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第28話 どことなくぎこちない会話

「ああ、神前。この前の豊北線の脱線事故の時の現場写真はどのフォルダーに入っているんだ?ちょっと調べたい写真が有るんだ。あの時の指揮はいつも通り私だったが、貴様はいつものように05式を無駄に横転させて作業用トロッコを1台破損だろ?その請求書が国鉄千要支社から回ってきている。それが事故だったという証拠が欲しいんだ。教えてくれ。写真に加えて、無線ログと05式の加速度ログ、国鉄側の作業指示票の写しもまとめる。事故性の立証はこの線で行く」 


 気分を変えようとカウラが誠に言葉をかけてきた。いつもなりにこの異常な性的異常空間である機動部隊の詰め所の雰囲気にのまれないのがカウラの良さで誠の安心できるカウラへの信頼の証だった。


「ああ、ちょっと待ってください……たぶん共有フォルダの3番だったような……あ、見つけました!今送ります!」


 誠はそう言いながらデータをカウラの端末に転送した。ここは、油断すると誠が『18禁側』へ拉致される詰め所だ。


 かなめ、かえで、アメリア。時々リンとアン。


 そして当の隊長ランは、望むと望まざるとに関わらず巻き込まれている。


「カウラ!珍しいこともあるもんだな!」 

挿絵(By みてみん)

 巨大すぎる隊長机の上、詰将棋の駒がコトと滑る。ランは足をぶらぶらさせたまま画面を指でちょいと弾く。薄ら笑いでカウラをちらちらと見つめながらかえでが部屋を出て行った。空気が一段軽くなった。その様子を見はからってランがカウラに声を投げた。


 椅子に浅く座ってノンビリとしていたカウラがそんなランに目を向ける。


「私ですか?それと珍しいことって何ですか?クバルカ中佐」 


 突然声をかけられたカウラは驚いた様子で機動部隊長の巨大すぎる机に向かっていつも通り詰将棋をしているちっちゃな副隊長のランに目を向けた。


「おう!東都警察の第三機動隊の隊長さんからご指名の通信だ!アタシへの直通ってことはアタシにも了解が欲しいだけの重要案件と言うことだが……機動隊はうちとは関係ねーからな。珍しいなあ!オメー宛に私的通信なんて!いーぞ!アタシはオメーに私的人間関係がうちだけってのが気になってたんだ!他からの電話でオメーのパチンコ依存症が収まってくれれば万々歳だ!」 


 そう言ってランは画面を切り替えた。誠は思わず隣のカウラの画面を覗き見ていた。見覚えのあるライトブルーのショートカットの女性が映っていた。誠はそのメガネの鋭い視線から先日演習場で出会った警部補、エルマ・ドラーゼのことを思い出した。


『カウラ、先日は久しぶりだったな……今は時間はいいか?勤務中なのは分かっているが……どうにも……勤務中なのは承知だ。だが、今は『声』だけでも要る。すまない。私としてもこの時間が機動部隊では少ない暇な時間でな。自分の時間と相手の時間の感覚が違うことなどは十分承知していることだが、カウラにはどうしても連絡しておきたかった。つまらない話だが聞いてもらえるだろうか?』 


 薄いブルーのショートボブ、無反射コートの眼鏡。背後で無線のノイズが一度だけ入り、すぐ消えた。艶のある声に誠の耳に響いた。彼の目の先にかなめのタレ目が浮かんでいたのですぐに誠は下を向いた。


「いや、どこの司法執行機関も暇な時間は今ぐらいの時間なんだろう。貴様はこれから隊員の体力強化のトレーニングに入るのか?うちも小隊員で体力だけが自慢の神前と言うあの身長だけが取り柄の部下のランニングの予定が入っているところだ。それにしても、エルマも元気そうだな。大丈夫だ。うちは『特殊な部隊』の別名の通り相当酔狂な命令があったとき以外は常に暇な部隊だ。時間なら気にしなくていい……どうせその神前も体力以外は何のとりえもない人材だ。気にする必要は無い」 

挿絵(By みてみん)

 受話位置が半歩近い。耳朶が薄く色づくのを、かなめが横目で見てニヤつく。あまりにあっさりとした挨拶に茶々を入れようと顔を出していたかなめは毒気が抜かれたように呆然とカウラを見つめていた。


『同期で現在稼働中の連中にはなかなか出会えなくてな……誰か仕切る人間が居れば会合でも持ちたいとは思うんだが……カウラもそうだろ?同期の他の連中とは通信では連絡を取っているがいざ会うとなると時間が無い。お互い社会に出るというものは難しいものだな』 


 誠はエルマと言う閉所戦闘訓練所で先日会った性格のきつそうなメガネの警部補の事を思い出していた。


「同期会か。確かに久しい。だが『一堂に会す』のは難しい。民間に出た者は年末が繁忙期だ私達などかなりましな方だ。軍や警察のタイムスケジュールは想像がつくが民間企業のそれは私にも想像がつかない」


 カウラはそう言って画面のエルマに向って苦笑いを浮かべた。


『そうなのか。私の勤務する東都警察の機動隊は年末は色々とイベントの警備が続くからほとんどの日が勤務なんだ。その直前なら時間が取れると思ったのだが、確かに民間企業に入った連中の予定は逆だろう。民間企業は年末が休みだからな。時間が合わないと言うのはもどかしい限りだな……この前、カウラの顔を見たら同期にロールアウトしたメンバーの事を思い出してしまった。まるで普通の人間が我々が通うことが出来なかった同級生に遭いたくなるような感覚かも知れないな。私にはそんな気がする』


