第48話 緑を映す赤
「あのー、かなめちゃん?」
画像を見たとたんにアメリアはそれまでの楽しそうな表情から一変して頬を引きつらせながら隣に座るかなめの袖を引っ張った。
「どうされましたの?クラウゼ中佐」
今回かなめが浮かべた表情は見慣れたかなめの満足げなときに見せる表情だった。明らかに悪魔的、そして相手を見下すような表情。確かにこんな目でよく見られている月島屋の小夏が彼女を『外道』と呼ぶのも納得できた。
そんな二人の様子を老執事は黙って見つめていた。
「くれるのはうれしいんだけど。そんなものどこに保管するの?……と言うか、かなめちゃん自身そんなものどこに置いてるの?かなめちゃんもああいったものをうんざりするほどの数持ってるんでしょ?でもあのかなめちゃんの灰皿だらけの殺風景な部屋で宝石なんてお目に罹ったこと無いわよ。それにうちの寮には手癖の悪い島田君と言う窃盗常習犯が待ち構えているの。こんなもの寮に置いておいたら次の日にはこれが二束三文で隣町の質屋に並ぶことになるのは間違いないわ」
アメリアの言う通り、誠もベッドと簡単な着替えしか置いていない寮のかなめの部屋を知っているのでそれが不思議に思えてきた。それに窃盗癖と金への執着なら誰にも負けない寮長である島田の存在がある。そんな事を考えればこのような高価なものを寮に持ち込むなど泥棒にプレゼントをあげるような行為だと誠は思った。
「クラウゼ中佐。そんなにお気になさらなくてもよろしいですよ。防犯に関しては定評のある銀行の貸金庫の手続き等、初めて購入される方の要望にもお答えしていますから」
かなめに変わって神田がアメリアの問いに答えた。
「神田さん。わたくしの銀行の東都支店。あそこを使いますからご心配には及びません」
『わたくしの銀行』という言葉。誠、カウラ、アメリアはその言葉に気が遠くなるのを感じていた。
神田と呼ばれた老執事は優しげにうなずいた。そしてこれまでと違う表情でかなめを眺めていた。
「そういえば神前様にと頼まれていた品ですが」
そんな神田の言葉を聞いた瞬間にかなめの表情が見慣れた凶暴サイボーグのものに変わった。びくりと誠は震えるが、神田が手元の端末に手を伸ばしたときにはその表情は消えていた。
「ちゃんと手配しておきました。合法的に東都に輸入するにはボルトの固定やバレルの金属による閉鎖などが法律で義務付けられておりますので西園寺様のような軍警察にお勤めの方の実用には……」
そう言って神田は視線を誠に向けた。誠は宝石などにはまるで興味が無いのでただ呆然となぜ神田やかなめが自分の話をしているのか理解できずにいた。
「ええ、その点は大丈夫ですわ。機関部とバレルなどの部品についてはわたくしの部隊に専門家がおりますから。そちらの手配で何とかするつもりですの」
「機関部?バレル?」
しばらく誠の思考が止まった。バレルという言葉から銃らしいことはわかった。しかし、ここは宝飾品を扱う店である。そこにそんな言葉が出てくるとは考えにくい。正面のカウラもアメリアもただ呆然と男が画面を表示するのを待った。
「これなんですが……指定の20世紀のロシア製は見つかりませんでしたのでルーマニア製になります」
金色の何かが画面に映された。誠はまさかと思い目を凝らした。
「悪趣味……こんなプレゼントよく考え付いたわね……まあ、かなめちゃんらしいと言うかなんと言うか」
思わずつぶやいたアメリアの一言で、誠はその目の前の写真の正体を認める準備ができた。
誠が覗き込んだ画面に映っていたのは一挺のアサルトライフルである。形からしてベルルカンの紛争地帯でこの遼州系でも使われているアンがいつもカバンに入れて持ち歩いているカラシニコフライフルに良く似ていた。しかも金属部分にはすべて金メッキが施され、グリップやハンドガードは白、おそらく象牙か何かだろう。そこにはきらびやかな象嵌が施され、まばゆく輝く宝石の色彩が虹のようにも見えていた。
