第1話 閉所戦の掟——背後にいるもの
「西園寺の反応が……消えた?やられたのか?いつもの事ながら早すぎるぞ……まったく何にも考えずに先走るからだ」
東和陸軍の室内戦演習場のバリケードの影に二人の人影があった。第一小隊長のカウラ・ベルガー大尉が苦々し気にそうつぶやくのが第一小隊のシュツルム・パンツァー三番機担当である部下の神前誠曹長にも聞こえた。室内とは言え暖房などは当然ない訓練場の空気は冷たく、そして風通しも悪いのでよどんでいた。
そこでは二ヶ月に一度の閉所戦闘訓練の仕上げである遼州司法局実働部隊の隊長、嵯峨惟基特務大佐を相手にしての模擬戦が繰り広げられていた。手にした市販のエアガンを『模擬銃』として持っているだけの誠はその銃を抱えてじっと薄暗い通路を眺めていた。真っ暗とは言わないもののほとんど窓の閉め切られた室内は、時々施設の隙間から差し込む冬の日差しが刺す程度で2メートル先の人の顔さえ見ることができない暗さだった。
『相手は隊長一人……しかも武器として持っているのは銃ですらない。勝てて当然の戦いなのに……なんで毎回勝てないんだ?あの人は何者なんだ?何を考えているのか分からないのは前から分かってたけど、あんなに室内戦が強いなんて聞いてないぞ』
誠も分かっていた。普通ならばこの状況で負けること自体がありえない状況であることを。
嵯峨はこの訓練にはどう見てもそこいら辺のおもちゃ屋で売っているようなピコピコハンマー以外持ち込むことは無かった。今日は第二小隊が誠達の前にこの同じ訓練場で嵯峨と対峙したが、3分と持たずに全員が背中にピコピコハンマーの一撃を受けて壊滅という結果になっていた。
第二小隊も隊長の日野かえで少佐は優れた指揮官であり法術師である。副官の渡辺リン大尉も少年兵上がりで実戦慣れしたアン・ナン・パク軍曹も銃の扱いに慣れたベテランで決して素人ではない。それどころかアンの得意とする法術は半径30キロ以内に敵意を持つ存在が居ればそれを感知していち早く対応できるという『エリアサーチ』という能力である。その能力に第二小隊を全滅させる気満々の嵯峨が引っかからないわけがなかった。それでもアンは嵯峨の位置を特定できずに第二小隊をまるで子ども扱いするように嵯峨はあっさりと仕留めて見せた。
閉所戦の場合、誠達『法術師』は『テリトリー』という能力で敵を察知することが出来た。敵の思考に反応する超感覚のおかげで、普通の人間が相手であれば先制攻撃を仕掛けることが出来た。特にアンは他者のテリトリーを撹乱・無効化法術まで持っていた。元々、第二小隊は勝って当たり前の相手に瞬殺されたわけである。それ自体が嵯峨の能力が本当に本人が言う『最弱の法術師』というそれなのか誠は疑問に思っていた。
『本当に隊長は法術師の能力を失っているのか?あの人の言うことは信用できないからな……でも隊長が法術師としての能力のほとんどを失っているということは法術の専門家のひよこちゃんが言ってたことだから……ひよこちゃんを騙して隊長がわざと自分の能力を知らせないようにしているのか?あの人ならやりかねない。なんと言ってもこの僕を嵌めてこの『特殊な部隊』に引き込んだくらいの人だ……でもあの僕ですら容易に居場所がつかめないアンをいとも簡単に後ろに回り込んで仕留めたあの動き……本当にどうなってるんだ?』
嘘しかつかない『駄目人間』である嵯峨の言葉を正直に信じた自分の愚かさを誠は嘆いた。それと同時に嵯峨の法術師としての能力の欠陥を指摘して見せた部隊の看護師兼法術調整師である神前ひよこ軍曹の言葉に嘘があったということは誠は信じたくなかった。騙したとすればすべて嵯峨がやったこと。嵯峨にはその前科が山ほどあるのでそれは理解できた。
