確かなもの
20年来の親友との出逢いを題材に書いてみました。
BL要素もいれても良かったですが、それはまた次の機会という事で(笑)
四月、僕は今日から新しい世界の人になる。
黒く光るピカピカしたものを背負って、自分より背丈の高い人の隣をあるく。
その場所の、僕の隣。
その子との出逢いが始まりなのかな。
「で、何やってんの?」
授業中からひたすらに俺は絵を描いていた。
絵と言っても漫画というか、ただの落書きだけど。
俺に声をかけてきた人物は友人の聡一郎。
小学校以来からの付き合いで今にいたる、いわゆる腐れ縁というやつだ。
「また落書きか?お前も好きだねぇ」
呆れ顔の友人を前に、俺は別段気にはしなかった。授業、というか……勉強なんて好きじゃないし、かといって好きな事があるわけでもない。
何かに打ち込むって事がない俺は、その時その場をただ適当に生きていた。恐らく、これからもそうしていくのだと思う。
「聡、お前今日も部活なんだろ」
「そうだな。なんならお前も入るか?」
「……遠慮しておく」
「そっか」
聡一郎が入っている部活は軽音楽部。
吹奏楽部と何が違うか最初の頃は分からなかったけど、それは直ぐに理解出来るようなった。
ようはバンド活動である。
聡一郎はギターを担当していて、同じ学年にベースが一人。
ヴォーカル、ドラム、キーボードが三年の先輩で構成されている。文化祭ともなれば一躍スターダムにのし上がる我が高校の名物なわけだ。
一年の後輩も居るには居るのだが、やはり経験が浅い者もいる為、今はひたすらに練習に練習を重ねているのだとか。
俺には真似出来ないね。
実を言うと、俺の部屋にもギターが置いてある。
俺がギターを初めて手にしたのが中学一年の時。
この時に音楽教室にでも通っていたのなら、また違った道を歩んでいたのかもしれないけど。
どうも自主的にやろうって気にはなれない。むしろ何をどうすればいいか解らないというのが正解だったと思う。
「へぇ、ギターあるじゃん。俺もやろうかな」
中学に上がりたての俺達は毎日のように一緒にいた。
俺の部屋でギターを見た聡一郎が同じようにギターを持ったのはそれから半年後。
俺は違う事に気持ちを向けていて、まさか聡一郎がこんなにギターに対し、音楽に対し本気になるなんて思ってもいなかった。
放課後。
学校でダラダラと漫画を読んだりしていたら完全下校時間になっていた。
アイツの部活もそろそろ終わる頃かなとメールしてみた。
『暇ならカラオケ行こう』
返信は昇降口辺りで届いた。
『了解』
いつからか分からない。
アイツの第一印象は「変な奴」だった。
勉強は出来ない、何をやらしてもすぐ飽きる。でも、好きな事を見付けてやってる時の集中力は凄かったと今でも思う。
確かに俺はアイツよりは何でも、というか……そもそも平均的になんでも出来る。
ただ唯一、アイツが熱中しだしたモノに関しては上回った試しがない。
中学一年のある日の事、アイツの家でギターを見付けた。
ふと、脳裏をよぎる。
初めてギターを持って八年間。
必死に練習したり、自分に出来る事はやったつもりだった。スタジオミュージシャンという立場ではあるが、一応の音楽事務所にも所属した。
「夢叶ったじゃん」
アイツはいつもと変わらず笑顔で祝ってくれた。
自分の抱えてる事を表に出さず、心の弱さを魅せず、そんな綱渡りみたいな危ない奴。
俺が音楽を捨てて結婚すると言った時、アイツは初めて俺を否定した。
唯一、アイツだけが面と向かって言ってきた。
人生なんてくだらねェ、今自分が抱いた感情や意識なんてもんは簡単に消えるもんだと思う。
どんなに幸せだと感じた事でさえ、馴れてしまえばどうという事はない。
経験すればするほどに歪になってくナニカを感じながら、別に消えるならさっさと消えないかななんて事を思う事もしばしば。
未練?そんなもんは幻想だろうと、自分に言い聞かせる。
それはどこか諦めのような、不確かなものばかりの景色に俺が見たもの、感じた事なのかもしれない。
子供が産まれて、俺の何かが変わった。いや、変わっていった。
愛しいと思う。
本気の言葉で、あの時と同じように笑顔を向けてくれるアイツがいる。
例えばどんな不条理でも、これだけは自信がある。
最初から思ってたけど、やっぱり変な奴。それでも……
『アイツとの絆は、確かに存在する』
語り尽くせばきりがないぐらいに思い出があります。
一番結婚しなさそうな奴だったんですが、一番先に結婚しましたね。
こんな友人を持てて幸せかなと、ちょっとだけ思います。
ほんのちょっとだけですが。