 東都警察は司法局に対してこれまで要請してきた年末の応援出動を今年は自粛している。誠はそのことをこの前守衛室で聞いていたのでカウラが暇なのは知っていた。


「それでは私達だけで会うと言うのはどうだろうか?エルマもこの『特殊な部隊』には関心が有るんだろ?一堂に会することが出来なくてもお互いに最近会った同期の話をそこでして情報交換するというのも悪くない。私もまるで連絡を取っていない同期のメンバーが何人か居るのは事実だし、その近況をもしエルマが知っているようなら聞かせて欲しい」 


 どうにも硬い言葉が飛び交う様に誠もさすがに首を傾げたくなっていた。人造人間でも稼働時間の長いアメリア達と比べると確かにぎこちなさが見て取れた。特に同じ境遇だからなのだろう。カウラは誠達と接するときよりもさらに堅苦しい会話を展開していた。


『実は私もそう思っていたんだ。そうだ、実はこれから豊川の千要県警交通機動隊に用事があって近くまで行くんだが……例の貴様の部下達。面白そうだから紹介してくれないだろうか?噂に聞く『特殊な部隊』とやらには私も興味がある。その時に先ほどのお互いの知っている同期の近況について話し合えればいいんじゃないか思うがどうだろうか?』 


 誠とかなめがエルマの一言に顔を見合わせた。カウラの同期の一人とあう。そこに同席する。本当に自分達で良いのかと疑問に思いながら誠とかなめはしばらくカウラの通信を聞き続けることにした。


「ああ。それならいい店を知っている。紹介しよう。聞いた話では都内にもあのような良い店はなかなか見つからないと聞く。『特殊な部隊』行きつけの店だ。そこならば私がどんな日常を送っているかを気軽に話すことが出来る。それにあそこの焼鳥は中々癖になる。エルマにもぜひ進めたい逸品だ」 


 カウラがそう言ったのを見てかなめはニヤリと笑った。


「ほら出た『同期会』。命令なら行く。な、神前?サボり癖は伝染(うつ)るぞ」 

挿絵(By みてみん)

 かなめはがちがちとロボットがするような敬礼をしておどけてみせた。誠も笑顔でうなずいた。


「月島屋なら大丈夫でしょ?あそこなら多少の無理は効きますし」


 誠はもはや完全に第二の隊舎と化している雰囲気のある月島屋の店内を思い出して楽しそうな笑みを浮かべた。


「どうやら私の部下達も大丈夫なようだ。それともしかするとおまけがついてくるかも知れないから店は私の指定したところでいいか?」 


 そう言うとエルマに初めて自然な笑顔が浮かんだ。


『そうしてくれ。どうしてもそちらの地理は疎いからな、では後で』 

挿絵(By みてみん)

 画面が暗転した。息が通る。インパクトのダダダが遠くで再開した。敬礼をしたエルマの姿が消えた。かなめは口を押さえて噴出すのを必死でこらえている。ランは困ったような笑みを浮かべてカウラを覗き見ていた。

挿絵(By みてみん)

「カウラの知り合いか。今の時間に私用の電話……アメリアみたいに一般社会に慣れ切った戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』の成れの果てと違って最終ロットのオメー等がやることじゃないな。何かあったと考えるべきだろうな……西園寺、神前。そこんところまで頭が回らねーようならそこまで想像が回らねぇなら、社会人『仮免』だわ」 


 そんなランの言葉に誠も少しばかりエルマと言う女性警察官の存在が気になり始めた。


「何かって……?」


 誠のつぶやきにランが大きくため息をつく。


「分かんねーならそれでいいわ。まー、カウラ。何はともあれ昔なじみと会えるんだ。良いことじゃねーか……なーカウラ!」


 笑みを浮かべながらランは弱々しい笑みを浮かべるカウラに言った。


「ええ、まあ……確かに中佐がおっしゃる通り少し不思議に感じられてきました……エルマに何が有ったのでしょうか?」


 カウラはどう反応していいのか困ったかのように硬い笑みを浮かべていた。


「エルマさんて……この前の訓練施設であった警部補さんですか?」


 そう言って誠は戸惑った表情のカウラに目をやった。


「まーアタシ等の普通の人間関係とやらはベルガーにはまだ足りねーところだからな。い―機会だ。楽しんで来いよ」


 ランはかえでが居なくなってすっかりご機嫌でそう言った。


「人間関係か……いろいろと学ぶべきことが多いんですね」


 そう言いながらカウラはモニターに視線を投げた。


「そーだ、人間死ぬまで勉強だぞ……勉強しねーとうちの駄目隊長みたいになっちゃうかんな」


 ランはそう言いながら満足げにランの部下の中では一番成長著しいカウラにまなざしを投げた。


「東都警察も県警も応援自粛の年末に『私用』で直電。転属の打診か?案件の予兆か?あるいは単に寂しいか……。どれでも面倒は面倒だ……」


 そう言って首をひねるランの姿はどう見ても見た目の8歳女児ではなく機動兵器を所有する実力行使部隊の副隊長の貫禄を放っていた。


 カウラはランの言葉が理解できないとでもいうように静かに端末のふちを右の指で撫でた。



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