第32話 写真が冷ます夜
「……っておい。もうちょっと拡大できないか?運転手の金髪の武官の他にも、誰か乗ってるだろ」
ランの声で、誠たちは現実に引き戻された。エルマが端末を操作し、画像を拡大する。画面の白い照り返しが、頬の酒気を薄く洗った。
後部座席に、後頭部。金色の長髪の女……それだけが見えた。
「運転しているのは米帝の軍人だとして……この女……同行した研究員か何かか?」
かなめが問う。炭がぱち、と爆ぜ、笑いがいったん止まる。
「報告では、十五歳前後の白人女性だったそうだ。薄着で、担当者が困惑したと。少年がやけに饒舌なのに対して、ほとんど口を利かなかったと聞いている」
エルマの言葉をさえぎったランがまじまじと画面を見つめていた。
「そうとも言えねーよな。うちの茜だって14歳で司法試験に通った例もあるわけだしな。思ったより天才と言うのは多くいるもんだぜ。他にもこの餓鬼の世話係の線も捨てきれねー」
ランはそう言うと自分の中で納得したというようにもとの上座に戻ってしまった。
「つまりこれまでの話を総括するとオメエ等は腹に一物ある餓鬼に遊んでもらってたわけだ……同レベルで……情けねえ話だな」
かなめのタレ目が誠達を哀れむように視線を送ってくるのがわかる。誠はただ頭を掻くだけだった。
「でも……私達には何も出来ないわよね。この子の人権がどうだとか言うのは筋違いだし、うちの周りをこの子が歩いていたってかなめちゃんみたいに銃を突き付けて無理にしょっ引くわけにも行かないんだから。私にはかなめちゃんみたいに相手が誰であろうが銃を突き付けて話を聞き出す趣味は無いの。聞いてるのよ……かえでちゃんから。かえでちゃんが物心ついたころにはもうかなめちゃんはかえでちゃんをまるでおもちゃみたいにして遊んでたって……まあ、かえでちゃんはそれを『自分を真の幸福な体質に仕上げてもらった愛の行い』だと思い込んで感謝しちゃう性癖の持主なのは事実だけど」
アメリアもそう言うと置き去りにされていたレバーの山に手を伸ばした。
「確かにそうだが、先日の同盟厚生局と東和陸軍一部の法術研究が発覚した直後だ。あらゆる可能性は常に考慮に入れておくべきだろう。シュツルム・パンツァーが必要になる本務はどうか分からないが嵯峨警部の法術特捜の補助任務の際にアメリカが横やりを入れてくる可能性は十分に考えられる……おそらくこの少年を使って……」
カウラの言葉にアメリアはあいまいにうなずいた。かなめもようやく納得したように皿に乗せてあった砂肝串に手を付けた。
「話を振っておいてなんだが、私の知っっていることはこれだけなんだ。『法術と言えば司法局実働部隊』と言うのが東都警察の常識でそれに私も染まっているということだ。もう仕事の話は止そう。これ以上ここで考えても無意味な話だ。でも安心したな。貴様がこんなになじんでいるとは……本当に」
とりあえず仕事の話を終えたエルマは手にしたキンカンをアメリアの真似をしながら口に運ぶ。その言葉にかなめは眉をひそめた。
「なじんでる?こいつが?全然駄目!なじむと言う言葉に対する冒涜だよそりゃ」
かなめはカウラを馬鹿にしたような表情で手にしたジンのグラスを傾ける。カウラは厳しい表情でかなめをにらんでいた。
「ほら、見てみろよ。ちょっと突いたくらいでカッとなる。駄目だね。修行が足りない証拠だよ」
かなめは得意げな顔をしてにらみ作るカウラの前で串をくるくるとまわして挑発していた。
「そうねえ。その点では私もかなめちゃんに同意見だわ。なじむと言うのは私レベルになってから。それ以下はまだ戦闘用人造人間のレベルから抜け出せていないのよ」
得意げにそう言うアメリアに大きなため息をつくのがいつもその問題行動の尻拭いを押し付けられているパーラだった。
「じゃあ、アメリアに言わせるとうちの部隊は全員失格じゃねえか」
手を伸ばしたジンの入ったショットグラスをサラに取り上げられてふてくされていたかなめがそう言いながら振り向いた。その言葉に賛同するようにかなめから奪ったビールを飲みながらサラがうなずき、それを見てパーラも賛同するような顔をした。
