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霧島百万両始末記  作者: 水前寺鯉太郎


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新分類『チャバコ』誕生!


 【霧島城・庭の仮設小屋——昼】

 晴れ渡った昼下がり。

 孝四郎の仕事場である仮設小屋に、霧島藩の幹部(?)たちが集められていた。

 腕を組んで不機嫌そうに佇む鷹之介。懐の胃薬を握りしめる惣兵衛。そして、冷めた目で見守るおりん。その中心に、孝四郎と、お盆を持ったお鶴が立っている。

「……それで。わざわざ全員を呼び出して、何の用だ、孝四郎」

 鷹之介が、眉間に皺を寄せて問い詰めた。工場の生産管理で忙しい彼にとって、昼間の呼び出しは時間のロスでしかない。

「おう。新商品ができたから、みんなに試喫しきつしてもらおうと思ってよ」

 孝四郎がにっと笑い、お鶴に目配せをする。お鶴は緊張した面持ちで、盆の上の煙管を三人に差し出した。

「お茶の、匂い……?」

 おりんが鼻をひくつかせた。

「ただのお茶じゃねえ。知覧のお茶と、霧島のタバコ葉を絶妙な火加減で混ぜ合わせた、全く新しい吸い物だ。新しい分類の名前は……**『チャバコ』**って呼ぶことにした」

「ちゃ、チャバコ……!?」

 惣兵衛が、その突飛な響きに目を白黒させた。

「ふん。お茶とタバコを混ぜるなど、邪道もいいところだ。そんな職人の思いつきが、武家の、いや、商売の役に立つものか」

 鷹之介が鼻で笑い、差し出された煙管を受け取った。

「文句を言うなら、吸ってからにしなせえ。ほら、火をつけるぜ」

 孝四郎が火打ち石を叩く。三人が同時に、煙管を吸い込んだ。

 静寂が、仮設小屋を支配する。

 最初に反応したのは、おりんだった。

「……何これ。タバコの煙なのに、喉がイガイガしない。お茶の香りが、すぅっと鼻に抜けて……すごく、落ち着く」

「美味い……美味すぎる……!」

 惣兵衛が、震える手で煙管を握りしめた。

「お茶の清涼感が、タバコの苦味を上品に変えておる。これなら、お茶の席を好むお公家様や、タバコを煙たがるお武家様、果ては女子おなごまで、誰でも美味しく吸える! 大発明でございますぞ、殿!」

「……っ!」

 そして鷹之介は、言葉を失っていた。

 プライドの塊である彼が、何も言えずに、ただ二口目、三口目と煙を吸い込んでいる。それが、何よりの「肯定」だった。

「どうだ、鷹之介さん」

 孝四郎が、からかうように覗き込む。

「……認めん。認めんぞ、私は……!」

 鷹之介は顔を真っ赤にしながら、煙管を握りしめた。

「だが、悔しいが……この『チャバコ』とやらは、タバコを吸わなかった新しい層を根こそぎ顧客にするポテンシャルがある。武家や公家、さらには大奥おおおくまで、この香りに魅了される者は少なくないだろう。……チッ、また貴様の思いつきに、市場がひっくり返されるのか!」

 ツンデレ全開の絶賛に、お鶴の顔がパッと輝いた。

「よかった……! お茶の配合、間違ってなかったんですね!」

 その様子を、仮設小屋の物陰から、じっと見つめる影があった。

 知覧藩の使者——宮地紋太夫である。

 宮地は、お鶴が霧島藩の連中と楽しげに笑い合い、自分たちの知覧茶を使った新商品『チャバコ』を誇らしげに語る姿を見て、額に青筋を立てていた。

「おのれ、孝四郎……。我が知覧の至宝であるお茶を、タバコのクズ葉と混ぜて、新ジャンルなどと……!」

 だが、老獪な家老である宮地は、同時にその『チャバコ』がもたらす天文学的な利益の匂いも、敏感に嗅ぎ取っていた。

「……お鶴。製法を盗むだけでは、もう足りん。この『チャバコ』の利権、知覧藩が丸ごと乗っ取ってくれるわ」

 夕暮れの風が、知覧の家老の冷ややかな笑みを乗せて、城下へと吹き抜けていった。

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