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第二話 勇者コータ死亡のお知らせ

 風が強い、早朝の飛行場。バタバタと旗が鳴っている。


「何か問題があるのか?」ドワーフが鍛えた名刀『全ての民草の剣』を脇に携えて、黒髪の勇者コータが問う。

「うん。エンジンの調子が良くない」茶髪のマックスは短く答える。


 マックスは即座に問題点を見抜いたかに見えた。しかし、それはわざと仕掛けられた罠であった。ゆるんでいたボルトを締め終えると、マックスは満足し、その他の点の整備をせずに、状態は昨日のままであると信じ、勇者コータを乗せて離陸した。

 

 燃料の残量を計器ではなく、目視で確認しなかったのはマックスの責任であると、黒髪のカスパールは自分にそう言い訳をした。飛び立った飛行機は、もう二度と補給を受けられず、墜落する。神のいないアーランドにおいて、奇跡などという出来事は、決して起こらないのだ。

 

 見送りをした名門貴族の中に、フレイズマル卿配下の者がいた。カスパールは、万事ことが上手く運んだら、みずみずしい木の葉をその者に渡すように、と言われていた。カスパールはそのようにした。すると配下の者は木の葉を受け取り、「フレイズマル卿の名において、約束は果たす」と言った。

 




 それからぐるりと日が巡って。夜。煌々と照らされた、フレイズマル卿の館の広間。

 名門貴族から泡沫貴族まで、全ての貴族が参加する「王国議会」が開かれているその中で、溢れんばかりの歓喜の笑みをふりまくフレイズマル卿がいた。

 太ったオッテル卿、髭をたくわえたファフニール卿、眼鏡のレギン卿、その他有力貴族、泡沫貴族らを迎えて、フレイズマル卿は実に晴れ晴れとした表情で大音声の台詞を発した。

 

「貴族の諸君。実に、実に悲しいお知らせがある。勇者コータは死んだ! 不幸で悲惨な墜落事故によって、ラヴィッシュ帝国のごみと化した!」


 広間にざわつきが広まる。

 

「死んだ、だと?」「伝説の勇者が?」「生きた神話が?」「帰らぬ人になった?」「確かな情報か?」「和平の交渉は?」


「皆々様に心からご同情申し上げる。だが神の加護などというものはこの大陸には存在しない。ラヴィッシュ帝国との和平の交渉のために旅立った勇者コータは死んだ。死んだものは死んだのだ。決して生き返ったりはしない。勇者コータの冥府への旅路に乾杯!」


「……どういうことか詳しく話してもらおうか、フレイズマル卿」


 食事を止めたオッテル卿が釘を刺す。

 

「……誰が何をミスしたらそうなるのかな、フレイズマル卿」


 髭を撫でながら、ファフニール卿が言う。

 

「そんな計画は聞いていないが?」


 眼鏡のレギン卿が口を挟む。

 そんな張り詰めた空気を無視してフレイズマル卿は叫ぶ。


「残念ながら今回のは謀殺ではなく、不幸な事故だ! あのマックスという平民は、燃料の残量をろくに確認もせずに飛行機を飛ばした! それであとになって見てみるとどうも計算が合わないというのだ。彼は誤って使用済み燃料を使って離陸してしまった。よって結果は墜落。墜落だ! 墜落、墜落、墜落! 即死、即死、即死!」


 赤毛の、クーノー家の娘アガーテが、悲鳴を上げる。

 

「違う! マックスはそんなミスをするようなひとじゃない! 何かの間違いよ!」


「……恋人の死については、真剣にご同情申し上げる、ミス・アガーテ。しかし事情を知る者はもはや誰もいない。本件については議論不要。勇者コータが押し付けた、このくだらん王国議会とかいう集会ごっこは即刻解散だ。解散、解散、解散!」


 蜘蛛の子を散らすように退散していく泡沫貴族たち。有力貴族も、ちらほらと退場していく。


「勇者コータは、本当に死んだのかね? あの真紅の飛行機は、本当に落ちたのかね?」


 その場に最後まで残ったレギン卿が尋ねる。


「ああ落ちた。落ちたとも。本物の奇跡でも起きない限り――」


「本当に奇跡が起きていないと、なぜ言い切れるのかね」


 レギン卿は眼鏡の奥底の瞳で、若くして白髪頭のフレイズマル卿を見据える。その瞳にはまるで、勇者コータへの信仰心が宿っているかのようであった。

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