「そうかな。まだやはり慣れているとは言えないか……私なりになじむように努力はしているつもりなのだが……ただ、未だになじむって、誰の側に同意して一緒に笑いあえばいいんだ?……そこが、まだ分からない」
カウラは反省したように静かにつぶやいた。その肩を勢い良くアメリアが叩いた。
「その為の誕生日会よ!期待しててよね!初期型『ラスト・バタリオン』の先輩である私の企画立案のプランなんだから!一発でカウラちゃんが社会になじむこと請け合いよ!」
アメリアは満面の笑みでそう叫んだ。そのあまりの能天気ぶりに誠はすぐにかなめに目をやった。かなめはにんまりと笑い、烏賊ゲソをくわえながらアメリアを見つめていた。
「ほう期待できるわけだ。どうなるのか楽しみだな。アタシも庶民の祝祭日には馴染んでいない口でね、一緒になじませてくれると助かるわ」
挑発するような口調でかなめはアメリアに向けてそう言った。
「なるほど。分かった。期待しておこう。確かに一番社会になじんでいるように見えるアメリアの言葉だ。信用してみても良いだろう」
納得したようにカウラは烏龍茶を飲んだ。そこでアメリアの顔が泣きべそに変わった。
「なんだか二人ともノリが悪いわね。じゃあ誠ちゃんのお母さんに電話して仕切っちゃうんだから!」
そう言うとアメリアは腕の端末を通信に切り替えた。だが、アメリアの言った言葉を聞き逃すほどかなめもカウラもお人よしではなかった。
小夏が階下で皿を立てる音。座敷の空気が素面に戻る。
「おい、アメリア。こいつの実家の番号知ってるのか?いつどこでその情報を仕入れた?神前!オメエなんでアメリアにだけ教えたんだ!」
かなめの目じりが引きつっていた。隣でカウラは呆然と音声のみの通信を送っているアメリアを眺めていた。誠はアメリアが実家の電話番号を知っていることなどまるで知らなかったので必死に首を横に振った。
「実家の番号じゃないわよ。薫さんの携帯端末の番号……ああ、一応、連絡網ってあるでしょ?これは一応部長権限でね。ランちゃんもよく誠ちゃんのお母さんの所にあいさつに行くじゃない。この前だってお歳暮を届けに行って来るとか言って出かけてったし」
一同がアメリアの公私混同ぶりに呆れる中、アメリアの端末に走る指が軍の指揮の速さと同じリズムを刻む。
「あのー本気ですか?アメリアさん……あのー」
アメリアに近づこうとする誠をサラとパーラが笑いながら遮った。呼び出しの後、アメリアの端末に誠の母、神前薫の顔が映った。
『もしもし……ってクラウゼさんじゃないの!いつも誠がお世話になっちゃって』
久しぶりに見る母、薫の顔を見て誠は何となく恥ずかしくなると同時になぜ母がアメリアの事を知っているのか不思議に思った。アメリアの事だから東都の司法局本部や東和海軍軍令部などに行く際にもしかしたら誠の実家にアポも取らずに突撃したのかもしれない。誠はアメリアならそれくらいの事はやりかねないと大きなため息をついた。
「いいんですよ、お母様。それと私はアメリアと呼んでいただいて結構ですから」
微笑むアメリアをカウラは敵意を込めてにらみつけた。烏賊ゲソをかじりながらやけになったように下を見ているかなめに誠は焦りを感じた。
『でも……あれ、そこはなじみの焼鳥屋さんじゃないですか。また誠が迷惑かけてなければいいんですけど』
母は誠の酒癖を知っているだけに何か口を滑らすのではないかと誠は気が気では無かった。
「今日は今のところ大丈夫」
サラは大きくうなずいた。誠はただその有様を笑ってみていることしかできなかった。
「大丈夫ですよお母様。しっかり私が見ていますから」
アメリアは自信たっぷりに薫にそう言い切った。
「なに言ってるんだよ。誠の次につぶれた回数が多いのはてめえじゃねえか。うちの女で一番頼りにならねえのはテメエだろ?」
ぼそりとつぶやいたかなめをアメリアがにらみつけた。
「なんだよ!嘘じゃねえだろ!アタシは事実を述べたまでだ!嘘はついてねえ!」
