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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と誕生日  作者: 橋本 直
第二十一章 『特殊な部隊』とトラブル
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第54話 白菜と値札ともろみ味噌

 師走の町は赤かった。東都朝草寺の界隈も例外ではない。


 乾いた寒空の下、商店街の人波に押されて、誠の歩調まで速くなる。


 東都のクリスマスは乾いた冬の寒空の下にあった。その下町の商店街を歩いてみれば、どこか忙しげに歩く人にせかされるように歩みが速くなるのを誠は感じていた。

挿絵(By みてみん)

 そればかりではなく誠には周りの男性陣からの痛いほどの視線が突き刺さっていた。男女が連れ立って歩くことなど稀なこの東和共和国で見るからに人目を引くような美女を三人も連れて歩いていればそれが誠だとしても嫉妬にかられた視線を投げるに決まっている。しかもその三人がしきりと誠を意識している態度を取っているとなればなおさらのことだと誠は諦めていた。


 普段の豊川では銃を持ち歩いていることで有名なかなめのせいで『特殊な部隊』の馬鹿が歩いていると諦めて目を逸らす通行人も、見慣れぬかなめとアメリアが妙な緊張関係を保ちながら歩いている光景は好奇の目を集めるには十分すぎた。今は珍しく二人とも黙っているのはアメリアの挑発に乗ったかなめが何度かやらかして、最終的に巡回中の巡査に捕まり、所轄の署で始末書を書いた上にかなめが銃を没収される羽目になったからだった。


 お互いに冷やかしあっているうちに、周りを忘れて怒鳴りあいになって、かなめがキレて銃を抜き人だかりに取り残される。そう言う失敗を繰り返して、二人も少しは学習していた。そしてそうなると、いつの間にか野次馬の中にカウラに手を引かれた誠がいたりするのだから、二人とも黙って一定の距離を保って歩くのはいつものことだった。


 東都朝草寺の門前町で客の数が豊川駅前商店街の桁違いのアーケード街で恥をかく必要も無い。誠はそんな二人をちらちらと横に見ながら先頭をうれしそうに歩く母に付き従った。


「よう!誠君じゃないか!久しぶりだね!どうだい!仕事の方は!就職したって聞いてるよ!良かったじゃないか!一時は自宅待機でそのままニートになるんじゃないかってうちのカミさんも心配してたんだ!ちゃんと仕事は頑張りなよ!」 


 そう声をかけてきたのは子供のころからのなじみの八百屋のおやじだった。誠は頭を掻きながら立ち止まった。名前は忘れたがそのおやじが高校時代の野球部の先輩の実家だったことが思い出された。

挿絵(By みてみん)

「それに薫さんも今日もお綺麗で!うちのかみさんと交換したくなるくらいだ……ああ、今の話はオフレコで。かみさんに聞かれると何をされるか分かったもんじゃねえ」 


 商売人の世辞なのか本音なのか分からない調子で八百屋の親父は薫にそう言った。


「おじさんたら、本当にお上手なんだから!そんなこと言ってもたくさん買うわけにはいきませんよ。でも、今日はお客さんでしかも一人この緑の髪の人はたくさん食べるからお世辞に負けてたくさん買っちゃうかもね」 


 薫はニコニコしながら八百屋の前で立ち止まった。そして、後ろを歩いて来た誠達四人のうち、アメリア、カウラ、かなめを眺めながら薫は胸を張って八百屋の親父に目を向けた。


「この人達、美人でしょ?なんでも誠の上司の方達なんですって。凄いわよねえ。しかも全員軍人さん。美しいバラには棘があるって言うでしょ?本当にこの数日一緒にいるだけで本当に張り詰めた雰囲気で緊張しちゃうわ」 


 母は、誠が三人も美女を引き連れてきている現状を喜んで息子の成績表を見せびらかすみたいな顔をしていた。

 

 それが一番怖いのが誠の本音だった。


 確かにエメラルドグリーンのポニーテールのカウラと紺色の長い髪をなびかせているアメリアは明らかに人目を引く姿だった。確かに二人に比べれば黒いおかっぱ頭のようなかなめは目立たなかったが、その上品そうなタレ目の色気に通行人の何割かが振り返るような有様だった。


