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ゆるふわニーナちゃんの雑貨屋~商いしていただけなのに、人類に敵認定されちゃいました~  作者: なすちー


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1/12

1 ニーナ雑貨屋とデュラハンさん

新作です!

よろしくお願いします。

こちらは勘違い系のファンタジーコメディとなります。

次話 18時頃更新しますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

 人族と魔族は、果てしない領土争いを続けている。 緩衝地帯は日々、血と灰に塗れ、誰も勝てず、誰も終わらせることのできない泥沼の戦場と化していた。


 そんな荒れ地の片隅に、ぽつんと一軒の雑貨屋が佇んでいる。 屋号は、『ニーナ雑貨店』。


 ここでは人族も魔族も、等しく同じカウンターに立つ。 剣を抜く者も、呪いを放つ者もいない。 ただ、種族を問わず「いらっしゃいませー」という、どこか間延びした柔らかい声が響くだけだ。


 戦場からわずか数十キロメートル。そこは、世界で最も奇妙な中立地帯。 今日もまた、古びた扉が重苦しい音を立てて開いた。


 ガシャン! と重苦しい金属音を立てて扉が開いた。 現れたのは、頭の先から足の先まで隙間なく鎧で固めた、絵に描いたような全身鎧の人物だ。


「ここか。相手を選ばず商売をするという、人族の店は」

 兜の奥から響く声が、こちらを威圧するように向けられる。


「いらっしゃいませー。今日は何をお探しですかー?」

 私はどこか間延びした、それでいて親しみやすい天使のような声で話しかける。


「人族よ。防具一式を十セット、購入したいのだが」

 鎧の人物は、中性的な声で淡々と私に要求した。


「はい、ありますよー。……でも、私の名前はニーナです。人族って呼ばれるのは好きじゃないので、そう呼んでくださいね」


 名前というのは、とっても大事なのだ。


「あなたも『デュラハンさん』って、種族名で呼ばれるのは嫌でしょう?」


 私は、目の前の重々しい全身鎧に向かって首をかしげた。


「む……。そうだな、確かに失礼した。我が名は魔王軍第二軍団、デュラハン隊を率いるハンナと申す。以後、気を付けるとしよう」


 ハンナさんはそう言うと、腰に抱えていた自身の生首を両手で持ち直し、こちらに向けた。それから、体と頭をセットで丁寧に傾けてみせる。


「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」


 私もハンナさんにお辞儀を返す。 声の響きや名前からして、ハンナさんは女性なのかなー……なんて、どうでもいいことを考えながら、私は本題を切り出した。


「それで、防具一式とのことですが。兜、鎧、盾、具足、籠手などを揃えたフルセットということでよろしいですか?」


「うむ、それで頼む。素材は最低でも鉄以上が望ましい。……あ、金はダメだぞ! あれは生理的に受け付けん。見せるのも勘弁してくれ」


 ハンナさんは両手の頭を抱えたまま、身振り手振りと頭振り?を加えて必死に説明してくる。兜のせいで素顔は見えないが、きっと今は豊かな表情をしているんだろうなあ、と私はのんびり眺めた。


「わかりましたー。今すぐ出せるのはこの三種類ですね。鋼鉄製と、ミスリル銀製、あとはオーク木材製です」


 私はカウンターに、慣れた手つきでサンプルを並べて見せる。


「素材についての説明、いりますか?」


 ハンナさんは両腕で自分の頭を器用に操作し、視点を調整しながらサンプルの防具を確認している。 やっぱり視界はその頭基準なんだ、不便そうだなあ……なんて思いながら、私は説明を始めた。


