第31話 笑いが止まった瞬間
酒が回るにつれて座敷はほどけ、いつもの月島屋の空気に戻っていった。
「あ、誠ちゃん今日は元気そうね。今日は飲み過ぎちゃだめよ。大事なお客さんが来てる日なんだから」
いつもここでは醜態をさらしてばかりのアメリアの言葉が誠に刺さった。炭の匂いに、タレの甘さが混ざる。アメリアの手に握られたジョッキの結露が木目に輪をつくる。
「え?元気ですよ。それに飲み過ぎると言うか、西園寺さんが僕の酒に変な細工しなければいつだって平気ですよ!僕は飲み会に誘われることはこれまでほとんど無かったのですが、飲み会で潰れるようになったのはここに来るようになってからです!それにその原因のほとんどは西園寺さんが僕のビールにアルコール度75%の酒とかを混ぜて潰すからであって自分から潰れたことは一度も無いですから!」
誠の空になった小皿に、アメリアがレバー串を置いた。
「もしかして迷惑だった?誠ちゃんレバー好きじゃないの?」
アメリアは落ち込んだように見上げてきた。それがいつもの罠だとわかっていても誠はただ愛想笑いを浮かべるしかない。
「別にそう言うわけでは……確かにレバーは好きですけど。いつも西園寺さんがくれるの食べてますから。でもアメリアさんもレバー好きじゃないですか?ああ、サービスですね。ありがとうございます」
誠はそう答えるしかなかった。それを聞くとアメリアの表情はすぐに緩んだ。そしてそのまま余った串で誠の鶏モモ串の肉を串から外し始めた。
「そう言えばクリスマスの話はどうしたんだ?」
誠に媚を売るアメリアの姿に、苛立ちながらかなめは吐き捨てるように口を開いた。彼女の方を向いたアメリアは満面の笑みで笑いかけた。その笑いでアメリアの酒がかなり回ってきているのだとこの場に居る全員が分かっていた。
「なんだよアメリア。気持ちわりいなあ。オメエはいつも飲みすぎなんだよ」
ご機嫌なアメリアを見てこういう時のアメリアに関わるとろくなことが無いと学んでいるので引き気味にかなめはジンの入ったグラスを口にした。そんなかなめが面白くてたまらないというようにアメリアは指差して誠に笑いかけた。
「あの、アメリアさん。人を指差すのは良くないですよ。縁起が悪いって昔から言います」
誠はさすがに悪乗りしてきたアメリアに向けて窘めるようにそう言った。
「誠ちゃんまでかなめちゃんの味方?所詮……私の味方は誰もいないのね!みんな私の事をオタクだのデカ女だの糸目だの言って馬鹿にして……グレてやるんだから!」
アメリアは大げさに肩を落としうつむいた。いつものアメリアのやり方を知っているサラとパーラが複雑な表情で彼女を見つめていた。
「クリスマスねえ。クラウゼも少しは素直にパーティーがしたいって言えばいいのによー」
ランは一人、エイヒレをあぶりながら日本酒を飲んでいた。
「だってランちゃん!普通じゃつまらないじゃないの!」
突然、アメリアは立ち上がりランの前に立った。ここで場にいる人々はアメリアがすでに出来上がっていることに気づいていた。
「つ……つまらねーか……そう言う問題なのか?アタシはキリスト教については本を読んだ程度でその行事を全部知ってるわけじゃねーがクリスマスというのは意地でもお笑い大会にしねーとイケねーイベントなのか?アタシはキリスト教徒でもねーし、東和でクリスマスではしゃぐのは風俗通いのうちの『駄目人間』だけだから興味ねーや」
さすがに目の据わったアメリアをどうこうできるわけも無くランは責任回避をするようにそう言い放って興味を失っていた。誠が周りを見ると、かなめは無視を決め込み、カウラはエルマとの話を切り出そうとタイミングを計りつつ烏賊ゲソをくわえていた。
パーラとサラ。本来なら酒の席で暴走することが多いアメリアの保護者のような役割の二人だが、完全に彼女達の目を盗んで飲み続けて出来上がったアメリアにただじっと見守る以外のことは出来ないようだった。
「やっぱりクリスマスと言うと!」
