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Ozの魔法使いと剣士と脚本家と  作者: めがね
1章 始まり - 覚醒からコントロールまで
4/4

俺とアリカと恐怖の夜と

「その様子だと、やはり自覚なしですか。」


 前回不正アクセスの犯人。つまりはデータ改ざんの犯人にさせられたアリカ。

 こいつは自分から進んで女になる道を選んだとは考えにくい。

 そう考えると、外部からの改ざんの線が濃厚だが・・・


「アリカさんがサーバー最深部にアクセスして改ざんした形跡が残っています。」

 樽田はウィンドウを俺達に突きつける。

 ですが。と続けて、

「僕もアリカさんが犯人だとは思っていません。第一、アカウント情報を改ざんするには、現実世界の本部のサーバールームからアクセスしないといけません。アリカさんはここ数日間ログアウトしていませんので、不可能でしょう。まぁ、別の方法があれば話は別ですが。」

 そう言って今は誰もいない社長室を軽く覗いてから、新しくウインドウを開く。

「今日の早朝4:36にアカウント情報の書き換え行為があったことが確認できます。この2分前に不正なアクセスがあるので、間違いなくこの時に女性化してますね。」




「ストーリーテラーという名前にご存知ないですか?」

 突然別の話をされても困るんだが・・・

「確か・・・話をするのが上手い人という意味だったか」

「その通りです、ナイトさん。Wikipediaによると『「語り部」にあたる役割。転じて、話の上手な人物、話の運びの上手い小説家・脚本家を意味する。』とあります。」

 それが?何か関係あるのだろうか。

「アリカさんはアクセス時、『ストーリーテラー』という言葉を残しています。おそらくこれが何かしらのヒントになるのではないでしょうか。」




 しばらくの沈黙。正直展開が急すぎるもんで、頭の中がごちゃごちゃしている。アリカなんか、犯人扱いされた件から一言も喋っていない。

 なんて珍しくシリアスな雰囲気になってたんだが、あっという間にぶち壊された。


「やっほぉぉぉ!アリカちゃんずいぶんとかわいくなっちゃって」

 突然アリカに抱きつき頬をすりすりする謎の女。時雨が飛び込んできたのだ。

「・・・しぐさん?殴るよ」

 アリカのマジなトーンに時雨は両手を上げ降伏のポーズをとる。

 アリカが気を抜いたその瞬間。怪しく時雨の目が光った。そして、そうと思ったときには、アリカは時雨に担がれそのままどこかへ連れ去られていった。

 南無。



 肝心な奴がいなくなったので、その隙に少し俺は部屋で休ませてもらうかな。

 と、部屋を出ようとしたその時、樽田が引き止める。

「ナイトさんは体に異常はありませんか?」

「いや、特にはないが。どうかしたのか?」

 すると樽田は、だったらいいです。となんともまぁ微妙な返事。

 俺は腑に落ちないまま部屋を後にした。






 端末の着信音で目を覚ました。

 ついつい寝てしまったのか。なんて思いながら応答する。

 発信相手は・・・樽田だ。

『バグが観測されました。今回のは大きめなので、すぐに向かってください。あと、通話はそのままで。』

 了解。と応え、部屋を出る。



 玄関ロビーに時雨。なにか企んでる目をしている。

 隣にいるのは?

 ・・・

 一瞬わからなかったが、アリカで間違いなさそうだ。

 ブーツとかミニスカートとか。非常に女らしい格好をしている・・・いや、させられていることにツッコんだほうがいいんだろうか。

 というか、ものすごく丈の短いスカートを両手で抑えるその格好。かわいいっす!

「かわいいでしょ~♡ってかホントに隅々まで女の子になってるんだね。おどろき~」

 時雨のその言葉に顔を赤くするアリカ。

 隅々・・・だと・・・

 俺の妄想が一瞬で展開・・・ゲフンゲフン。



 そんな場合じゃない。アリカの手を取り、無理やり外へ連れ出す。話は歩きながらだ。

『場所はボア・エスペランサから北に20km。戦闘区域なので、クリエイティブモードの使用を許可します。』

 了解。と伝え、アニメイド本店従業員控え室の奥のロッカールーム。ボア・エスペランサと汚い俺の字で書かれたロッカーに入る。





 みんなお待ちかね!ナイトくんのOz解説コーナだよっ!