「そうですね。一番高価なのはミスリル銀製です。軽くて強度があり、魔法耐性も優秀ですから。この一式だけで、鋼鉄製が五セットは買えちゃいますよ」


「なるほど、やはりそれなりにするな」


 ハンナさんの頭が、腕の中で納得したように上下に揺れる。


「鋼鉄製とオーク材製は、お値段自体はそれほど変わりません。物理的な耐久度も同程度ですが、鋼鉄製は少し重く、オーク材製は魔法耐性が低めになっています」


 私はそう続けてから、具体的な金額をハンナさんに提示した。


「なっ……! そこそこ良い値段がするのだな……」


 ハンナさんは露骨にうろたえ始めた。 魔王軍の軍団長らしいけれど、懐事情に頭を悩ませる姿はなんだか可愛らしく見える。


でも、こちらもボランティアではない。商売なのだ。


「最前線という場所柄、どうしても仕入れ値が張ってしまうんですよねー。これくらいは払っていただかないと、お店が潰れちゃいます」


 私はそう伝えて、ハンナさんの決断を待った。


「むむむ……」


 腕の中の頭部が、眉間にしわを寄せて?考え込んでいる。 どうやら決め手に欠けるようなので、私はもうひと押しすることにした。


「わかりましたー。今日十セットまとめて買ってくださるなら、一セット分のお値段はサービスしちゃいます。これからも『ニーナ雑貨店』をお得意様として利用してほしいですからね」


「むう、確かにそれはお得だな……。まあ、近々給料日だしな。分かった、鋼鉄製を頼もう!」


「ありがとうございますー!」


 魔王軍って給料制なんだ。それに軍団長クラスでも鋼鉄製の値段で悩むなんて、魔王軍って意外と夢がないなあ……。 心の中でそんな失礼なことを思いつつも、私は満面の営業スマイルを浮かべる。


「では、金貨十五枚……一セットサービスなので、金貨十三枚と銀貨五十枚になりますね」


 私が代金を請求すると、ハンナさんは途端に嫌そうな顔をした。


「……先ほども言ったが、私は金が本当にダメでな。すべて銀貨で支払っても構わないか?」


「もちろんですよー。それだと、銀貨千三百五十枚になりますね」


 ハンナさんは、本当の本当に金が苦手らしい。 ヴァンパイアが日光を嫌い、アンデッドが炎を苦手とするように、デュラハンにとっての金もそういうものなのだろうか。


「では、こちらの『マモンちゃん』に銀貨を入れてもらえますかー?」


 私はそう言って、マモンちゃんと名付けた悪魔の頭の形をしたがま口を差し出した。 ハンナさんは不思議そうな顔をしている。……いや、実際には兜で見えないけれど、腕の中の生首がそんな空気を醸し出していた。


「ああ、すみません。説明してなかったですね。このマモンちゃんはですねー、銀貨や金貨、宝石がとっても大好きな子なんです。本物かどうかの判定から、枚数、価値まで一瞬で判断してくれるんですよ。一枚一枚数えるのって、時間がかかって面倒じゃないですか」


 私は淡々と説明を続ける。


「もちろん、途中でキャンセルしたくなったらこの子の頭をぺしっと叩けば、全部吐き出させますので。安心してくださいね」


「うむ……不思議な道具もあるものだな」


 ハンナさんは少し困惑したようにつぶやくと、おもむろに動き出した。頭部を抱えていない方の左手を、あろうことか自分の首の断面へと突っ込み、そこから銀貨を取り出し始めたのだ。


 えっ、そこ収納スペースなの!? 動いているときにジャラジャラ音が鳴ったりしないの……?


「よし、これくらいか」


 私の困惑を余所に、ハンナさんはマモンちゃんの口へ次々と銀貨を放り込んでいく。 銀貨を飲み込むたびにマモンちゃんの目玉がグルグルと高速回転し、頭上に浮かんだ数字が千三百五十になったところでピタリと止まった。


「ありがとうございますー。では、鋼鉄防具一式十セットですね。どこに届ければいいですか? 魔王城とかで大丈夫ですか?」


 私は、隣の家に回覧板でも届けるような気軽さで尋ねた。


「いや、できれば前線基地にお願いしたい。……だが、本当に運べるのか? 失礼ながら、貴殿がそれほど剛力には見えないのだが」


 ハンナさんは兜の奥から、心配そうにこちらを見やる。


「大丈夫ですよー。ちゃんと運搬してくれる子がいますから。……おーい、アスモくーん!」


 私が呼ぶと、店の奥からパタパタと「アスモくん」が現れた。 コンテナのような四角い箱に、不釣り合いなコウモリの翼が生えた奇妙な生き物? だ。これでも、指定した場所には必ず届けてくれる優れものなのだ。


