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霧島百万両始末記  作者: 水前寺鯉太郎


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「青き光の下での誓い」


 【泥沼城 天守閣——夜】

 江戸の街へと続く「瓦斯(ガス)の道」を眺める孝四郎の背後に、静かな足音がした。

 振り返ると、そこには江戸の喧騒を離れ、泥沼の地で一息ついたお鶴が、出来立ての茶を盆に乗せて立っていた。

「……お疲れ様でした、孝四郎様。霧島の茶葉を、この地の湧き水で淹れました。少し、癖はありますが……」

「へえ、ありがてえ。お鶴ちゃんの淹れる茶が、一番落ち着くよ」

 孝四郎は茶を啜り、ふぅと息を吐くと、懐から「皆済状」とは別の、小さな包みを取り出した。

 中に入っていたのは、泥沼のガラス職人と作り上げた、瓦斯の炎のように青く透き通る、見たこともない細工の指輪だった。

「お鶴ちゃん。……あっしは職人だ。壊れたもんは直せるが、人の心ってやつを繋ぎ止めるすべは、これといって持ち合わせちゃいねえ」

 孝四郎は少し照れくさそうに頭を掻き、真っ直ぐにお鶴を見つめた。

「だが、あんたが隣にいてくれねえと、どうもこの『十万石の城』ってやつは、広すぎて落ち着かねえ。……これからも、あっしの隣でお茶を淹れてくれないか。……殿様としてじゃねえ、一人の職人として、あんたを一生、守らせてほしいんだ」

 お鶴の目から、大粒の涙が溢れた。

 スパイとして送り込まれ、一度は死を覚悟した自分を、この男は「一人の人間」として、そして「唯一のパートナー」として受け入れてくれた。

「……はい。孝四郎様。どこまでも、この光の続く限り……お供いたします」

 二人の頭上には、影牢が点火したばかりの、城内で最も明るいガス灯が灯った。

 その光は、かつての貧乏長屋の職人と、孤独だった女隠密の未来を、昼間のように明るく、そして温かく照らしていた。

 【数日後・婚礼の儀】

 「殿! 婚礼の予算が、また瓦斯管(ガスかん)三本分もオーバーしております!」と叫ぶ惣兵衛。

 「まったく、仕方のない殿様だわ」と笑うおりん。

 そして、「……似合っているぞ、孝四郎」と、柄にもなく鼻を啜る鷹之介。

 泥沼に咲いた、最高に「粋」で「幸福」な光のパレード。

 霧島百万両の伝説は、ここに最高の「結び」を迎えた。

 『霧島百万両始末記』——完。

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