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第五話 赤トンボ

 時は昼。まっ平らな飛行場の中心で、厚手のパーカーを着込んだ僕ソータは、溜息をついていた。風は強く、アーランドの国旗がバタバタと音を立てている。


「軍用飛行機。通称『赤トンボ』は、我が国の最重要国家機密だ」


 クーノー家の貴族の従者が説明する。中世ヨーロッパ風のこの世界アールにおいて、空を制することは神のごとき行為だ。そりゃあ国家機密扱いもされるだろう。従者の向こうには、クーノー家の貴族と赤毛のボブカットの女の子がいた。ちょっと、いやかなりかわいいが、まあ今回の事件にはあまり関係ないだろう。


「うん。これは飛行機。正確には複葉機だよね。まぎれもなく。ちょっと古いけど」


「これはアーランド王国の最新鋭装備だ」


 従者は「最新鋭」を強調して言った。


「でも古いよね。設計思想的に」


「設計思想とは何だ?」


「そこが分かってない時点でアレだよね。うん……」


 僕ソータは、明らかに旧式の飛行機――部分的に金属を使っているが基本的に木製である――を見せられて、失意に沈んでいた。風洞実験とかもしたことがないであろう、不恰好で四角い二枚の主翼と尾翼。空気抵抗を受けまくるであろう主翼先端部分の飾り。搭乗者2名を入れたら、あんまり余裕が無いと思われる最大積載量。機体の前方や後方ではなく、なぜか側面についた銃口(注・機銃ではない)。

 

 すばらしい。すばらしい糞設計だ。

 

 これでもちゃんと飛ぶというのだから、マグタイト・エンジンの馬力と比推力はよほど高性能なのだろう。

 

「ちょっと設計に携った主任研究員呼んで来て。今すぐに。僕がこのやり場の無い怒りと笑いを抑えていられるうちに」


 一刻後。魔術院「オールエー」から、ぼさぼさ頭に眼鏡をかけた変人風の男と、整った顔つきをした青い長髪の男がマグタイト駆動の馬車に乗ってやってきた。二人は自己紹介した。前者はシャザード、後者はアーサーと名乗った。アーサーの背丈と比べると、シャザードはまるで子供のように見える。

 

「それより見たかね? すばらしい発明品だろう? この機械はちゃんと飛ぶぞ?」


「ええ。でも飛ぶだけですね……」


「飛ぶだけでは不満かね?」


 上目遣いのシャザードが高い声で問いかける。


「ええ、ダメです。速く、高く、強く、そして量がなければダメです。飛行機によってマグタイト文明は一段先に飛躍します。なので設計を――根本から考え直してくれませんか」


 僕はテストに0点をつける教師のような口調で言った。


「どのへんが不満かね?」


「一言でいうと『全て』です」


 それを聞いたシャザードは、はたから見ても分かるくらいに、わくわくしている。


「ふむ。では詳しく話を聞こうじゃないか。『そっちの世界』では、飛行機とはどんな存在なのか? 何であって、何でないのか。勇者コータは詳しく話してくれなかった」


 そこで、僕ソータは、はたと気づく。飛行機の歴史はまさしく戦争の歴史でもあるのだ。

 古くは熱気球、飛行船による飛行に始まり、グラーデ式単葉機――日本で始めて飛んだ一人乗りの飛行機だ――による偵察。そして爆弾の投下。偵察機から爆撃機への進化。

 爆撃という空から降り注ぐ脅威に対抗するため、偵察機にはまた敵偵察機の撃墜任務も与えられ、戦闘機へと進化していった。


「そうですね。全てを話す前に、一つだけ約束してください。この技術を戦争には使わないと。隣国との交易のために、友好のために、平和のために使うと」


「約束しよう。魔術院『オールエー』はただ技術だけを追求する集団だ。国家に使役されず、また、結んだ約束を違えない」


「では、最初の一歩です。紙飛行機を折ったことは?」


「無いな。パピルスの類で飛行機が造れるのかね? それは興味深い……」


 いきなり座り込んで考え込むシャザード。青い長髪の魔法使い、アーサーが――なんでも、魔力を取り戻して再び「魔法使い」に戻ったという経歴を持つらしい――話を補足する。


「いや、話の腰を折ってすまないが、そもそもこの世界アールではいわゆる『紙』というもの自体がまだ流通していないんだ」


「やれやれ、まずそこから説明を始めないといけないのか……」


 僕はがっくりとうなだれた。持ってきた航空力学の基礎の本、通称「銀本」が役に立つのは、もっと後になりそうだった。

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