉と、8つ離れた兄がいるんだけどね...

年が離れてたってのもあるんだろうけど

何より私は3人の中で1番、母親に似ていたのよ...

そりゃもぉ相当!可愛がられて育った。」


泣きそうな顔をそのままに、ポツポツと降る雨のように話す出す相手に

楓は真剣な瞳をそらすこと無く見つめ続ける。

浮かせていた腰を倚子にゆっくり預けると、ギィと何かを締め付ける

音が店内に鳴り響き...消えた。


「母は、花が大好きな人だった。

朝一番に、顔も洗わず向かう先は庭に作られた母特性の花畑。

兄妹皆が母を愛していた。

父は仕事で家に居ることなんて滅多にないし、私達の甘える先はいつだって母だけだったから...

いつも、どんな時も、その変わらない笑顔と花の匂いと木漏れ日のように温かさがさぁ...

好きで...好きで、たまらなかった。」


そこで区切られた言葉...唇を噛みしめて下を向く姿。

小さく、一瞬だけ肩が跳ねた...必死に堪えているのだろう懸命な姿。

目に焼き付けるように、離す事が出来ない...

見ないでいるべきだと、思うのに小さな子供のように健気な姿が

愛しくて、止められない。


「私は幼かったから、母と過ごす時間が誰よりも多かった。

花の事も母から教わったのよぉ~

母特性の花畑の隅っこに必ず咲いていたのが

この花!ポピーよ」


指でチョイチョイっとポピーを撫でてやると、フワリと甘く香って揺れる。


「母がね...病気になったの。

突然の事だったから誰もが驚いていたし、すぐに入院を進められた。

でも彼女はそれを拒んだ...

例え手入れが出来なくても、花畑のそばに居たい。

ってさ...呆れちゃうわよねぇ~

私は、5歳だった。

父は力尽くでも入院させようとしていたし

兄や姉も、それを願ってた。

でも...当時の私は彼らの願いや想いがまるで分かって無かったよね

一人、言われるままで苦笑いを作り続ける母を見てたくなかった。

私だけでもと、母の味方で居続けた。」


ボトルが並ぶ棚へもたれ掛かるように手をついて

下を向く、サラサラの髪が風に吹かれた上質なカーテンと

同じ動きを見せ、その人の顔を隠してしまった。

また、小さく肩が跳ねたと、次は「ズッ」と言う

鼻を啜る音が微かに届く。


「本当に、情けないわ...私、今でも母が何の病気だったのか

全然知らなくってさ!もういい大人だってのに

誰も、だぁ~れもよ!教えてくれないの!!

信用無いのかしらね?私って...。

フフフッ...なっんか!湿っぽくなっちゃったわね~!

変な話し聞かせちゃったっ...どうしてかしら?」


言って、こちらに向けた顔は

貼り付けた、こびり付いた笑顔だと楓には分かった。


その顔は...いつも見ている花の笑顔。


今まで私が見ていた、この人は...

偽者だった?


今まで見せてくれていた顔は...

全て、嘘で出来たモノだった?


「似てるのかも、知れない。」


最後に言われた言葉は

楓に向けられたはずだったのに

空気に溶けてしまうほど儚く、言葉の意味を

頭の中で必死になって追いかける


「私ね、この店に居る時が、一番自分らしくいられるの。」


少し前に励ます為か、言われた言葉を思い出す。


あぁ...


気づいていないんだ。


この人は、仮面を被ってもいる自分に気づいていない。


『雨、降ってきましたね。』


降り続ける雨を窓から見つめる。

オーナーも飾り終えた花瓶を抱えて窓を見る。


ぐずつく雨は、まだ止みそうにはない。


頬杖をついて窓を見つめる楓の横顔を見て

オーナーは楓の雨が、降る雨の事では無い事を悟った。


楓に見せた初めての顔、それに答えるかのよう

楓もまた、見せた事の無い表情を見せていたから...


________________


「僕は、お母さんの味方です。」


誇らしく笑ってみせると彼女もまた、誇らしそうに笑った。

彼女の笑顔を守る事が出来たのだろうか?と、そう思うと

りゅうは自然とほころんだ。


「あのね、りゅうちゃん。

お母さんのお願い、聞いてくれる?」


「はい!お母さんのお願いは何だって聞きます!」


「ありがとう。じゃぁね...

りゅうちゃんには沢山の事を選んで、生きていってほしい

ってね、お母さん思うのよ。」


「?」


「生命って言うのは魂なの。

この世に産まれた時にはもう、決められてしまっている事

逃げられない事が、たっっくさんある。」


「...」


「定めは、絶対。」


「お母さん?」


「でも、運命は...絶対じゃないから。」


痙攣して、大きく震える手を精一杯りゅうへと伸ばす。

りゅうも精一杯、その手を取って握り返した。


「定めが必然なら、運命は偶然。


選べる道があるのなら、沢山悩んでほしいの...


自分で決めて、自分で歩いて、自分で...進んで行くの。


出来る?」


彼女からの言葉は、りゅうには難しく

けれど懸命に考えた。

だけれど、やっぱり難しく...それでも


「はい!分かりました!