しかし、そんな騙す騙されると嘆いてみたところで現状は変わらない。とりあえず、普通にテリトリーは使えないことを前提にしてカウラと付かず離れず現状を打破する方策を考えるしかない。誠に言えることはそれだけだった。
「神前。やはり貴様の『テリトリー』では隊長の位置はやはり分からないのか?」
カウラの不安そうな声が響いた。誠も同様に不安だった。
この狭い空間ならば、銃の射程の短い通路では、銃の有効距離と、嵯峨のピコピコハンマーの間合いに大差はない。普段、『俺は本気で無い時しか銃は使わないからね』と公言している嵯峨はその事を知っていてピコピコハンマー以外持ち込まなかったと考えるのが自然だった。
誠達は完全に嵯峨の術中に嵌っていた。嵯峨は角ごとにわざと靴底を擦り、時に壁を軽く叩き、金属足場に微かな振動を与えた。雑味だらけの音場では、『テリトリー』が拾う思考の波紋がノイズに埋もれる。そのことで誠は嵯峨の位置を特定しきれずにただ焦りだけが増すばかりだった。
「いつまでもここに居ても敵に場所を特定されるだけだ。とりあえずこのまま通路を進むぞ」
凛と響く声でカウラがささやいた。もう一人の上司である西園寺かなめ大尉はいつもどおり小隊長であるカウラの言うことを無視して単独で先行して嵯峨の奇襲を受け反応が消えていた。同じところに留まることをしない閉所戦のプロである嵯峨に、かなめがやられた場所の近辺を捜索するなど無意味なことだった。
通路が分かれる地点でカウラが手を上げて続いて進んでいる誠に止まるように指示を出した。彼女は額に落ちてくるエメラルドグリーンの鮮やかな前髪を払うとポケットからファイバースコープを取り出して閉所戦のマニュアル通りに通路に人影を探した。しばらくの沈黙がその場を支配した。誠は銃の引き金に指をかけたまま緊張感に耐えながらカウラの索敵の様子を見つめていた。
カウラの手が上がった。そのまま脇道を通過しろというハンドサインに誠はそのまま立ちあがって続こうとした。
「ピコ!」
間抜けなハンマーの音が誠の後頭部で炸裂した。驚いて振り向くカウラだが、すでに嵯峨の姿は無かった。ピコピコハンマーでの攻撃を受けて『死亡判定』を受けた誠は、規定どおり銃を掲げて静々と訓練場の通路を歩いて行った。舌打ちして走り出すカウラに誠を盾に隠れていた嵯峨の存在を告げることは訓練の規則として許されないことだった。
訓練場の建て付けの悪い扉を開き、そのまま作業現場の足場のような階段を登り、打ちっぱなしのコンクリートの壁の通路を抜け、重い鉄製の扉を開くと重装備の身体には冬としても暑すぎるほどに熱せられた待機室にたどり着いた。防弾チョッキを着こんだフル装備の誠には暑すぎるストーブの熱気に誠の全身から汗が噴き出すのが感じられた。
訓練場にはただ一人、カウラが残されていた。性格の悪い嵯峨はあえて小隊長である彼女を最後の獲物としてとっておいたのだろうと誠は考えた。
当然、嵯峨の事である。カウラがまともな精神状態で終わるようなあっさりとした勝負のつけ方などしないだろうと誠は思った。
おそらく嵯峨はカウラが戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』として孤立した状況下でも精神の平静を保てるほどの強い精神構造を持っていたとしても、それを上回るようなかく乱行動を絶え間なく続けて恐慌状態に陥るまで付近をわざと自分の位置を誤認させるような音を立てながら移動し、恐怖心をあおって正常な判断が出来なくなったところで初めて止めを刺すのがいつもの嵯峨のやり方だった。