そう言うとアメリアはかなめの前にマイクを気取って割り箸を突き出す。嫌な顔をしたかなめのジンのグラスの中の氷がごろりと鳴るたび、アメリアの頬に熱の色が濃くなる。誠はアメリアがかなり酔っぱらってきていることをその揺れる上体で理解し始めた。
「そうだなー、クリスマスツリーだな。うちの御所にはデカい木があったからクリスマスになると必ず全裸のかえでを良く吊るしたもんだ」
自信をもって答えたかなめにアメリアは大きく首を横に振って馬鹿にするような顔で見つめ返した。
「ハイ!失格。今回はカウラちゃんのお誕生日会なのでツリーはありません!それと本格的なツリーを用意すると本当にかえでちゃんが自主的に豊川駅前の街路樹に全裸で釣り下がることになりそうだから却下ですー!」
アメリアはハイテンションでまくし立てた。その姿をちらりと見た後、ランは腹を決めたように視線を落とした。アメリアは割り箸をマイクにして笑う。笑い皺の下で、視線だけがカウラとエルマの間を往復した。
自分だけ勝手に楽しくなるアメリアに置いていかれるのは、慣れている。けど、今夜くらいはそんなことをしなくてもいいんじゃないかと思いながら誠ははしゃぐアメリアを冷めた目で見ていた。
「じゃあ次は……」
獲物を探してアメリアは部屋を見渡した。偶然にも豚串に手を伸ばそうとしていたパーラの視線がアメリアとぶつかってしまった。顔全体で絶望してみせるパーラに向かってアメリアは満面の笑みでインタビューに向かった。
「何よ!この酔っ払いが!つまらないクイズをしてそんなに楽しい?ここは東和共和国。クリスマスなんかで喜ぶのは風俗店のサービスが楽しみな隊長ぐらいのものよ!アメリアはそんなに隊長と同レベルの『駄目人間』になりたいの?」
パーラの叫びと同時に彼女が酔った上で怒ると見せる激昂してジョッキを叩きつける音が響いた。そんなパーラの反応を見るとアメリアは割り箸でその頭をむやみに突きまわす。それを苦笑いを浮かべながらエルマは眺めていた。
「まあ世間の常識とはずれているのは良いとして楽しそうな部隊だな。ここは。うちの部隊は隊長の私が居るとみんな気を使って静かにしているらしいんだ。いつも部下達だけで自主的に行く飲み会ではこんな感じでの飲んでいるのかなと思うと少し心苦しい。ここまで心を割って話をしてくれる部下を持てるというのは幸せだな……ただ、あの私でも心惹かれる美しい面差しの日野少佐に全裸で木にぶら下がるという性犯罪的趣味があったとは……意外だった」
半分以上は呆れていると言う顔のエルマに合わせてカウラは無理のある笑みを浮かべて咳払いをした。
「冗談なんだよな……カウラ」
そう懇願するようにカウラを見つめるエルマだが、かえでが喜んで全裸で豊川駅前の街路樹にぶら下がりかねないのは否定できない事実だったのでエルマの眼鏡越しの視線からカウラはわざとらしく目を逸らした。
「話は変わるが……エルマさん。あんた、何か言いたいことがあってこいつに声をかけたんじゃねえのか?アンタ等、社会に不慣れな『ラスト・バタリオン』がいくら久しく同期にあっていないからと言って仕事中に通信を入れてきていきなり飲みに行きたいなんてアタシ等を誘う訳がねえ。言ってみな、何かあったんだろ?」
タコの酢の物に手を伸ばしたかなめの言葉にエルマは表情を切り替えた。
「なるほど、カウラが言うように西園寺大尉はいざという時の勘が鋭いというのは確かだということだな。隠し事は出来ないらしい。ああ、そうだ。今夜は例の『武悪』が司法局実働部隊に搬入されるらしいな。整備班の班長がこの場に不在なのもそれが理由なんだろ?」
その一言で、座敷の空気が固まった。
炭がぱち、と爆ぜる音だけがやけに大きい。
誰かの箸が小皿に触れて、乾いた音を立てた。
「どこでその情報を?」
カウラの問いにエルマは首を振った。
「機動隊の方と言うことは警備任務があったんじゃないですか?聞いた話では『武悪』って相当危ないシュツルム・パンツァーみたいじゃないですか。そんなものが輸送中にテロリストに盗まれましたなんて洒落にならないですからね。遼州一の治安を誇る東都警察は面子にかけて全警備部隊に総動員をかけて輸送警備に当たると考えるのは普通だと思いますよ」