「えーと、誠君は確か軍に入ったんだよな……陸軍だっけ?宇宙軍だっけ?一時期自宅待機とか言ってたけど……今の仕事はちゃんとした訓練をしているんだろ?」 


 おやじはいかにも商売人らしい人懐っこい笑顔で誠を見つめながらそう言った。


「えーと……今は同盟司法局にいますよ」 


 尋ねられたので誠はつい答えてしまった。そのとたんにおやじの顔が渋い面に変わった。


「ああ、この前官庁街で化け物相手にシュツルム・パンツァー戦やった……なにもあんなところで実戦やる必要なんて無いって言うのにねえ……同盟機構もなんでこの東和なんかに本部を置くのか。あそこは甲武やゲルパルトのテロリストに狙われてるんでしょ?治安だけが自慢の東和にとっては迷惑なだけですよ」 


 誠も予想はしていた答えである。任務上、出動は常に被害を最小限に抑える為の行動ばかりである司法実力機関の宿命とはいえ、同情するようなおやじの視線には誠も少し参っていた。そんな男達を無視するように母は店頭に並ぶ品物を眺めていた。


「それよりオジさん。この白菜……ちょっと高いんじゃないの?先週より50円も高いじゃないの」 


 そう言いながら薫はみずみずしい色をたたえている白菜を手に取った。思わず苦笑いをしながらおやじは講釈を始めた。


「薫さん今年はどこも雨不足でねえ……量が少ないんですよ。でも太陽は一杯ですから。味の方は保障しますよ!」 


 薫は手にした白菜を誠の隣で珍しそうに店内を眺めていたカウラに手渡した。寮ではほとんど料理を任されることの無いカウラはおっかなびっくり白菜を受け取ってじっと眺めた。

挿絵(By みてみん)

「ああ、お姉さんの髪は染めたんじゃないんだねえ……素敵な色で」 


 親父はエメラルドグリーンの鮮やかなポニーテールのカウラの髪の毛が気になって仕方が無いようだった。その視線はいかにも『ラスト・バタリオン』を見慣れていない一般人によくみられるそれだった。ただ、甲武の元地球人に比べるとその反応はいかにも当たり前のそれに見えるものらしい。あの地球人の血を引く金髪碧眼の茜は甲武では元日本人ばかりと言うことでそのどう見てもヨーロッパ風の見た目から『紅毛(こうもう)』とあだ名されて壮絶ないじめに遭ったと聞かされていたので、『髪の色が違うんだ、ああそう』で済んでしまう遼州人の国である東和の人々の差別意識の無さは初めて来た時の甲武生まれのかなめには相当不思議に見えたものらしい。


「ああ、ありがとう」 


 人造人間と出会うことなどほとんど無い東和の市民らしく、見慣れない緑色の髪の女性に純粋に珍しそうな視線を送るおやじにカウラはどう返していいのかわからずとりあえずの返事を返した。それを見ると対抗するように後ろから出てきたアメリアがカウラから白菜を奪い取った。


「おじさん。これいくらかしら?」 


 そう言うアメリアのわき腹を肘で突いたかなめが少し押して場所を占領し、しおれた白菜の置かれていた山の前にある値札を指差した。一瞬はっとするものの、アメリアは開き直ったように得意の流し目でおやじを見つめた。親父はその見上げるような長身と長い紺色の髪に驚いたような表情を浮かべてアメリアを見つめていた。


「お姉さんもきれいな髪の色で……青?お姉さんの髪も染めた訳じゃないよね?」 


 八百屋の親父の言葉にピクリとアメリアの米神が動くのを誠は見逃さなかった。


「紺色、濃紺。綺麗でしょ?」 

挿絵(By みてみん)

 アメリアは得意げに長い髪を親父に見えるように靡かせてみせる。誠はアメリアの自分が目立たないと仕方のないという思考回路に呆れていた。


「色目で値切る気か?品がねえなあ」 


 そう言ってかなめが笑った。だがまるで無視するように、カウラと同じく野菜などに寮ではほとんど手を触れないと言うのに切り口などを丹念に見つめているアメリアがそこにいた。