先ほどの第二小隊の時も孤立したかえでの副官、渡辺リン大尉をそんな状態にまで追い込んで、十分いたぶった後に止めを刺した。ただ、マゾであるリンにはそれが快感だったらしく、訓練終了後に愛人であるかえでと火照った顔で熱い抱擁を交わしていた。
「隊長……そんなだから性格悪いって言われるんですよ。勝てるって分かってるなら一気に決めちゃえばいいのに」
誠は蛍光灯の明かりの中、苦笑いを浮かべながらそんな独り言を話していた。誠は自分の部隊『特殊な部隊』がその異名を持つ原因の一つに嵯峨の性格の悪さがあることだけははっきりと理解することが出来た。
「馬鹿だねえ……前ばっかり気にしてるからそうなるんだ。その様子を後ろに回った叔父貴は笑いながら見てたぞ。あんなところで向かいの通路だけ押さえたって意味ねえだろ?戦場の状況はすべて頭に叩き込んでおく、それ常識。そんな事も分からねえからいつまでたっても成長しねえんだよ。すべてを法術に頼っていると戦場では足元をすくわれるぞ。自分で目で見たリアルを信じろ。それが戦場の掟だ」
自分が真っ先にその嵯峨にやられたことを棚に上げてかなめは見下すように誠を見ながらそう言った。
「叔父貴はオメエみたいに『テリトリー』なんかに頼ってねえ。かすかな気配、わざと立てる足音、そして時々近くに落ちてる石を投げたりしてアタシ等の注意をそちらに逸らして自分は別の場所に移動する。これが閉所戦での必勝法だ……アタシも分かっていながら見事に引っかかった……叔父貴の踏んだ場数はアタシの比じゃねえってことだ」
かなめの独断専行がすべての悪循環の原因になったと文句を言いたい誠だったが、勝ち気で何かというと銃を振り回して『射殺する!』と叫ぶかなめに向けてそんなことを異論を唱える度胸は誠には無かった。
訓練場につけられたモニターではすでに背中を取られたことに気づかずに警戒しているカウラの姿が見えた。その姿は明らかに敵を見失って動揺している様がありありと見えた。
嵯峨はカウラの動揺した姿に満足したような顔を画面に向けて一度見せた後、静かに忍び寄ると素早くハンマーを下ろした。間抜けな『ピコ!』という音が響いた。
ここでようやく決心がついたように装備を床に降ろしながら誠はかなめに目を向けた。
「そうは言いますけど西園寺さんが勝手に先行しなければこんな簡単には終わってないと思いますよ。いくら隊長が室内戦闘のプロでも三対一で負けるってのは誰かが無茶をするからですよ。一人には二つの目がついているんです。それが三人で六つになる。それだけの目で探知し続けられれば、いくら僕の『テリトリー』が使えなくても簡単には負けて無いはずですよ」
誠はいつも独断専行で誠達を振り回すかなめに文句を言った。暑すぎる石油ストーブの熱に耐えかねた誠は防弾チョッキを脱ぎながら無駄な説教を垂れてみた。
「なんだ?訓示みたいなことまで交えて説教とはずいぶんと絡むじゃねえか……偉くなったもんだなあ、神前よ。アタシは第一小隊の中では一番実戦経験を積んでるの!そんくらいの事は分かれよ。アレは叔父貴が上手すぎるんだ……それにしても神前の『テリトリー』にも引っかからねえなんて、叔父貴はどういう能力を持ってるんだ?ひよこの言うことは出鱈目なのか?それともアンみたいに『テリトリー』に引っかからない法術を叔父貴も持ってるのかよ」