誠が適当に言った言葉にうなずき、エルマはそのまま腕の端末に手を回した。エルマが端末を傾ける。炭がぱちと爆ぜ、座敷の誰もが反射的に黙った。
「神前曹長はなかなか鋭いな。特に私の部隊は新港での『武悪』の荷揚げ作業の警備担当だった。テロリストが狙うとしたらそのタイミングが一番危険だからな。相手の甲武軍関係者とは綿密な打ち合わせをしていると言っても別組織であることに変わりはない。組織間での重要物資の受け渡しが行われるその瞬間を狙う。一番危険性が高い瞬間を担当したのが我々だった」
エルマはこれまでの笑顔を神妙なものに変えてそう言った。
「だけどそれだけで私に声をかけたわけじゃないんだろ?何かあったんだな」
カウラの言葉を聞きながらエルマは端末の上に浮かぶ画面を検索していた。誰かの箸が小皿に触れて鳴った。笑いが、そこできれいに途切れる。
「警備の最中に何も無ければ……確かにな。貴様のことなど忘れていたかもしれない」
少し緊張した笑みを浮かべるエルマがカウラを見ながら端末の上に画像を表示させた。
闇の中に浮かぶ高級乗用車。見たところ東和では珍しいアメリカ製の黒塗りの電気自動車である。そこには少年が一人、窓の外に顔を出した運転手のサングラスの男の顔も見えた。
「外ナンバーか……新港。東和は地球のどの国とも国交が無いからな、遼州同盟の大使館付きの車には普通のナンバーが付与されるが、国交のない国には外ナンバーが付与されて警察などの監視対象になっている。地球勢力の中にアレの移送を監視している連中がいたところで不思議は無いな。アレの輸送に関してはかなりの情報が洩れる事は上層部も計算済みだったはずだ。あんな規格外の物を移送する計画が外部に漏れないはずが無い」
カウラは相槌を打つような笑顔を浮かべると自分の端末にその写真をコピーした。それをわざわざ立ち上がって覗き込むかなめ。しかし、それを見たかなめの表情が急に変わった。
「おい、叔父貴じゃねえの?この餓鬼。いつの間にか小さくなっちゃって……誰かみたいに」
奇妙な光景を見て面白いというようにニヤけたかなめは上座で一人でちびりちびりと日本酒を飲むちっちゃなランに目をやった。誠もカウラもしばらくはかなめの言葉の意味が分からずに呆然としていた。しかし、かなめのとぼけた調子の言葉を耳にしたランの眼光はすぐさま光を帯びてかなめに向かった。
「おい、あたしにも送れ!」
上座で一人仲間はずれにされていたランが叫んだ。かなめはしばらく呆れたように頭を掻くと自分の端末を起動させて、すぐに画像データを検索しその画像を三人の腕の端末に転送した。
かなめの祖父と思われる老人の前に、以前かなめに見せてもらった壮年時代のかなめの父の西園寺義基と思われる人物と並ぶ目つきの鋭いその妻と呼ぶには若いかなめの母である康子とその前に一人の車いすの少年が映っていた。
西園寺家の家族アルバムのフォルダーの一部なのだろう。その少年は明らかに先ほどの少年と比べるとひ弱でか細い印象があるが、同一人物と思いたくなるぐらいに似通っていた。
「これは?誰だ?さっきの少年は自分の足で歩いていたぞ。この少年は……かなり衰弱しているな。別人にしては似すぎているし……」
カウラの一言にかなめは呆れたようにため息をついた。そして彼女はそのまま自分の座っていた席の前に置かれていたグラスを手にとって口に酒を含んだ。
「33年前に叔父貴がうちに来た時の写真だ……ったく不死人だからお袋だけ今でもおんなじ顔をしているが親父はこの時から比べると老けたな……。まあそんなことはどうでもいいんだ。叔父貴は以前いた家ではほとんど運動もさせてもらえない状況で相当弱っていて足腰立たない有様だったそうだ……遼南南北朝動乱の1年後の話でアタシが生まれる前だから詳しくは知らねえけど」
かなめの言葉にカウラと誠はしばらく思考が停止した状態になっていた。
写真にひきつけられる誠達。ようやくカウラが口を開いた。
「エルマ。これは……」
カウラも意味がわかってまじめな顔でエルマに向かった。