「AIMだな。ストックは折りたたみか。作った人間の神経を疑うような代物だな。これをプレゼント……西園寺の神経は私には理解不能だ」
それだけを言うのがカウラにはやっとだった。三人は呆れたようにかなめに目をやった。
「あら?どうしましたの?だってお二人にも贈り物をしたんですもの。いつも働いてくれている部下にもそれなりの恩を施すのが道理というものではなくて?」
かなめの笑顔はいつもの悪党と呼ばれるような時の表情だった。誠はこんなかなめの表情を見るたびに一歩引いてしまった。
ドアがノックされた。
「入りたまえ」
神田の言葉に先ほどカウラの為と指定したルビーのちりばめられたティアラとネックレス、そして緑の豪華な刺繍の施されたドレスを乗せた台車が部屋へと運ばれてきた。
「いかがでしょうか」
ゆっくりと立ち上がった老執事についてかなめ、カウラの二人が立ち上がった。額縁のような展示枠の中に静かに置かれたティアラと白い絹のクッションに載せられたネックレス。しばらくカウラの動きが止まった。
「ベルガー様。いかがです?」
そう言ってかなめはにやりと笑った。いつもの見慣れた狡猾で残忍なかなめと上品で清楚なかなめ。その二人のどちらが本当のかなめなのか次第に誠もわからなくなって来た。
「ドレスも一緒とは……確かに貴様にとってははした金なのかもしれないが……」
そう言ってカウラはマネキンに着せられた緑のドレス……豪奢な刺繍が施されていた……を眺めた。
「試着されてはいかが?まあ、衣装に負けてしまうようならそこまでだということですわよね?」
追い討ちをかけるようなかなめの言葉にカウラは思わずかなめをにらみつけていた。
「そうだな……衣装に負けるのは良い、ただ貴様に負けるのは私のプライドが許さない」
もう後には引けない。立ち上がるカウラの表情にはそんな悲壮感すら感じさせるものがあった。
「それではこちらに」
メイド服の女性に連れられて部屋を出て行くカウラが誠達を残して心配そうな表情を残して去っていった。
「それではこちらのお品物はいかがいたしましょうか?」
老執事の穏やかな口調に再びソファーに腰を下ろしたかなめがその視線を誠に移した。
「僕は使いませんから、それ。僕は射撃は苦手なんで」
ようやく搾り出した言葉。誠もそれにかなめが噛み付いてくると思っていた。
「そうなんですの?残念ですわね。神田さん。それはお父様のところに送っていただけませんか?御所に帰った時に私専用のレンジで撃って楽しみましょう」
「承知しました」
最初からそのつもりだったようであっさりとそう言うかなめに、誠は一気に全身の力が抜けていくのを感じた。安心したのはアメリアも同じようで震える手で自分を落ち着かせようと紅茶のカップを口元に引き寄せていた。
「でも西園寺様の部隊。『特殊な部隊』とか世間では呼ばれておりますが、大変なお仕事なんでしょうね」
老執事のそれとない言葉に紅茶のカップを置いたかなめが満足げな笑みを浮かべていた。
「確かになかなか大変な力を発揮された方もいらっしゃいますわね」
かなめの視線が誠に突き刺さった。一般紙でも誠が干渉空間を展開して瞬時に甲武軍の反乱部隊を壊滅させた写真が紙面を賑わせたこともあり、神田も納得したようにうなずいていた。
「そうですね。特に誠ちゃ……いや神前曹長は優秀ですから。どこかの貴族出の金だけが自慢のサイボーグと違って」
明らかにアメリアはかなめに喧嘩を売っていた。誠もかなめのお姫様的な物腰に違和感を感じてそれを崩したい衝動に駆られているのは事実だった。
居づらい雰囲気に飲まれながら誠はただカウラが帰ってくるのをひたすら待ち続けた。
誠の意図など関係ないようにかなめは悠然と老執事を見つめていた。
「そうですわね。私の力など微々たる物ですから……まあほとんど私たちの休憩所代わりでしかない運用艦の艦長を務めてらっしゃる方にそれを言う権利があればのお話ですけど?」
「何?喧嘩売ってるの?」