187センチの長身の誠を見上げるかなめの目は明らかに誠を馬鹿にしているように見えた。かなめはそのモデルのような体型であるにもかかわらず重量130kgの軍用サイボーグの義体の持ち主である。その性能を知っている誠は黙ってかなめが画面に見入っている第二小隊の面々に向き直るまで待っているしかなかった。
「敵が背後を警戒すれば前方に進み、前へ意識を向ければ後方を抑える。当たり前の戦法と言ってしまえばそれまでだが、それを簡単に実際にやってみせる。さすが義父上というか……僕も修行が足りないのかもしれないな」
そう言って模擬銃の弾倉を外すのは嵯峨惟基の義理の娘でかなめの実の妹である第二小隊隊長、日野かえで少佐だった。その弾倉を受け取り静かにうなだれているのが彼女の部下の銀色の長い髪の女性士官渡辺リン大尉だった。二人とも、わずか三分の戦闘だというのに嵯峨によって精神的に追い詰められて疲弊しきっていた。
「隊長に何かの方法を使って法術を使うように仕向けてくれたら嫌でも位置が簡単に割り出せると思うんですけど……神前先輩。どう思います?」
しなだれかかろうとする小柄な『男の娘』アン・ナン・パク軍曹の甘い言葉に誠は思わず後ずさった。誠はこの女装趣味のある小柄な後輩が苦手で、つい身を引いてしまうところがあった。そんな誠を見上げるアンの悲しむような瞳が見えた。
「誠ちゃんに嫌われちゃってアン君かわいそうにねえ。お姉さんが慰めてあげようかしら?」
備え付けの戦闘記録の分析を行いながら振り向いた遼州同盟司法局実働部隊の運用艦『ふさ』の艦長、アメリア・クラウゼ中佐の声が響いた。彼女の声ににびくりと震えてアンは首を横に振った。
「アンちゃんみたいなかわいい『男の娘』がかまってくれないなんてつまらないわね……ってかなめちゃん。何?その顔」
コブシを握り締めて威嚇しているかなめを一瞥した後、アメリアは再び戦闘データの解析の作業に戻っていた。
「まったくどいつもこいつも神前の馬鹿にばっか色目を使いやがって。ランの姐御も言ってるだろ?『神前は真の漢になるまで恋愛禁止』だって。特にかえで!いくら『許婚』でも『偉大なる中佐殿』の言うことはこの部隊では絶対なんだ!いらねえちょっかいは出すんじゃねえぞ!」
かなめはそう言うと東都警察と同じデザインの司法局実働部隊の男子の制服に着替え終わった妹のかえでに声をかけた。
「わかっているさ、お姉さま。僕もようやくこの国『東和共和国』とこの部隊の常識が理解できて来たところだ。これまで30回ほど野外露出やわいせつ行為でクバルカ中佐に迷惑をかけたからね。反省しないといけないかもしれないね。でも、お姉さまへの愛だけは変わらないよ。うん、それだけは変わらない。お姉さまの与えてくれる痛みと屈辱だけが僕を僕として生かしてくれる最大の糧なんだ」
極度のマゾヒストでシスコンであるかえでの言葉にかなめは身を震わせた。
「そこは変えていい。アタシが許可してやる。最近はオメエのセクハラが無くなってきたのは良いが、一番最初にそのアタシを愛するとか言う考え方を変えてくれ。それといい加減全裸徘徊やリンとの野外プレイの度に警察に捕まるのも止めろ。そう言うのがどうしてもやりたければハプニングバーやラブホテルを使え。ちゃんと毎月調教はしてやるから。痛めつけてやるから。虐めてやるから。辱めてやるから」
両刀使いのかえでに対し、かなめにはレズっ気は無いと自分では言っていた。かえでに変質的な愛で迫られ、調教を強要されるのはかなめの自業自得だと言えないことも無かった。
誠はそんな二人のやり取りを見ながら、これはかなめのかえでへの『調教』の中身が気になる自分を少し恥ずかしく思っていた。そしてかえでを誠の『許婚』として認めているらしい母に恨み言の一つも言いたい気分になった。