「部下が撮影したものだ。私もこの少年と嵯峨特務大佐とのつながりを見つけたのは偶然でな。たまたまテレビでやっていたこの前の大戦の映像を見てピンと来ただけだったが……」
そんなエルマがかなめを見つめた。
「あれ?ジョージ君がどうして車いすに乗ってるの?」
パーラをいじるのに飽きた酔っぱらいのアメリアがサラを引きずって誠の端末まで来るとそう叫んだ。その言葉で誠もこの少年のことを思い出した。寮の近くで何度か見かけた少年がジョージだった。その口の減らない憎たらしい態度に頭にきたことは誠も何度か有った。
「ジョージ君?オメーはこの餓鬼の知り合いか何かなのか?」
ランの言葉にアメリアはにんまりと笑ってうなずいた。
「ええ、うちの寮の近くの子らしくて時々遊びに来るわよ……たぶん誠ちゃんやパーラやサラなんかも見たことが有ると思うけど」
スツールがキィと鳴る。掴まれた襟が布鳴りを立て、座敷の空気が冷えた。そこまでアメリアが言ったところでかなめが飛び起きてアメリアの襟首を掴み上げた。アメリアはさすがに突然の攻撃に一瞬で酔いが醒めて正気を取り戻してかなめの腕を掴んで暴れた。
「おい!なんでその餓鬼が居る時にアタシを呼ばなかった!確かに今の叔父貴の目は死んだ魚みたいだが、それを除けば親子だっていうぐらい似ているんだ!こいつは!オメエもアタシの家族写真は何度も見ていて叔父貴がうちに来た時は歩けなかったと説明した時にこの写真を見ている!その叔父貴と同じ顔をしているんだぞ!テメエの目は本当に開いてるのか?糸か何かで縫い付けてあるのかその目は?そのぐらい巡洋艦の艦長をやってるんだから気付け!アタシだけ顔を見てねえってことはこの餓鬼はアタシのことだけは避けてたってことだ!そんなこと普通の餓鬼が考えるか?この餓鬼はただもんじゃねえ!オメエ等は遊ばれてたんだよ!」
声だけが低く、笑いの余韻を切り落とした。
「でもカウラちゃんも誠ちゃんも知ってるわよねえ。時々遊びに来る……って!いつも子どもの相手してる時は、私は『幹事モード』で視界が狭いの。……言い訳だけどね……悪かったわよ!私が気を遣えば……と言うか鬱陶しいわよ!離してよ!」
アメリアが襟首を振りほどこうと暴れるのを見てかなめは手を放す。そして彼女の視線は自然と誠の方を向いてきた。
「え?確かに見たことがありますけど……でも……」
カウラも同じ顔の作りはしているもののどこまでも陽気に見えるエルマの写真の中の少年とかなめの出した車いすの大人しそうな今の嵯峨からは想像もつかない少年時代の嵯峨の写真に共通点を見出すことが出来なかった。
「でもじゃねえんだよ!アメちゃんの外ナンバーの車に乗ってる叔父貴と同じ顔をした餓鬼。これだけで十分しょっ引いたっていい話になるんだぞ!コイツは間違いなく米帝が作った叔父貴のクローンだ!しかも米帝がこれだけ大事に扱ってわざわざアタシ等の寮の近くをうろつかせてるってことは当然、法術師としての能力は折り紙付きで神前の上を行くと考えるのが普通だろ?こんなのが『武悪』の周りをウロチョロしてたってことはそれだけ米帝が今回の件に一枚噛みたがっていると言う証じゃねえか!」
誠を怒鳴りつけるかなめの肩をランが軽く叩いた。
「なんだ!姐御も怒れよ。こいつ等……」
ランは冷静な表情で焼き鳥の肉を噛みちぎった。
「西園寺、それは可能性の一つだろ?確定できる証拠は何もねー。確かに隊長はアメリカの人体実験の材料だったことがあるのは事実だ。そのクローンが作られていたとしても不思議なことは一つもねー。だが、そいつがなんでそこに居るか、そして神前の周りをウロチョロしていたか。それを考えたことはあるのか……たぶん法術師なんだろーが……法術師をクローニングしてもその法術師がクローンとは限らねーことは日野の餓鬼というかクローンに法術師が24人中に一人しか居ねーことからもわかる。それだけのレアな存在が一人で西園寺やアメリアみたいな危ねえ姉ちゃんが居る寮の周りにいるんだ?そんなにアメリカさんはうかつなのか?それとも……そんなのは目じゃねーほど強いのか……それとも法術師ですらなくてただの囮を放ってその事実を知ってる西園寺を混乱させるのを狙ってるのか……あの国は一筋縄ではいかねーのは東都戦争でその手先を何人も殺してきたオメーが一番わかってるだろ?違うか?」