 今日は戦闘区域について、今日は説明しよう。

 Ozの仮想空間は、安全に人が暮らせる非戦闘区域とモンスターが現れる戦闘区域に分けられる。

 人が住む様になった以上、絶対安全と言える場所は当然必要になったからな。まぁ戦闘区域に街を作って、スリルのある生活を営む人々もいるんだが・・・

 ということで、社長はリアリティがコンセプトなこのゲームに、現実(リアル)な部分と現実と幻想(リアルとファンタジー)の共存した部分の2つに分けた。というわけだ。

 ・・・・・・これが最期の仕事だったのは、話が重くなるので詳しくは話さないでおく。


 んで、俺たち運営は戦闘区域で作業する時、モンスターに襲われる危険がある。そこでクリエイティブモード。

 いちいち本部で許可を取らなきゃいけないんだが効果は絶大で、適応中はモンスターに襲われなくなる。

 これからの俺たちのように、モンスターのド真ん中でキーボードを叩き続けるには、必要不可欠なモードだ。

 以上解説コーナーでした。





 場所は移り変わって、夜の砂漠のど真ん中。

 途中、二足歩行の大きな獣ワーウルフとすれ違った。襲ってこないとわかっていても怖いものは怖い。

 未だに震える指をなんとか押さえつけながら、作業を始める。


 まずはバグってる箇所のアドレスとバックアップとを比較。意外とこれが時間がかかったりするもんだ。

 自動で行われる作業の完了をまったりと待っていると、遠くの方から先ほど見かけたワーウルフが近づいてくる。

 さっきとは明らかに様子が違う。

 なんというか、おもいっきり俺達の方を向いている。

 まさかとは思いつつ、アリカに注意を促し一歩下がる。

 獣との距離はゆっくりと、しかし確実に狭まってきている。

 その差5mほど。

 その時。


 ワーウルフは飛びかかってきた。

 慌てて俺たちは身を屈め、回避をする。

 俺たちの頭上を通り越したそれは、一直線にバグの塊へ突っ込んでいく。

 雄叫びと共にバグを飲み込む。




 ・・・沈黙。

 だがそれは長くは続かず、先ほどと比べものにならないほど大きな雄叫びを上げる。

 それと同時に、体内構造の変化が起こる。

 ワーウルフにセットしたバイナリエディタは激しく内部データの変化を示している。

 最後の書き換えが終わった頃には、白かった毛はところどころ黒く、身体も二回りほど大きくなっていた。


 ゴゴ・・・ギガガギゴゴッ!