かなめが怒鳴った。だがさすがに誠の母に知られたくない情報だけに全員がかなめをにらみつけた。かなめはいじけて下を向く。
『あら、西園寺のお嬢さんもいらっしゃるのかしら』
薫の言葉にアメリアは画面に向き直る。
「ええ、あのじゃじゃ馬姫はすっかりお酒でご機嫌になって……」
「酒で機嫌がいいのは貴様じゃないのか?」
今度はカウラが突っ込みを入れた。再びアメリアがそれをにらみつけた。写真の冷たさを誤魔化すみたいに、アメリアが立ち上がった。
『あら、今度はベルガー大尉じゃないですか!皆さんでよくしていただいて本当に……』
そういうと薫は少し目じりをぬぐった。さすがにこれほどまで堂々と母親を晒された誠は複雑な表情でアメリアを見つめた。
『本当にいつもありがとうございます』
「まあまあ、お母様。そんなに涙を流されなくても……ちゃんと私がお世話をしますから」
なだめに入るアメリアをランはただ呆れ返ったように見つめていた。その視線が誠に向いたとき、ただ頭を掻いて困ったようなふうを装う以外のことはできなかった。
「それじゃあ誠さんを出しますね」
「え?」
そういうとアメリアは有無を言わさず端末のカメラを誠に向けた。ビールのジョッキを持ったまま誠はただ凍りついた。
「ああ母さん……」
通信越しとは言え久しぶりに見る母の顔に誠は照れ笑いを浮かべた。
『飲みすぎちゃだめよ。本当にあなたはお父さんと似てお酒は弱いんだから。お父さんみたいに自分で決めた量以上はどんなに進められても飲まない。そう言う気構えが大事なのよ』
薫は自宅での誠の酒癖を知っているのでため息をついた。
「やっぱり親父も飲み過ぎると脱ぐのか?すぐ脱ぐのか?」
ニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくるかなめを誠は押しやった。カウラもかなめを抱えて何とか進行を食い止めた。
『お酒は飲んでも飲まれるな、よ。わかる?』
「はあ」
母の勢いにいつものように誠は生返事をした。
「おい、クリスマスの話がメインじゃなかったのか?」
思い出したようなランの言葉にアメリアは我に返った。誠達に腕の端末の開いた画像を見せていたランは空気を読んで自分のところに腕を引いた。
『クリスマス?』
薫は不思議そうに首をひねる。
「いえ、カウラちゃんの誕生日が12月25日なんですよ」
アメリアはごまかすように口元を引きつらせながらそう言った。その言葉に誠の母の表情が一気に晴れ上がった。
『まあ、それはおめでたい日にお生まれになったのね!それはそれはおめでとうと言うべきところなのかしら?』
戸惑った口調で薫はそうつぶやいた。
「ちなみに八歳です」
「余計なことは言うな」
かなめの茶々をカウラはにらみつけて黙らせた。それを聞いて苦笑いを浮かべながらかなめはグラスを干した。
『じゃあ、お祝いしなくっちゃ!でも何をすればいいのか……私もクリスマスに疎い遼州人ですもの……そもそもクリスマスって何なんですの?』
そう言うとしばらく薫は考えているような表情を浮かべた。
「そうですね。だからみんなで一緒にやろうと思うんですよ」
アメリアの言葉にしばらく呆然としていた薫だが、すぐに手を打って満面の笑みを浮かべた。
『そうね、一緒にお祝いするといいんじゃないかしら?楽しそうで素敵よね』
何も知らない薫は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「そうですよね!そこでそちらの道場に行ってお祝いをしたいと思うんですが。そちらの道場は尋ねてくる武闘家を客人として迎えるお部屋が沢山有るじゃないですか。私達もお邪魔したいなーと思いまして」
ようやくアメリアは神妙な顔になった。その言葉の意味がつかめないというように薫は真顔でアメリアを見つめた。
『うれしいんですけど……うちはただ客間が多いだけの普通の家よ。特にクリスマスとかしないし……そもそもクリスマスって何なのか分からないし……』
薫は戸惑ったように突然の提案に驚いた顔をしてアメリアに遠慮する。