その場を冷やすようなランの冷静な状況分析に一同は落ち着きを取り戻した。
「でもこんな写真を見せられるまでは実際近くの子供だと思ってたから……どう見ても普通の遼州人の子供にしか見えないじゃないの……ねえ」
アメリアはそう言うと後ろで彼女を盾にしてランから隠れていたサラとパーラに目を向けた。
「あの……」
パーラはかなめに言われて事の重要性は理解したが、印象のまるで違う二人の接点を見つけられなかった言い訳はできないと諦めたように俯いた。
「わかった。つまりオメー等は何も知らないと……しゃーねーだろ。この餓鬼とあの特殊な育ち方をした『駄目人間』。同じ遺伝子で出来ていたとしても接点を思いつくなんてのはアタシにだって出来ねーよ。そー言う意味ではアメリカはアタシ等を混乱させるという最低限の目的は達成したわけだ……たぶんその餓鬼はしばらくはアタシ等の前からは姿を消すだろーな。次にアタシ等の前に現れる時は……ただの餓鬼としてか……これまで出会ったどんな敵よりも強大な敵としてかはアタシにも分からねーけどな」
不思議そうな顔をして端末の甲武に来たばかりの嵯峨をランはまじまじと見つめた。明らかにその異常な食いつきに気付いたのはかなめだった。
「姐御……もし敵じゃなければいいのにとか考えてんじゃねえのか?なんだ?中佐殿は枯れ専だと思っていたのですが叔父貴が好きだとか?あれが小さかったらとか考えている……とか?」
ころころと気分が変わるのが特徴のかなめはまた笑顔になってランに向けてそう絡んできた。それを見て誠はかなめはかなり飲み過ぎてきていていつもの奇妙なカクテルを誠に飲ませる時間が近づいてきていることを理解した。
「これは仕事の話だ。……西園寺、過ぎたことはどうしよーもねー。アメリカも馬鹿じゃねーんだ。『武悪』がうちに来たということはうちの武装状況は次の段階に入ったことくらい理解しているし、おそらくエルマさんの経歴くらいはCIA辺りは掴んでいてそこからそのジョージとか言う餓鬼の情報がかなめの耳に入ることくらいの予想は付く……連中は本当に食えねーからな……『武悪』の荷揚げにこの餓鬼が立ち会ったというのはこいつが法術師の可能性が高い……それは間違いねーのは事実だがな」
ランはあくまで冷静に粘らず次の分析へ移った。
仕事モードのランに凄まれてかなめはすぐに引っ込めた。隊の笑い話にランが隊長の嵯峨に気があると言う冗談が囁かれているが、それが事実だったのかと思うと誠は少し引いた。
「地球圏の外交事務所の車で動いているってことは……アタシ等は監視されていたってことか。目的はこいつだろうがな」
ランは視線を誠に向けた。誠はランの刺すような視線に向けてただ愛想笑いを浮かべた。
「確かに君に関するデータはどの国も欲しがっているのは事実だ。『近藤事件』での衆人環視下での法術展開。あれに食いつかない軍や警察関係者はいなかっただろう……そしてとどめがこの前の同盟厚生局前での法術暴走事件だ……神前曹長は並のシュツルム・パンツァーパイロットではない。アメリカが脅威に感じているのは事実なんだろう。そしてその所属する君達の部隊もアメリカや地球圏にとっては脅威に映っているに違いない」
そう言いながらエルマは感心するように誠を見つめてきた。それが気に入らないアメリアが誠の腹にボディーブローを決めた。
「隊長のクローンの製造が行われたということだとすると……アメリカ陸軍の関係者と言うことか。また厄介な連中が顔を突っ込んできたがっているみたいだな……あまり関わり合いになりたくない相手だ。ことが地球圏となると複雑な外交関係の力学が作用する。遼州圏内だけの政治力学だけで問題が解決した同盟厚生局の一件とはわけが違って来る」
カウラの言葉にエルマもうなずいた。嵯峨は先の大戦でアメリカ軍の戦争犯罪者としてネバダ州の実験施設に送られていたことは部隊の外では口外できない秘密の一つだった。