「まあねえ、まけたいのは山々だけど……うちも仕入れの値段が上がってるんで苦労してるんですよ」 


 おやじがためらっているのは店の奥のおかみさんの視線が気になるからだろう。あきらめたアメリアは手にした白菜を薫に返した。


「じゃあ、にんじんとジャガイモ。皆さんどちらも大丈夫?」 


「好き嫌いは無いのがとりえですから。まあ、西園寺は嫌いな野菜が多いですが、気にしないでください。サイボーグのコイツに味なんてわかりません」 


 カウラの言葉にアメリアが大きくうなずいた。


「味覚の優先度が低いだけだ!味が分からねえわけじゃねえ!」

 

 だが、かなめはそう言うと明らかに二人の態度に腹を立てているように怒りの表情でカウラ達をにらみつけた。


「ああ、かなめさんはにんじん嫌いだっけ?」 


 薫はこれまでの食事でかなめがにんじんを誠の皿に移すのを見逃しては居なかったのでそうつぶやいた。


「ピーマンです!にんじんなら食えます!好きで食うもんでないのは確かですけど!」 


 かなめはムキになったようにそう吐き捨てるように言うと背を向けて道行く自分達に興味本位の視線を投げて来る通行人を一々にらみつけていた。


「ならいいじゃないの。好き嫌いが多いとサイボーグでも体調を崩すわよ。そもそも何でも食べることを前提にその身体は設計されているんだから……それともそこも西園寺家のお金で何とかしたの?」 


 いつものようにアメリアにからかわれてかなめ怒りに肩を震わせた。そんな二人のやり取りを見て笑いながらおやじはジャガイモとにんじんを袋につめた。


「じゃあ、おまけでこれ。いつもお世話になってるんで」 


 奥から出てきたおかみさんが中くらいの瓶をおやじに手渡した。仕方がないというようにおやじは袋にそれを入れた。


「今年漬けたラッキョウがようやくおいしくなって。うちじゃあ二人で食べるには多すぎるから」 


 誠は八百屋のおかみさんをまじかに見てこうして比べてみるといつも自分の母が異常に若いことに気がつかされた。いつもすっぴんで化粧をすることが珍しい薫だが、ファンデーションを塗りたくったおかみさんよりもかなり整った肌をしていることがすぐにわかった。


「良いんですか?いつも、ありがとうございます」 


 薫がそう言って笑うのに微笑むおやじをおかみさんが小突いた。たぶんおやじも誠と同じことを考えていたのだろう。それを思うと誠はつい噴出してしまいたくなった。


「毎度あり!」 


 そう叫んだおやじに微笑を残して薫は八百屋を後にした。


「でも……お母さん、何を作るのですか?」 


 アメリアは興味深げに薫の買い物に見入っていた。


「薫さんはオメエのお袋じゃねえだろ?神前のかみさん気取りか?この三十路が」 


「良いじゃないの!それに三十路は余計よ!かなめちゃんだってあと二年でなるんだからそんなことで人を馬鹿にしているとそのうち後悔するわよ!」 


 揉めるアメリアとかなめに薫は立ち止まって振り返った。彼女は笑顔でまず手にしたにんじんの袋をアメリアに手渡した。

挿絵(By みてみん)

「まずこれはスティック状に切って野菜スティックにするの。昨日、お隣さんからセロリと大根もらってるからそれも同じ形に切ってもろみを付けて食べるのよ。昔から誠はこれが大好きで……もろみと大根が特にお気に入り」 


 その言葉に思わずかなめが口に手を当てた。誠ははっと気がついてうれしそうな母親とかなめを見比べる。かなめの額には義体の代謝機能が発動して脂汗がにじんでいた。


「そうか、西園寺はセロリも苦手だったな」 


 かなめの反応を楽しむようにカウラが笑顔で薫に説明した。


「余計なお世話だ。それにしても大根を生で食うのかよ……大根は煮て食うもんだろ?」


 かなめは視線を後ろでこの光景を笑ってみていた誠に向けた。


「生の大根も結構いけるんですよ。さくさくした歯触りが最高で」


「ふうん。そんなものなのか。アタシも食ってみるかな」


 誠の言葉にかなめは感心したようにそうつぶやいた。だが次の瞬間に誠達の腕につけていた携帯端末が着信を告げた。



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