「でも剣道場とかあるじゃないですか。それに東和でも伝統ある『神前一刀流』の奥義を見ようと何人も武闘家が尋ねてきて、小さい頃は一緒に遊んでもらったって誠ちゃんも言ってましたよ」
食い下がるアメリアだが薫は冷めた視線でアメリアを見つめていた。
『道場はその日は休みだし、たしかうちの人も教えている高校の剣道部の合宿の予定が入っていたような……良いんですか?それでも』
そこで少し考え込むような演技をした後、アメリアは一気にまくし立てた。
「そんな日だからですよ。みんなでカウラの誕生日を祝っておめでたくすごそうというわけなんです」
アメリアを見ながらカウラは烏龍茶を飲み干した。
「完全に私の誕生日ということはついでなんだな。私が社会になじむと言うのもただの口実と言う訳だ」
乗っているアメリアを見つめながらカウラがぼそりとつぶやいた。
『そういうこと。じゃあ協力するわね。誠もそれでいいわよね!クリスマスが何かは分からないけどおめでたいらしいから良いですよ』
笑顔を取り戻した母に誠は苦笑いを浮かべた。
「まあいいです」
誠はそう答えることしかできなかった。その光景を眺めていたエルマが不思議な表情で誠に迫ってきたのに驚いたように誠はここは何を言っても損しか無いと引き下がった。
「今の女性が君の母親か?随分と若いな……不死人か?」
エルマの言葉にかなめがうなずいていた。ランは渋い顔をして誠を見つめているが、それはいつものことなので誠も気にすることもなかった。
「アタシもそう思ったんだよ。まるで姉貴でも通用するだろ?あの顔つき……アタシのお袋も年は70過ぎてるのに最近じゃあかえでの奴の妹とか名乗って街中をぶらついているらしい。不死人ってのは便利なもんだ。なにか?法術適正とかは……」
かなめはサラを脅して取り返したジンの満たされたショットグラスを煽りながらそう言った。
「そんなの無かったって聞いてますよ。母さん、最近の端末は自動で画像の調整が出来るとか聞いてますから。きっとそのせいですよ。実物を見たら普通にお母さんしてますよ……」
照れながらそう言う誠にとっては母はあまりに身近な存在だった。そして先月行われた東和国民全員に課せられた法術適性検査の結果は法術適性が無かったと母から聞いていたのでそれをそのまま伝えるしかなかった。
「そんな機能あるのか?この前サイボーグだってことでネット捜査の研修を受けたけどそんな話は聞かなかったぞ。でもオメエの母ちゃんの事だからそう言うアプリを端末に入れている可能性はあるな……アプリで年齢詐欺か。やるな」
ニヤけた表情のかなめに追い詰められるが誠もここは大好きな母に関することとあって負けてはいられない。
「母からは聞いていませんよ。そんなこと。それにうちの母が若く見えるという言葉は会う人全てから聞くので合計でもう数万回聴きました。それにそんな数不死人が居たら東和は人であふれかえっちゃうじゃないですか!うちの部隊だって隊長とクバルカ中佐と島田先輩の三人も居るんですよ?この割合で不死人がいたら、東和が人で詰まりますよ!」
甲武の貧しい地球人はやたら増える法則があるという嵯峨の言葉を思い出して誠はビールをあおった。空になったジョッキ。ランの方を見れば飲み終えた徳利を手に誠をにらみつけていた。
「じゃあ、ちょっと頼んできますね。クバルカ中佐は日本酒で、……西園寺さんは、まあ、いいとして」
誠は母の話題で盛り上がられるのが恥ずかしくなってそう言って立ち上がった。
「引っかかる言い方だな」
かなめはそう言いながらジンのボトルに手を伸ばした。
「じゃあ、誠ちゃん私も生中!サラとパーラの分も」
「私はサワーが良いな。できればレモンで」
エルマの言葉を聴いて誠はそのまま二人に言われるがままに階段を降りかけて少し躊躇する。
「まあ、神前君。注文?」
時間を察したのか春子が上がってこようとしていた。そして階下には皿を洗う音だけが響いていた。
「神前君、クバルカ中佐、サラちゃんと、それにクラウゼ中佐が生中。それにベルガー大尉とパーラさんが烏龍茶……でいいかしら?」
いつものことながら春子は注文を当ててみせる。
