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第六話 不時着

 夕暮れの赤トンボは、雲の中に突っ込む。ゴーグル越しの視界が白くなる。僕はこの、先が見えない状態があまり好きじゃない。


「例のフラーウムとは上手くいっているのか?」


 気を紛らわすために、僕は後部座席に搭乗した勇者コータに問う。当時よりも少し長く伸ばした黒髪が、コータの顔を隠している。


「まあぼちぼちだな……あっちの世界では色々苦労してる。その話、どこで聞いた?」


 少し不満げな台詞が漏れる。


「どこで聞くも何も、アーランド王国での異世界交易で成り上がった貴族フラーウム家を知らない奴はもぐりだろう」


「じゃあ、お前のほうはどうなんだ? マックス」


「赤毛の、知ってるか? 知るわけないか。離陸の前日、クーノー卿の娘アガーテと愛を誓い合った。今回の大役を終えて帰ったら、結婚の許しをもらうつもりだった」


「やめろ。変なフラグを立てるな。死亡率が上がる」


 勇者コータが意味不明なことを言う。恐怖で錯乱しているのだろうか。

 いずれにせよ、高度が少しずつ下がってきている。もう長くは飛べない。


「勇者コータ。僕のことはかまわないから、いざとなったらパラシュートで降りろ」


「パラシュートあるのか!」


「本来は荷物投下用だが、一つだけある」


 僕が死んで、勇者コータが助かる。それでいい。そう思って提案したつもりだった。だが。勇者コータは全く違うことを考え付いたようだった。


「じゃあそれは着陸用だな」


「着陸用?」


「着陸時に展開して、風の抵抗を受けて速度を殺すんだ。そうすれば滑走路が短くてもなんとかなるかもしれないだろ」


 夕暮れの眼下に灯が見える。ラヴィッシュ帝国の軍用地だ。滑走路と呼べるほど地面は整備されていないだろうが、一定の広さがあるのは確かなようだった。

 

「パラシュートでの減速か……やってみる。ちゃんと掴まってろよ!」


「おう!」


 赤トンボの機体は斜めになり、くるくると旋回しながら高度を下げる。Gが強い。機体がぎしぎしと音を立てる。主翼は折れそうなほどにしなり、尾翼はガタガタと震える。マグタイト・エンジンはブーンと低くうなり、徐々に機体は減速してゆく。

 

「これ以上速度落とすと落ちないか?」


 勇者コータの台詞に、僕は返す。


「ああ、失速して落ちる。だがこのくらいの速度じゃないと、着陸のときの衝撃で死ぬことになる」


「ぎりぎりの賭けなのか」と勇者コータ。


「ぎりぎりの賭けだな」と僕は返す。


 そこから先の僕の記憶は曖昧である。着陸のために無我夢中だったのだ。高度計はみるみる下がった。そして失速の限界までの速度低下後に、後ろにパラシュートを開く。機体下部の車輪ごしに、強い衝撃が数度襲う。バウンドしているのだ。僕たちはそのたびに死を覚悟した。しかし予想に反して、赤トンボは着陸に成功した。日没が来る。

 

 そこで僕はガタガタ震える手足で大地に立ち、ふと積荷のマグタイト共振管のことを思い出した。震える声で、本国に接続し、何かの通信をしたことだけは覚えている。それを終えると、僕とコータは安堵し、そして気を失った。

 

 

 

 

「エリザベス。なんだこれは」


 聞こえたのは女性の声だった。凛々しい。

 

「飛行機ではありませんか、アビゲイルお姉さま」


 またもや女性の声。かわいらしい。

 

「いや、なぜ帝国の軍用地にアーランドの飛行機があるのだ」


「亡命でしょうか。それとも偵察中の不時着? いずれにせよ飛行機は貴重な軍事機密。パイロットは生きているようですし、捕らえましょう、お姉さま」


「そうだな。ひとまず捕らえよう。捕らえてから吐かせれば済むことだ」


「女帝アビゲイル様。副女帝エリザベス様。異変があったからといって、夜闇の中を馬で先行されては困ります……。ですが、いやはやこれは……たまげましたな……。飛行機ではありませんか」


「そうだ。飛行機だ。海港を持たない我々ラヴィッシュ帝国が長年研究してきたそれの実物がここにある。たまたま視察に出向いた軍事訓練場で、たまたま空から飛行機が降ってきた。しかも乗組員はまだ生きている。この大陸に神はいないが、幸運ラッキーとはあるものなのだな」

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