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ゆるふわニーナちゃんの雑貨屋~商いしていただけなのに、人類に敵認定されちゃいました~  作者: なすちー


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2/10

2 ワンちゃんと冒険者

新作です!

よろしくお願いします。

こちらは勘違い系のファンタジーコメディとなります。

色々な種族との掛け合いをお楽しみください。

 デュラハンのハンナさんを見送ったあと、私は気分転換に外へ出た。 扉を抜けると、心地よい太陽の日差しが降り注いでくる。私は大きく背伸びをした。


「ん~……ふわぁ……。気持ちのいい天気ねー」


 天に向かって両手を思い切り伸ばし、すがすがしい気持ちで周囲を軽く散策する。

あたり一面を柔らかな草原が覆い、ところどころに木々が佇む開けた土地だ。

ここが戦争の最前線だなんて、誰が信じるだろう。それほどまでに、この場所には心地よい静けさが満ちている。


「今日も平和ねー」


 防具のセットが売れたホクホク感も手伝って、私は上機嫌で独り言をこぼす。




 ――ニーナ雑貨店から五キロメートルほど離れた場所では、二人の男女が声を潜めていた。


「ターゲットを補足した。……()るか?」


 巨大な弓を携えた男が、矢をつがえながら相方の女に問いかける。


「いいえ、まだ様子を見ましょう」


 女が短く応える。 二人は身軽な冒険者風の装いで、茂みに深く身を潜めながら、遠くの様子をじっとうかがっていた。


「……見た感じは、どこにでもいそうな可愛らしいお嬢ちゃんなんだけどなぁ」


 男が拍子抜けしたようにぼやく。しかし、女は険しい表情を崩さない。


「油断しないで。見たでしょ? あの魔王軍きっての猛将、軍団長ハンナが指一本触れずに店を出てきたのよ。何か恐ろしい悪魔の契約を交わしたのか……あるいは、あの子自身が魔王軍の隠された幹部という可能性だって……」


 女は真剣な眼差しで、その脅威を見据えていた。


「バカを言え、そんなわけないだろう。人に擬態している魔族のようにも見えなかったぞ。ほら、今だってまったく警戒せずにそこらへんをうろついてるじゃないか」


 男が呆れたように言うが、女は首を振った。


「それこそが奴の狙いかもしれないのよ! 私たちを油断させておびき寄せて……一気に殺す。それに、この雑貨屋に足を踏み入れた者は二度と生きて帰れないっていう噂、あなたも聞いたでしょう?」


「……普通に商品を買って帰ったやつもいるって話だぞ。たしか、聖女様とかもそうだったはずだが?」


「それこそ魔族側が流したデマに決まってるでしょ!」


「極論すぎるだろ……」


 二人の会話は、収拾がつかないほどヒートアップしていく。



「「しまった……」


 議論に熱が入りすぎた。気がつけば、ターゲットの少女はのんびりと雑貨屋の中に戻ってしまっていた。


「……私が、あの店ごと魔法で吹き飛ばしてみようか?」


 物騒な提案をする女に、男は慌てて首を横に振った。


「やめとけ。あの店は『不壊』だって噂だぞ。文字通り破壊不能。どんな勇者の斬撃も、賢者の大魔術も通用しないらしい。それに、そんな派手な真似をしてみろ。魔族に居場所がバレて、こっちが袋叩きだ」


「……わかったわよ」


 女は不満そうに唇を噛み、再び茂みから店の観察を続けた。



 気持ちの良い日向ぼっこを終えて、私は雑貨屋の中へと戻ってきた。


 さて、さっき売れた鋼鉄製の防具一式、在庫を補充しておかないとダメかな。

うーん、でも補充するなら、他の足りないものもまとめて注文しちゃいたいよね。

残りの在庫がいくつか売れてからでもいいかなあ……。


カウンターの奥でそんな仕入れの悩みにふけっていた、その時だった。



 突如として、何もない空間がガラスのようにひび割れた。

その裂け目から這い出してきたのは、二つの凶悪な頭部を持つ巨大な獣だ。大型犬を二回りほど大きくしたような体躯に、尾の先は生きた蛇の頭になっている。


「グルルル……」「ガルルル……」


 二つの頭が、それぞれ周囲を威嚇するように低く唸った。


 私はその巨大な魔物に向かって、腰に手を当てて言い放った。


「こらっ、オルちゃん! いきなりお店の中に湧いてこないでって言ってるでしょ。ちゃんとお行儀よく扉から入りなさいって、前にも教えたよね?」


『オルちゃん』と呼ばれた双頭の魔物は、私に叱られた瞬間、先ほどまでの凶暴さが嘘のように消え去った。蛇の頭をした尻尾までもが力なくうなだれ、文字通りシュンと落ち込んでいる。


「クゥン……」「キャウン……」


 さっきの威勢はどこへやら。二つの頭は情けない声を漏らしながら、揃って床に伏せてしまった。


 はぁー、もう……。


 この子はオルちゃん。少し外見が個性的だけど、とっても可愛らしい大きなワンちゃんだ。 以前、お店の棚に並んでいたペット用おやつの『テュール』をあげたら、すっかり懐かれてしまった。それ以来、こうして時々遊びにやってくる。


「いい? 次からはちゃんと扉から入ってくるのよ。わかった?」


 私が言い聞かせながら、テュールを一粒ずつ放り投げる。 右の頭がパクっと食べれば、左の頭も急かさずお行儀よく待って、次の一粒をパクり。二つの頭は喧嘩することもなく、実に仲睦まじくおやつを楽しんでいる。


「ワウン!」「ガウッ!」


 蛇の尻尾をちぎれんばかりにぶんぶん振り回して、 ひとしきりおやつを堪能して満足したのか、オルちゃんは今度こそお行儀よく扉から外へ出ると、空間の歪みの中に消えていった。


「もう……現金なワンちゃんなんだから」


私はオルちゃんを見送り、さて在庫補充はどうしようかな、と再び考えに(ふけ)った。




――再び、ニーナ雑貨店から数キロ離れた観測地点。


「なっ……! おい、見たか今の!」

 男が顔を引きつらせ、驚愕に目を見開いて相方に詰め寄る。


「ええ、信じられないわ……あれは伝説の魔獣、オルトロスじゃない」

女も声を震わせながら、震える手で望遠鏡を握りしめていた。


「あのお嬢ちゃん、魔獣をあそこまで手懐けるとは……凄腕のビーストマスターか何かなのか?」


「そうに決まってるわ。見てなさい、今の光景。本国に即刻報告して、あの雑貨店の脅威度をさらに引き上げる必要があるわ」


 女は戦慄しながら、手帳に特級警戒対象と力強く書き殴った。


「ああ、ここは一度退いてギルドに報告だ。今の我々の戦力では、逆立ちしたって太刀打ちできそうにない」


 二人は息を殺しながら、静かに、必死の形相でその場を去っていった。



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