まるでいつもと逆の光景。かなめが挑発してそれをアメリアが受けて立つという状況になろうとした。だがアメリアはここがあくまでかなめのホームなのだと思い直してそれ以上何も言うつもりは無いというように紅茶のカップに手を伸ばした。かなめも静かに微笑んでいた。
お互い慣れない展開に戸惑っているのだろうか。そんなことを誠は考えていた。
「それにしても西園寺様はいいお友達をお持ちのようですね。先日も九条様と田安様がお見えになって……お二人とも西園寺様の様子をご心配されていましたが……杞憂のようですね」
現在の四大公家の当主はかなめの父西園寺義基以外はすべて女性という変わった状況だった。
次席大公の九条家。その当主は先代の九条頼盛が8年前に貴族主義者の政権転覆クーデターである『官派の乱』を引き起こした責を取って自決してから分家の出である九条響子が勤めていた。
一方、甲武建国の立役者にして遼州系では英雄と呼ばれている田安高家を祖とする田安家には父母を幼くして亡くした田安麗子がいた。
その二人とも年はかなめと同じ28歳で、誠がカウラやアメリアから聞くところによると二人ともかなめとは女学校時代の同級生だったと言う。
「まあ二人とも長い付き合いですから。心配をするのはわたくしの方ですわ。二人とも神田さんにご迷惑おかけいたしませんでしたか?」
そう言ってかなめは頬に手を当てて微笑んだ。誠はそのいわゆるお嬢様笑いを始めてみて感動しようとしていた。
その時ノックの音が部屋に響いた。
「ベルガー様のお着替えがすみました」
先ほどのメイド服の女性の声。
「ああ、入っていただけますか?」
神田の言葉でドアが開いた。そしてそこに立つカウラの姿に誠はひきつけられた。
「あ……あの……私は……」
どうしていいのかわからないというように、カウラの目が泳いでいた。そのいつもはポニーテールになっているエメラルドグリーンのつややかな髪が解かれて、さらさらと流れるように落ち着いた色調のドレスに映えて見えた。
額の上に飾られたルビーの輝きが印象的なティアラが輝いていた。色白な首元に飾られた同じくルビーがちりばめられた首飾りが見る人をひきつけた。
「凄いじゃない、カウラちゃん。ねえ、私にもくれるんでしょ?こういうのくれるんでしょ?」
そんなカウラの荘厳な雰囲気を完全にぶち壊してアメリアは爆走した。かなめばかりでなく穏やかな様子の神田まで迷惑そうな視線をアメリアに送る。だがまるで彼女はわかっていなかった。
「ほら!誠ちゃん。なんか褒めないと!こういう時はびしっとばしっと何か言うものよ!それで……」
ここまで言ったところで自分の行動が完全にこのかなめのホームの場所では珍奇行動以外のモノではないことに気がついて赤面して固まった。
「クラウゼ中佐。少し落ち着いていただけません?……場を考えろ。ここはアタシのホームなんだ。クソアマが……」
凛と響くかなめの一言と付け加えられるいつもの口調の彼女らしい一言。いつもは逆の立場だけあり、さすがのアメリアも自分の異常なテンションに気づいて黙り込んだ。
「神前……似合わないだろ?こんな私には。衣装に着られているような感覚だ」
カウラはようやく一言だけ言葉を搾り出した。カウラの頬は朱に染まり、恥ずかしさで逃げ出しそうな表情を浮かべていた。
「そんなこと無いですよ!素敵です。本当にお姫様みたいですよ!」
誠もアメリアほどではないが興奮していた。甲武貴族やゲルパルトの上流階級が主催する夜会に出たとしても注目を集めるんじゃないか。そんなパーティーとはまったく無縁な誠だが、赤いじゅうたんの敷かれた階段を静々と下りてくる場面を想像してさらに引き込まれるようにカウラを見つめた。
「本当にお美しいですわよ、ベルガーさん」
目じりをさらに下げて微笑みながらのかなめの言葉。いつもなら鋭い切り替えしが繰り出されるカウラの口元には代わりに笑顔が浮かんでいた。
「いいのかな……私……」
ただカウラは雰囲気に飲まれたように入り口で立ち尽くしていた。
「どうでしょう、西園寺様」