「本当に大丈夫なのか……? 途中で撃ち落とされたり、戦争の余波で壊れたりしないか?」


 ハンナさんは、至極もっともな懸念を口にする。


「ええ、大丈夫ですよ。マモンちゃんもそうですけど、アスモくんも仮にも『大悪魔の私物』だったらしいので。そのへんの魔族や人族には、手出しなんてできませんよ」


 私は自信満々に言い切った。もし勇者が聖剣を担いでやってきたらどうなるか分からないけれど、商人にはハッタリも必要なのだ。


「そうか。……貴殿がそこまで言うのなら、信用するとしよう」


 ハンナさんは納得したように頷くと、ふと思い出したように言葉を継いだ。


「そうだ。もし良ければ、私に似合うスカーフを選んでくれないだろうか? 同じ女性としての意見を聞きたいのだ」


 そう頼まれた。腕の中に抱えられた兜越しの生首に見つめられながら。


 やっぱり女性だったんだ。デュラハンでも、ファッションとか気にするものなんだなあ……。 そんなことを思いながら、私は快く引き受けた。


「わかりました、任せてください。好きな色とかありますか?」


「金以外なら何でもいい。だが、私は常に鉄や銀の防具を纏っているからな。その上で映える色がいい」


 ハンナさんはそう言う。 うーん、鎧の上からでも目立つ色か。鉄の黒っぽさにも、銀の白っぽさにも合う色となると、やっぱり赤かな。


 在庫の中から、手頃な値段の一枚を引っ張り出す。今後の常連になってもらうための先行投資として、これはサービスしちゃおう。


「この赤いスカーフなんてどうですか? 微弱ですけど炎耐性も付いていますよ」


「お代は結構ですよー。これから常連さんになってくれるかもしれないですし、サービスです!」


 私がそう言って赤いスカーフを差し出すと、ハンナさんは少しだけ言い淀んでから言った。


「すまないが……つけてもらってもよいだろうか?」


 え? どこに……? 一瞬、手が止まった。

頭部がない胴体側の、わずかに残った首元でいいのかな。それとも、腕の中に鎮座している兜の方だろうか。


 私がスカーフを持ったまま、セットする場所を見極めようとまごまごしていると、ハンナさんは膝をついて屈み込み、断面の方の首元をすっとこちらに向けた。


 ああ、こっちね。 私は納得しながら、その丁寧に磨かれた鎧の首元へ、鮮やかな赤いスカーフを優しく結んであげた。



「どうかな……?」


 なぜかハンナさんは、年頃の女の子のような、少しもじもじした雰囲気で聞いてきた。 相変わらず表情はわからないけれど、声のトーンが心なしか弾んでいる。


「似合ってますよ、ばっちりです! ハンナさんも女性ですもんね」


 見た目には気を使いたいですよね、と言いそうになったところで、ハンナさんは生首を腕の中で揺らしながら続けた。


「うむ。そうだ。やはり、首元の断面をむき出しで見せるのは、乙女として恥ずかしいだろう? こういうものがあると、断面が隠れて見えにくいと思ってな」


 あれ……? ちょっと想像していた理由と違う。

 それにハンナさん、さっきそこからジャラジャラ銀貨を取り出してませんでしたっけ? あそこ、お財布代わりじゃなかったの?


 私は微妙な表情を浮かべそうになったけれど、すぐに引っ込めた。


「ええ、そうですよねー」


 とりあえず、それっぽい相槌を打っておく。

 できる商人は、客の夢を壊さない程度に空気を読むものなのだ。


「では、防具一式の件は後ほど頼む」


 満足そうにそう言い残すと、赤いスカーフをなびかせたハンナさんは店を後にした。


 ガシャン、ガシャン、と響く金属音が遠ざかり、店内に再び静寂が訪れる。


 ここは、魔族も人族も関係なく、等しく商売を営む『ニーナ雑貨店』。


「さて、アスモくん。配達お願いねー」


 私は去りゆく鎧の背中を見送りながら、のんびりと次の仕事に取りかかる。 またのご来店を、心よりお待ちしております。


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