「それとお客さんがサワーが良いって言う話しなんですが……」
誠の言葉に春子は晴れやかな表情を浮かべた。
「それならカボスのサワーが入ったのよ。嵯峨さんがどうしてもって置いていくから司法局の局員さんだけが相手の特別メニューよ」
いつものように春子は嵯峨の話をする時は晴れやかな表情になる。
「じゃあ、お願いしますね」
そういうと誠は二階への階段を駆け上がった。そこには沈痛な表情のカウラがいた。
「エルマさんも来たいんだってよ。カウラちゃんの誕生日会」
アメリアの言葉にかなめは大きく頷いた。だが、明らかにカウラの表情は硬かった。普段なら呆れるところだがそういう感じではなくどう振舞えば良いのか戸惑っていた。そういう風に誠には見えた。
「駄目なのか?カウラ」
心配そうな表情でライトブルーの髪を掻き揚げるエルマの肩にカウラはそっと手を乗せた。
「そんなことがあるわけないだろ。私達は姉妹なんだ」
「じゃあ、お姉さん命令。二人とも特例のない限り参加すること。以上!」
アメリアは得意げに命令する。確かにカウラもエルマもアメリアから見れば妹といえると思って誠は納得した。
「おい、特例って……」
「馬鹿ねえ、かなめちゃんは。私達は武装警察官。急な出動は私達の仕事にはつきものでしょ?」
そうアメリアに指摘されてかなめはふてくされる。だが、正論なので黙ってグラスのジンを舐める以外のことはできなかった。
「そうか……ありがとう」
エルマが不器用な笑いを浮かべた。その表情にサラが何かわかったような顔で頷いた。
「どうしたの、サラ」
アメリアの問いにサラは出来るだけ会話の邪魔にならないようにアメリアのところまで這っていって耳元で何かをささやいた。アメリアはすぐに納得したとでも言うように頷いた。
「内緒話とは感心しないな」
カウラの言葉にアメリアとサラは調子を合わせるようににんまりと笑った。
「私が男性と付き合ったことがないということを話題にしているわけだ。サラが仕事が忙しくなる前に彼氏の一人も作らないとこの国では結婚できないと言う話をしていた。まあ、この国での結婚などと言うものは最初からファンタジーみたいなものだからな。私も諦めている」
そんなエルマの一言にアメリアとサラは引きつった笑みを浮かべた。
「馬鹿だねえ……テメエ等の行動パターンは読まれてるんだ。こんな艦長の指示で動くとはもう少し空気を読めよ。それにまだ結婚を諦めていない30女がそこに居るな」
かなめの挑発的な言葉にアメリアがむっくりと起き上がってかなめをにらみつけた。
階段をあがってきた小夏から中ジョッキを受け取ったランの言葉にカウラが大きく頷いていた。
「飲め。飲み直せ。話はそれからだ」
ランが大きめの徳利を受け取り、カウラが大きくうなずいた。
「私達は生まれが特殊な上に現状の社会では異物だからな。仕方のない話だ。私も東和に居る限り結婚は無理だろう。ここは『モテない宇宙人』である遼州人の国東和だ。恋愛とはフィクションであると言うのを地で行く国で結婚などと口にするのは時間の無駄だ」
そう言いながらカウラがちらりと誠を見上げた。カウラは一度だけ誠を見上げ、すぐに烏龍茶に視線を戻す。その所作につい、誠は自分の頬が赤く染まるのを感じていた。
「これで後はお母さんと話をつめて……かなめちゃん。私は諦めて無いから、結婚。30女を舐めないでよね」
アメリアが宙を見ながら指を折っているのが目に入った。
「お母さんて……こいつとくっつく気か?そんなこと『許婚』のかえでが許さねえだろ」
かなめの一言にアメリアは頬を両手で押さえて照れたような表情を作った。
「私は無関係だからな」
カウラはそう宣言すると烏龍茶を煽った。
「本当に楽しそうな部隊だな。神前曹長」
そんなエルマの一言に引きつった笑みしか浮かべられない誠が居た。
「事実は写真一枚。足りない分は、準備で埋める……結局、私の思考は仕事から離れられない……『ラスト・バタリオン』の宿命か?」
そんな自分を嗤うようなカウラの言葉が仲間達の笑い声の中に消えていった。