自信があると言い切れるような表情で神田がかなめを見る。かなめは満足そうにうなずいた。
「ベルガーさん。とてもお似合いですわね。わたくしもこれならば上司と呼んでもお友達に笑われたりなどしませんわ」
明らかに毒がある言葉だが、すでにカウラは自分を見つめてくる誠やアメリアの視線に酔っているように見えた。ただ頬を染めて立ち尽くした。
「ではこちらでよろしいですね」
老執事の静かな言葉に満足げにうなずくかなめ。カウラの両脇にいたメイドが自分を導くのを見てカウラも静々と部屋を出て行った。
「でも実にお美しい方ばかりですな、神前曹長。非常にうらやましい職場ですね」
「ええ、まあ」
神田に話を振られて誠は照れて頭を掻いた。確かに自分がパシリ扱いされて入るものの、神田の言うことが事実であると改めて思っていた。
「それではクラウゼ様のものは候補が出品された段階でお知らせいたしますので」
その神田の言葉を聞くとかなめは静かにうなずいてだまって立ち上がった。呆けていたアメリアもそれを見ていた誠もそうするのがまるで義務かと感じてふかふかのいつまでも座っていたいような座り心地の良いソファーから立ち上がった。
「ありがとうございます」
次々と店員達が頭を下げてくるのにあわせながら誠も頭を下げた。彼をにらみつけながらかなめは先頭に立つようにして歩いた。誠達は居づらい雰囲気に耐えながら客の多い広間のような店内に出た。
「まもなくカウラ様とお品物の方も揃います」
神田という老執事の言葉にかなめは笑顔でうなずいた。
だが、外を見ていたかなめのタレ目が何かを捕らえたように動かないのを見て誠も外の回転扉を見た。
そこには見覚えのある黒のコート、紫のスーツ、赤いワイシャツと言う極道風のサングラスの大男が右往左往しているのが見えた。男の頭はつるつるに剃りあげられ、冬だと言うのになぜかハンカチで頭を拭きながら何度も店内に入るかどうかを迷っていた。
「明石中佐……あの人何しにこの店に来たんだろう?」
誠の言葉に店内をきょろきょろと見回していたアメリアも回転扉の外の2mを超える身長と鍛え上げられた肉体が嫌でも目を引く司法局渉外担当武官である明石を見つけた。
「なにやってんだか……婚約指輪でも買いに来たの?あの人も確かに甲武貴族だけど下っ端も下っ端の寺社貴族。しかも次男坊じゃないの。確かに実家のお寺は甲武建国の父である田安高家の菩提寺として甲武きっての名刹なのは事実だけど……こんな店で指輪を買うようなお金なんかあるの?」
アメリアは明らかに場違いな明石の姿を見つけて呆れてため息をついた。
「遅れてすまない。ではこのバッグは……」
着替えを済ませてアタッシュケースに入れた先ほどのティアラなどを手に持っているカウラも三人の視線が外に向かっているのを見て目を向けた。
「あれは……」
「それでは、また時間を作って寄らせていただきますわね」
そう言って微笑みながら出て行こうとするかなめを老執事は見送ろうとした。誠もただ外でうろうろしている明石が気になって仕方がなかった。
かなめの落ち着いた物腰は回転ドアを出るところまでだった。
そのまま彼女は目の前に立つ巨漢の首根っこをつかんでヘッドロックをかました。重量130kgの軍用義体の怪力の前に2メートルを超える大男である明石はそのまま歩道に引き倒された。
「何のつもりだ?タコ。オメエの爵位じゃこの店は似合わねえ。消えろ」
周りの上品な客達はやくざ者を楽に締め上げている女性の怪力に息を呑んで立ち止まった。そしてお互いにささやきあいながらこの騒動に関わるまいと距離を取って取り巻いた。周りの上流階級の人々もこんなところでこんな醜態をさらすのは東和の富に惹かれてやってきた甲武貴族に決まっていると決め付けるように無視を決め込んでいた。誠はそのトラブルの半分がかなめ絡みなのだろうと想像して頭が痛くなる想いだった。
「なんや?西園寺か!やめや!やめてんか!離したら話すよって!」
