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第十三話 剣よ我が手に

「じゃあ、始めるぜ。『剣よ我が手に!』」


 鎧を着込んだ勇者コータは言葉を発した。すると遠くから一振りの剣がひゅるるると回転しながら飛んできて、勇者コータの眼前で下を向いて静止した。地面に突き刺さる気配も無く、完全に浮遊している。

 

「なんだそれは? 名のある剣か?」


「ドワーフが鍛えた『全ての民草の剣』だ。うっかり無くさないように『口寄せ』の魔法が掛かっている。それ以外は普通の剣で、チート装備じゃないから安心するように」


「お前、普通の剣で俺たちに勝てるつもりか!」


「勝たせてもらう!」


 そして前代未聞の、一対一の戦争が始まった。


 一人目。剣先の触れ合う距離、飛び込みからの面。兜が凹む。一本。

 二人目。ギン! ガギン! と力まかせに二回打ち合ったところで、相手の体勢が崩れる。すりぬけるように胴。一本。

 三人目。フェイントの踏み込みから相手の隙を誘っての小手。一本。

 四人目。つばぜり合いから、大きく相手を突き放しての面。一本。

 五人目。上段に構える相手への、突き。一本。


 誰かがトリックだ! とか言い出し、勇者コータの剣を検分する。まったく異常なし。


 六人目。突き出した剣に相手が硬直してからの、面。一本。

 七人目。剣先の触れ合う距離。飛び上がりつつの面。一本。

 八人目。相手は斧。振りかぶったところで胴。一本。

 九人目。踏み込みからの綺麗な面。一本。

 十人目。相手の斬撃を横のステップで避けての面。一本。


 このへんから勇者コータがヤバい存在だと誰もが気付き始める。少し休憩。

 

 十一人目。コータの打ち込みに次ぐ打ち込みに耐え切れずに相手が転ぶ。起き上がったところを胴。一本。

 十二人目。胴を狙いに来た相手に正面から面。一本。

 十三人目。相手の剣先を叩き落とし、がら空きとなった頭へ面。一本。

 十四人目。リズミカルに面。一本。

 十五人目。つばぜり合いから、いったん距離を取るように見せかけて前進。胴。一本。


 いずれも軽症だが、負傷者が増えて対応しきれなくなる。

 まだ昼には少し早いが、昼食休憩。

 

 十六人目。ほぼ同時に剣を振り下ろす。面。一本。

 十七人目。相手が剣を下げたところを面。一本。

 十八人目。走り込み、一気に距離を詰めて、小手。一本。

 十九人目。盾を掲げる相手に対し、面のフェイントをかけてからの胴。一本。


「勇者コータ。まさかこれほどとは!」女帝アビゲイルが感嘆の声を上げる。

「これは……腕の立つ者、全員敗退の可能性が!?」副女帝エリザベスが焦る。


 二十人目。何度も何度も刃を交える。相手の気迫が物凄い。これはいけるのでは? と誰もが思った。しかし、一歩引いてから、流れるように繰り出されるコータの面。一本。

 

 ここでコータの要求で長時間の休憩。

 二十人目のヘイル隊長はどうやら偉い人だったらしい。自刃するとか言い出して扱いに困った。

 腕に覚えのある者、二十名を斬り倒した当の勇者コータは、当然の権利だと言わんばかりに爆睡していた。

 

 

 

 

「……ん? ああ、俺、寝てたのか。どのくらい寝てた?」


「昼からきっちり三刻だな。ようやく起きたか」


「あれ? アビゲイル様が鎧を着てる……遂にアビゲイル様直々にお相手してくれるのか?」


「そうだ。この軍用地にはもうまともな戦闘兵がいない。……私を除いてはな」


「じゃあ他から連れて来てよ。いくらでも待つから」


「そうもいくまい。現時点でのこの軍用地の長は私だ。賭けに乗ると言い出した私が相手をしなければ、部下に示しがつかぬ」


「うーん……そういうものなのか? マックス」


「いや僕に振られても分からん。一人で宣戦布告して勝つとか、前代未聞だから」


「よし! じゃあ、やりますか!」


 剣を構えるコータ。


 そして始まる、長きに渡って語り継がれるであろう戦闘。アビゲイルの腕から、一心不乱に繰り出された剣を、コータは紙一重で受け止める。つばぜり合い、そして距離を取ってからの一撃を、コータは剣の先端で受けて止める。

 

「くっ! ふざけていないで真面目にれ!」

「真面目なんだけどな……」


 再び、つばぜり合い。アビゲイルの振りかぶってからの猛烈な一撃に合わせ、勇者コータは前に飛び出す。勢い余って胴体がぶつかり、一瞬の隙ができる。そこを勇者コータは見逃さず、離れつつの胴。一本。


 ひざをつき、脇腹を押さえてうずくまる金の長髪のアビゲイルに、銀髪ショートカットのエリザベスが駆け寄る。絵になる光景だ。


「アビゲイルお姉様! こんな屈辱はありません! 今すぐ勇者コータを捕らえ、八つ裂きにして火にくべて……」


「いや、エリザベス。よいのだ……」


 頭を振って、言葉を捜すアビゲイル。その瞳は涙に濡れ、頬は紅潮している。


「勇者コータ。この世にこんなに強い男がいるとは思わなかった! どうかこの私と結婚して、この国の皇帝になってはくれまいか!」


「「「え?」」」エリザベスと僕マックス、そして周囲にいた兵士たちが全員固まる。


「え? いや、俺、もうフラーウムっていう嫁がいるし……」


「この際、正妻とは言わん。側室でもかまわん!」


「「「一夫多妻!?」」」全員が唱和する。


「それも法律上難しいんだけど……」


「法律の一つや二つ、皇帝になったついでに元号ごと変えればいいだろう!」


「「「元号ごと!?」」」再び全員が唱和する。


「いや色々と事情があって無理……というか何この流れ……俺、勝ったのにすっごい責められてる気がするんだけど……」


「や、やはり目的はラヴィッシュ帝国をアーランドの属州とすることですか。男は殺し、女子供は全て奴隷にする……。汚い……さすがアーランド王国の手先、汚い……」


 アビゲイルの隣にいるエリザベスが涙を流して思いっきり勘違いしている。

 いや目的はどう考えても和平の実現だろう。コータが既婚だからって険悪なムードを醸成してどうする。考えろ、考えろ、考えろマックス。このままだと良くて殺される。悪くても殺される。苦し紛れの提案に賭けるしかない。


「えーっと、じゃあこうしよう!」僕は言ってやった。


「コータを助けに、コータの兄ソータが来るらしいから、そっちとお見合いするってことで……」


「兄は未婚なのか? よし、分かった、今から見合いと婚礼の準備を進める!」


「ア、アビゲイルお姉様正気に戻ってーーー!」副女帝エリザベスの絶叫が、どこまでも響いていた。

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