 雄叫びとは程遠い音が口から発せられる。

 機械音というか、エフェクターで声が変えられているようなその音に思わず恐怖心を抱く。

「くそっ!こうなりゃ・・・戦うぞ!」


 ワーウルフは、古参プレイヤーですら気のぬくことができない程かなりの強敵。

 だが、超がつくほどやり込んでる俺達なら楽勝だ。

 伊達に全職業マスターしてねぇぜ。

 スキルをうまく組み合わせて戦えば、いくらバグって強くなったってやれないことはないはずだ。



 ・・・



 ちっ・・・

 まるっきり歯が立たねぇ。

 最も強い刃物と言われている刀で傷すら付けられない。

 斬鉄剣の刃もこぼれ、俺の持っている剣はすべて使い物にならなくなってしまっていた。


「ナイト!ダメだ。本部に連絡つかない・・・」

 アリカを後ろに下げ応援を呼ぶよう言ったが、それも無駄だったようだ。

「俺も戦う!」

 勢い良く飛び出したアリカの腕をつかむ。

「離せっ!くそっ」

 アリカは必死に振り払おうとする。が。

「こんなに力弱くなってるじゃねぇか。そんなお前が拳ひとつで戦えるわけ無いだろ」

 舌打ちをするアリカの腕を離す。

「お前は本部へ行って直接呼んでこい」

 アリカはうつむき、諦めたようにつぶやく。

「わかった・・・戻ってくるまで、絶対に死ぬなよ」

「バカ。この世界じゃ死なねぇよ。知ってるだろ」

 でも・・・・・・いや、何でもない。

 そう言うと俺に背を向け走っていった。


 お前の言いたいことはわかってる。この敵は普通じゃない。負けたらおそらく死ぬことになるだろう。

 でも、男にはやらなきゃいけない時があるんだ。




 ・・・

 ここまでの俺カッコイイな。普段からこんな事やってれば女子にモテるんだろうか。


 そんなことを考えていると、爪が襲いかかってきた。

 あっぶねぇ!ふざけてる場合じゃなかった。

 ボロボロになった刀をつかみ、身を守る。

 爪から身を守れたが、勢いで大きく吹き飛ぶ。

 体勢を立て直す暇もなく、次の攻撃が飛んでくる。

 急所だけは外さないと・・・

 腕で防御・・・間に合わないっ!

 腹部に強い痛みが走る。

 さらなる追撃を避けるため、獣から距離をとる。


 血が止まらない・・・思考もできなくなってきた。

 ここは砂漠の真ん中。隠れる場所すらない。

 何か手はないか。考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。

 ダメだ・・・考えようと考える事でいっぱいいっぱいになってる。

 ・・・・・・落ち着け。そして考えろ。



 その時ワーウルフの攻撃が来る。

 一歩下がる。ぎりぎりで避け、次の攻撃は右にステップ。

 くっ!

 傷口から更に血があふれる。

 やばい。足が止まる。

 回避が遅れ・・・

 その瞬間、左肩に爪が刺さった。


 激痛に意識が飛びそうになる。

 耐えろ。ここで気を失うわけにはいかない。


 地面に倒れこむ勢いで爪を引きぬく。

 さらなる痛み。

 だが我慢しろ。そして走れ。

 ワーウルフに背を向け逃げる。

 戦闘中背中を見せることは、負けを意味すると聞いたことあるが、今はそれどころじゃない。



 10m程は離れただろうか。振り返る。

 目の前に白地に黒の斑点が見えたその時、左頬に衝撃を受けた。


 砂地に顔面から着陸。

 首が折れていないだけラッキーだったか。

 でももう無理だな。足が震えて立つこともできない。



 死の直前に視界がスローになる。というのはよく聞く話だが、俺の場合は逆だった。

 突然視界の端から出てきた影が、俺とワーウルフの間に割って入り、ワーウルフのみぞおちに拳を入れた。

「あれ。マジで効かねぇの?」

 だが、ワーウルフは3歩ほど下がった。


「ごめん。言いつけ守らなかった。あっ。でも本部には連絡ついたから大丈夫」

 俺の方を振り返って、親指を立てるアリカ。

 だが、その笑顔は俺の目の前から一瞬で消え去ることになった。


「アリカっ!」

 砂煙が巻き起こって何も見えない。

 駆け寄ろうとするが、足が動かない。


 地面でもがく俺に見えたのは、ゆっくりと俺に近づく獣。

 もう・・・死ぬっ!




 突然ワーウルフが悶えた。

 右の肩に白いものが突き刺さっている。見た感じ剣・・・に見えるが、なんか光っている。

 おそらくそれが飛んできただろう方向には、アリカが飛ばされた砂煙がある。


 煙の中をよく見ると人影が見える。

 まさかと思ったが、そこから出てきたのはアリカ。

 しかし様子が違う。

 両手には本。そして両足は地面から離れ、こちらに近づいてくる。

 〈緊急時のため、モード:テラーを起動します。〉

 アリカの声だが、明らかにそうではない声が聞こえたかと思ったその時。

 本が一瞬光り、アリカの周囲にさっきの光の剣が数十個。それらは一直線に獣に突き刺さる。



 ワーウルフは完全に沈黙した。

 〈脅威の回避に成功。モード:テラーを終了します。〉


「アリカっ!」

 電池が切れたかのようにアリカは落ちる。

 俺は這うようにアリカに駆け寄る。


 ・・・・・・zzz

 なんだ・・・気を失っただけか。

 ほっとしたら俺も意識が・・・





 はぁ。でかい口叩いておきながら助けられるなんて。俺マジでダセェ。

 無力な自分に苛立ちを感じながら、俺の長い夜は明けた。

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