叫ぶ明石にようやくかなめは手を放した。開放されて中腰になってむせている明石をニヤニヤと笑いながら近づいてきたアメリアが見下ろした。
「婚約者にプレゼントですか?なかなかいい話ですねえ……明石中佐の給料でどうにかなる値段の婚約指輪がこの店で売っていればの話しですけど?」
ようやく顔を上げた明石はそう言うアメリアを見てさらに絶望的な表情を浮かべた。
「私的なことに首を突っ込むのは感心しないな。別にローンを組めばいいだろ?それに明石中佐の実家は甲武一の名刹なんだ。住職を務めるお兄さんに頭を下げればそれくらいの金を用意することなど無理な話ではない」
カウラは手に大事そうに先ほどのアタッシュケースを持っていた。その見慣れない頑丈そうでいて品のある革張りのかばんを見て、明石は大きくため息をついた。
「カウラ……あの兄やんに頭を下げろなんて殺生なこと言わんといてんか?ワシは所詮、寺社貴族の次男坊や。爵位も子爵……貴族の下っ端や。貴族言うても年金も無い貧乏人や。こんな高そうな店のもんに手えだすだなんて……」
うなだれつつ明石は静かに立ち上がってスーツに着いた埃を払った。
「無理だな。扱える金の桁が二桁ほど違う」
断言するかなめに明石はうつむくとようやく背筋を伸ばして立ち上がった。周りにいつの間にか集まっていた野次馬も、それが知り合いの挨拶だったとわかると興味を失って散っていった。
「おい、タコ!いい店紹介してやろうか?よくかえでが行っているとこだ。何でも落とした子にプレゼントする店だとよ。リーズナブルでタコでも給料で何とかなる値段だぞ?いいだろ?この国の普通のセレブが通うような店だ。まあ、タコも司法局の本局にデカい執務室を構えてる渉外担当部長様だもんな。そのくらいの出費は出来て当然だと……たぶんあの姐御は思ってるぞ?」
かなめの口調からしてかなめは明石の婚約相手の顔も名前も知っている。そんな事を感じて誠はつい笑ってしまっていた。
「もうええわ。ワシが自分で探すよって……それにあの変態で手が早いことで有名な日野の嬢ちゃんの通う店なんぞ、ワシにはいかがわしくてよう行かんわ!」
肩を落として明石は立ち去ろうとした。だがかなめもアメリアもこんな面白い人物を放っておくわけが無い。
「紹介してやるっての!値段の交渉もアタシは得意だぜ!いっそのこと銀座で買うのを諦めて御前町に行けばいい。あそこは卸専門の店ばかりだが、アタシは顔が効くからタコでも良いもんが卸値で手に入るぞ……この銀座で買う値段の十分の一で同じものが買えるんだ。どうする?どうする?」
かなめは明石を面白いおもちゃのように虐めて楽しんでいた。その様はまさにかなめのサディストであるという本性を道行く人に触れて回るような光景に誠には見えた。
「西園寺……足下見てからに……ワシは一応極道だった男や。そんな宝飾店や無くてその卸問屋で買うなんてケチな買い物はワシの『漢』がゆるさへん!」
どこまで言っても同盟司法局の給料だけでそれほどいいものが買えるとは誠にも思えない。そんなところに笑顔でつけ込むかなめに少しばかり呆れていた。
「ああ、カウラちゃんと誠ちゃんはその荷物大切だものね。先に帰っていていいわよ……私も明石中佐のオモシロ行動を観察して大笑いするつもりだから」
かなめはそのまま急いで雑踏に消えようとする明石を追っていく。彼女について行こうとアメリアは誠とカウラにそう言って小走りで去っていった。
「じゃあ、帰りましょうか」
そう言った誠だが、どこかカウラは気が抜けたようにうなずいて誠の後に続いてくるだけだった。
誠は仕方なく空いているカウラの左手を握る。はっとした表情でカウラは誠の顔を見て我に返った。
「帰りましょう」
その一言にカウラは笑顔で答えた。
『あの姿を、カウラさんのドレスの姿を描こう!これならカウラさんもきっと喜んでくれる!』
誠はそう決心してカウラの左手を握りながら歩き始めた。ルビーの赤が、指先の震えまで照らしている気がした。




