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2度目の人生は織田信照  作者: 津島陣


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1/1

プロローグ:魔王の弟は、数年後に詰む。

結論から言おう。 


俺は、あの『織田信長』の弟に転生した。


「おいおいおい、嘘だろ……?」 


中根南城の板張りの一室で、俺――織田信照は、自分の小さな手のひらを見つめながら絶望の声を漏らしていた。


 前世の俺は、中堅ゼネコンで牙を研いでいたしがない土木施工管理技士(一級土木施工管理技士持ち)だった。


深夜までの残業と泥まみれの現場仕事に追われ、気づけばサウナ帰りの脳溢血でぽっくり逝った、典型的な現代の社畜だ。 


それがどういうわけか、目を覚ますと戦国時代。


それも尾張の大爆弾、織田家の血筋に生まれ変わっていた。


これだけなら「勝ち組異世界転生じゃん!」と狂喜乱舞するところだ。 


だが、問題はその『名前』と『立地』である。


「なんで信勝でも長益(有楽斎)でもなく……信照なんだよ……!」 


歴史オタクだった俺は知っている。 


織田信照。またの名を中根南城守。 


織田信秀の十一男(諸説あり)にして、信長の庶弟。 


一言で言えば、【超マイナー武将】である。


どれくらいマイナーかというと、後世の歴史シミュレーションゲームでは登場すら怪しく、登場しても全ステータスが30〜40台の「とりあえず数合わせで置かれた一門」扱い。 


しかも彼の歩む史実、悲惨の一言に尽きる。  


現在、俺が与えられているこの『中根南城』は数年後、知多半島の大野城主である佐治氏に攻め落とされて奪われる。 


城を失った俺は、信長の次男である織田信雄(あの、三代暗君筆頭と言われる信雄だ)の家臣に身を落とし、最後は歴史の闇に消えるか、あるいは処刑されるというクソゲー仕様の運命が待っているのだ。


現在、永禄年間。 兄・信長は桶狭間で今川義元を討ち取り、まさに天下へ向けて爆進を開始したところ。 


つまり、俺が城を枕に討ち死にするか、あるいはすべてを失って放浪する「タイムリミット」は、すぐそこまで迫っている。


「冗談じゃねえ。せっかく二度目の人生を貰ったんだ。織田信雄のパシリになって、戦国ニートのまま使い潰されてたまるか……!」 


生き残る。何が何でも生き残ってやる。


だが、俺には武田信玄のような軍才も、明智光秀のような智謀もない。


剣術の才能? さっき木刀を振ったら、三回でギックリ腰になりかけた。 


じゃあ、俺にあるものは何か? それは、前世で泥をすすりながら叩き込まれた、現代日本の『国家資格』と『土木技術チート』だ。


「……待てよ。中根南城の立地って、実は最悪に見えて『最強』じゃないか?」 


俺は部屋に広げられた、粗末な尾張の絵図面を凝視した。


中根南城があるのは、現代で言う名古屋市瑞穂区のあたり。 


西には熱田神宮と伊勢湾へ続く海路があり、東には三河へと繋がる街道がある。 


つまり、流通の要所中の要所。


ただ、今の時代は「ただの寂れた小城」だから、佐治氏のような周辺勢力に目を付けられて簡単に奪われるのだ。 


だったら、話は簡単だ。


「奪われる前に、誰も奪おうと思えないレベルの『要塞』に作り変えればいい」


 戦国時代の城なんて、基本はただの土塁と、ちょっとした木柵の集まりだ。 


そこに、現代の測量技術、排水計画、そして土質工学を持ち込んだらどうなる?   


ただの土を、コンクリート並みに強固な構造物に変え、攻めてきた敵が絶望するようなトラップだらけの迷宮を構築したらどうなる?


「やってやる。まずは三和土の応用で即席コンクリートの調合だ。それから、城下に効率的な排水溝を掘って、衛生環境を改善しつつ、敵を誘導する堀を作る……!」  


社畜時代、鬼所長に「工期が遅れてるぞ!」と怒鳴られながら、不眠不休でバイパス道路やダムの基礎を造り上げてきた俺の『現場魂』が、数百年先の過去で激しく燃え上がっていた。 


歴史の表舞台に立つ必要はない。


 兄・信長が天下を統一するその日まで、この中根南城を「絶対に落ちない鉄壁の引きこもりシェルター」にして、現代知識でがっぽり金を稼ぎ、美味いものを食って天寿を全うしてやる。


「殿! 殿ーーーっ!」 


その時、部屋の障子が勢いよく開いた。 


息を荒くして飛び込んできたのは、俺の数少ない近習の少年だ。 


「何事じゃ、騒々しい」


「は、早馬にございます! 清洲城の、信長様より直々の上意が……っ!」


「……兄上から?」 


嫌な予感が頭をよぎる。 


差し出された書状をひったくるように開き、目を通した俺は、思わず目玉が飛び出そうになった。


『追って沙汰する。知多の佐治が怪しき動きあり。

信照、速やかに大野城への備えを固めよ。もし城を落とされたならば、我が手で貴様の首を刎ねる』


「……工期が前倒しになってんじゃねえか!!」


まだコンクリートの材料すら集まっていない。 


だが、泣き言を言っている暇はなかった。   


やらなければ、佐治に殺されるか、魔王である兄に処刑されるかの二択。


「おい、領内の人足を全員集めろ! これより、中根南城の大改修工事を行う! 突貫工事の始まりだ!!」  


こうして、歴史の裏側に隠れた織田家の泥臭い天才(元ゼネコン社畜)による、戦国時代を揺るがす「要塞都市化計画」の幕が開いたのだった。

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