表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたのいきつけは?  作者: しまのすけ
3/8

今日は水曜日


そう、水曜日と言うことは...私にとって、もっとも重要な日


仕事は早めに終わり、次の日は休み


そう、次の日は...休み


つまり!!!


________



本来なら夜まで続くであろう仕事が日が暮れかかる夕方に終わらせる事が出来た。

上司に説得に説得した結果、この水曜日は、最低限の仕事をすれば帰らせてくれる事になっているのだ。

昨日の今頃なら次の仕事が回されて、2つを同時進行でこなさなければならないが

今日は、ない。


先輩、後輩も納得している事なので気に病む必要もない!


楓は自分のデスクを片付け、金曜日、次に出勤する日の為に、回されるであろう書類などを見つくろい並べていく。

彼女のデスクは何時だって整頓されている、いつだって余裕を持っていたい彼女の性格が滲み出ている、が、周りから見れば、ただの奇麗好きだ。


楓は会社の飲み会などにも最低限しか参加しないし、後輩や先輩などにも、遠慮がちでプライベートな話もしない。

ただ、黙々と仕事をこなしていく印象しか与えられてはいない。

楓は、その絶妙な立ち位置を作る事が得意でもある。


嫌われるでもなく、好かれるでもない

邪魔にもならず、鼻にもつかない

空気のような存在


だから水曜日は早く帰りたいと彼女が申し出た時は上司だけでなく、多くも物たちが驚きを隠せなかった。


だが、そんな事を気にしていたらきりが無い。

楓はただ、受け入れてくれるか否かの答えだけ貰えれば良かったのだから...


普段、空気のような彼女だからこそ、その変化は凄まじい物がある。

表情なくパソコンを見つめる彼女が水曜日になると、意味も無く微笑んでいたりするのだから...

そんな姿を見せられては、誰も何も言えないのは当たり前だ。


楓は帰り支度が済んだのか、肩にバックを引っかけて椅子を丁寧に終う。


これが彼女のお疲れ様のサイン


出口近くまで行き『お疲れ様でした』と深く頭を下げる。


気づいた者は返事をするが、仕事に追われていれば気づくこともない者もいる

そんな人を気にも止めず楓は駅までの道を早足で歩く。


せっかくの水曜日なのに、今日は一日、ぐずぐずと雨が降っている。

小降りの中を傘もささず歩いていく、駅まで、そう遠くもないし小走りになれば

ほとんど濡れない程度の雨だ!今日は水曜日、明日は休み。

こんなに気分が良いことあるだろうか?


夕方の空にキラキラと光る雨が奇麗だと思った

その景色の奇麗さで、頭を過ぎるあの人の顔


優雅に動く体


花のように笑う表情


低くもなく高くもない、透き通る声


この景色の中で、あの人を見れたら...どれほど奇麗だろうか?


頭を軽く振って苦笑いを零す


(どうかしている)


________



家に着くと時間はまだ、たっぷりと残っていた。

冷えた体を温める為お風呂に湯を入れながら、着がえる物を吟味してゆく

普段は仕事帰りに少し立ち寄ることしか出来ないが今日は閉店まで居座る気なので

楓の心は静かに弾む。


今日くらいしか普段着で行くことはない


いつも変わり映えしないスーツ姿なのだから、こんな日くらいは

素顔の私で会いに行きたい


楓なりの、精一杯


お湯が溜まったのを確認して、桃の香りがする入浴剤を入れる。

楓のお気に入りの入浴剤、これが無ければお風呂に入ったという気がしない

どんなに疲れていても夜遅くても、お風呂だけはかかさない。

気持ちがシャキッとなり、一日を終えたのだと自分に納得させないと

次の日は必ずダレてしまう性格を熟知している。


周りに迷惑をかけるのを嫌い

余裕のある行動をする

時間、お金にしても余裕がなくては気持ちが不安定になる

誰だってそうだろうけど、楓の場合はそれが、人よりも強いのだ


音楽を流し、湯船につかる。


こういう時、普通の子は流行のラブソングを聞くのだろうか?

楓が選んだ曲は青春を歌うような荒々しいバンドの歌

染み込んでゆく音楽と桃の香り


「あんたはあんたでいいじゃない」


そんな事を平気な顔をして言う、あの人


ただ生きていく事が変わっていく、日々

どんどん世界が、私にしか見えない私の世界へと染み込んでゆくようだ

今まで見えそうで見えなかった物が形を作ろうとしているような...

人は、こう言うの『希望』と言うのだろうか?


あの花が咲くような柔らかい微笑みを思い出すだけで

生きている事が誇らしく、そしてまた、ありがたく思えてくる。


________


お風呂から上がって、暖かいコーヒーを淹れる。

濡れた髪をタオルでガシガシと水分を飛ばしつつ、服の散らばる部屋を見る。


コーヒーを味わいながら出された服を頭の中でイメージする。

雨が降っているから...朝まで飲むし...など考えながら

濡れても良くて、楽な格好と言うのは割と難しいのだな~と思う。

ただ、それだけならいいが

出来れば少しでも見栄えがほしいとも思ってしまう訳で...


元々ボーイッシュな服装を好むが、最近は更にボーイッシュな気がする

無意識なのだろうし、楓本人も気づいているのか謎だ。

相手は女以上に女な男であり、男が好きな訳だから可愛らしくしては意味が無い

むしろ逆効果だろうし...

そう考えると、ボーイッシュになって行くのは自然な事。


空になったマグカップをキッチンに置いて

殆ど乾いてしまっている髪を乾かす。


雨のせいでもあるが、楓はカナリの癖っ毛だ。


パーマを当てたような細い猫っ毛

クリクリとうねる髪を諦めたように、豪快に乾かし

セットをするでもなく手ぐしでほぐしつつ部屋の中を歩き回る。


考えても上手く頭がまとまらない。


唸り声を上げながら、目に付く服を着ては脱ぐ

何度か繰り返してようやく、ふぅ...と息を漏らした

ベットの上は脱ぎ散らかされた服達でごった返しているしまつ

その光景に「女」の文字が頭に浮かび苦笑が漏れる。


脱いだ服をたたみ、しまうのに時間はさほどかからない

時計を見れば、まだ、8時を過ぎた所、オープンは10時から...この時間をどうしたものか適当に外へ食べに行こうか?作るほども気が乗らないし

家にいると落ち着かないのだ。


持ち物をチェックして、バックに詰め込み

最後に鏡の前で自分を映して、その姿にげんなりして家を出た

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