お母さんのお願いは、僕が絶対叶えます!」


と、自信たっぷりに答えた。


彼女も嬉しそうに笑ってくれたから

何がなんでも叶えてやろうと心に決めた。


意味が分からなくても

その時のりゅうには、叶える。と言う事以外なかった。


りゅうは子供なりに一生懸命、寝たきりの彼女を介護した。

汗を拭いたり、枕の位置を直したり

些細な事でも力になりたい。

無駄な事でもやれることをやりたい。


少しでも彼女の傍に居たい。


そうして月日は流れ、りゅうは7歳。


花の育て方も、介護も手慣れてしまい

咲いた花を花瓶に飾って枕元に置いてあげた。

兄妹もそんなりゅうが誇らしいと褒めてくれ

時々会う父は何も言わないが、大きな手で頭を撫でた。


りゅうは庭を弄っていた。

夏の暑い陽射しは容赦がない。

汗まみれになりながら

彼女の部屋に飾る花を選んでいる最中だった。


「流希、此方へ来なさい。」


不意にかけられた声に驚いていて振り返る

と、そこには父が立って手招きしている。


「はい。すぐに行きますので、ほんの少しだけ

待っていただいてもいいでしょうか?お父様。」


摘んだ花を大慌てで束ね、庭の隅にある水場へと運ぶ

手を丁寧に洗ってから、父の元へと駆けつけた。


「此方だ。」


父はいつだって怒った顔をしている。

一言だけ言うと、りゅうに背を向けて歩き出し

何かしただろうか?と不安な思いで後をついて行く...と


たどり着いたのは、彼女の部屋の前だった。


何かあったのか?

彼女に何か...


りゅうは一瞬で顔を青くしたが、扉を開けて

瞳に入った彼女はいつも通りに見え

ホッと胸を撫で下ろす。


「入りなさい。」


言われるがままに通され、彼女の元へ駆け寄り

彼女の手を静かに握り微笑みかける。


兄と姉もそこにいて


見慣れない女性が一人居た。


女性はニコリとこちらに笑いかけたので

不思議そうな顔のまま、小さくお辞儀だけ返した。


女性は荷物を抱えており

歳も若そうに見え、服も少し派手だ


素朴な服を好む彼女を見ていたから

尚更派手に見えるのか...

それにしたってアクセサリーの量は多い。


父は女性に歩み寄り、抱えていた大きな荷物を

花束を受け取る時と同じくらい慎重に女性から奪う...

すると此方へ向き歩いてくる。


握っていた彼女の手が、少し

殆ど分からないくらいの力で一瞬ギュッと握られ

顔を見れば、気のせいだったのか...

いつもの温かな笑顔があった。


父はりゅうの前まで来ると、しゃがみ込み

抱えた荷物の中身を見せる...


そこにあったのは...


小さな、赤ん坊。


目を見開いて覗き込む。


「お前の妹だ。抱いてあげなさい。」


言われグッと差し出される赤ん坊を

りゅうは困惑したまま受け取ろうとし


彼女の手を離した。


妹?


受け取ると見た目のサイズと裏腹に結構重い。


父は大きいから小さく見えただけで

りゅうの両手いっぱいに収まった赤ん坊は

クルリとした瞳でりゅうを見つめる。


愛らしい。


素直にそう思った。


りゅうは笑顔を父に向けると

父も満足そうに無器用な笑顔を返す。


めったに見せない笑顔を見れて

りゅうの心は弾んだ。


「名前は「蕾」だ。」


蕾...僕の妹...!


きっと彼女も喜ぶ、こんなに可愛いんだもの

それに名前が蕾なんて!


そう信じていた。


そうだとしか考えられ無かった。


満面の笑みで振り返る


両手いっぱいに抱えられた蕾と一緒に


浮かれた心を、隠しきれないまま


頬をピンクに染めて


幸せいっぱいなオーラを垂れ流し


勢いよく


振り返る。


「!?」


彼女は、いつもの太陽の笑顔でいるはずだ。


違う、彼女は...いつもいつも笑顔で居るんだ。


「何で?」


灰色の顔が此方を見据える。


表情がなく、石像みたいな彼女。


哀しそうでも、嬉しそうでもない


何にも無い顔が、りゅうを捕らえて離さない。


「お母さん?」


両手いっぱいの蕾を、りゅうは手に入れた瞬間だった。


両手いっぱいの太陽の花を、りゅうが失った瞬間だった。


________________


開店準備を初めたオーナーに何か飲むかと聞かれ

楓は、やんわりと断ったが

「私が喉渇いたのぉ~!ついでに作ったげるわ。」

と言われてしまい、断れなくなって

『水を...』とだけ言った。


ただの水なのに、丁寧にグラスを冷やされていた。


コップの中の水を見つめ頬杖をつく。


「やっぱり...似てるわ。あんた。」


オーナーも水をグビッと飲んで笑った。


やっと出せた!りゅうちゃんの本名!

流希りゅうき」です。

お母さんの願いがグイグイ詰まっている名前にしたかったので流れ流れて生きていく希望の子であれ~ってね!(*^▽^*)

下手な話になってるけど...楽しければOKでしょ(笑)デジャブ

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