誠が入ってきた重い扉を開いて重装備のカウラと普段の勤務服にピコピコハンマーを持った司法局実働部隊の勤務服姿の嵯峨が姿を現した。
「なんだよお前等。たるんでるんじゃないの?俺も前衛に出なきゃならなくなるなんて面倒なことは御免だよ。俺は背後で暗躍するタイプの人間なの。裏でこそこそ悪だくみを巡らすのが大好きな人間なの。そんな人に前線に出てこいだなんて残酷なこと良く言えるね。それは人としてどうかと思うよ、俺は」
そう言いながらもニコニコと笑い、嵯峨は奥の棚のコーヒーメーカーに向けて真っ直ぐに歩いていった。入り口に立ったまま装備も外さずに渋い表情をかなめに向けているカウラが気になって誠は自然を装いながらカウラに近づいた。
「ドンマイ。相手が悪すぎでしょ。隊長は元甲武国国家憲兵隊の隊長をしてたのよ。相手の寝首を掻くのが専門の部隊。そこの最強の男相手にカウラちゃんは良くやったと思うわよ、私は」
アメリアがデータをまとめながら手を上げてそう言った。その言葉にかなめはアメリアの後ろに回り後頭部をはたいた。
気軽にカウラに声をかけるアメリアに対して『大丈夫ですか』が喉まで来て、誠は飲み込んだ。上官に対して軽すぎる。そう思った瞬間、別の言葉も見つからなくなった。
「かなめちゃん!いきなり何すんのよ!コーヒーがこぼれたらもったいないでしょ!」
いつものかなめの身勝手な暴力にアメリアはいつも通り怒って見せた。とりあえず、ここで怒っておかないとさらに嫌がらせが加速していくことをアメリアも知っていた。
「ああ、ごめん。蚊がいたんだ。おかしいなあ……こんな季節に。アタシは甲武の生まれだから東和の蚊の習性は良く知らねえんだが……冬でも出るんだな。東和の蚊は」
とぼけた調子でかなめはそう言ってアメリアに笑いかけた。
「そんなの甲武国も東和も関係ないじゃないの!もう12月よ!蚊なんているわけ無いじゃないの!もう、殴りたいから殴ったって……そんなに殴るのが好きだったらかえでちゃんを殴ってあげなさいよ!あの人はマゾなんだから」
明らかに芝居とわかるような怒り方をするアメリアに誠はなんともいえない苦笑いを浮かべるしかなかった。二人がにらみ合うのを見てようやくヘルメットを脱いだカウラがつかつかとかなめに歩み寄った。
「止めておけ、西園寺。ここは子供の遊びをするところじゃない。訓練場だ」
いつも通りカウラは淡々とした調子でかなめにそう注意した。そんなカウラの視線が、壁のカレンダーに向けられているのが誠には気になった。そしてその視線は12月の数字に一瞬だけ止まった。誠はただのパチンコ好きなカウラの気まぐれだろうとそれほどその理由を聞き出そうとは思わなかった。
「ああ、隊長さんのお言葉なので自重しまーす。アメリア、小隊長殿のお言葉に感謝しろよ」
そう言うとかなめは自分より一回り背の高いアメリアを特徴的なタレ目で見上げて薄笑いを浮かべてみせた。その態度に明らかに不機嫌になりながらカウラは銃の弾倉を入れてあったベストをテーブルに放り投げた。隣で使用した模擬弾の抜き取りを終えたリン、ベストを専用のケースに仕舞ったアンがアメリアに何か耳打ちしているかえでを待っていた。
「それじゃあお先に失礼します!お姉さま、先に隊でお待ちしていますね!」
かえではそう言うとそのまま支度を終えたリンとアンを連れて訓練場の出口へと向かっていった。
「最近、普通よね、かえでちゃん。前みたいに何かというと『お姉さまー!』とか言ってかなめちゃんに抱き着くことも無くなったし。『許婚』の誠ちゃんに絡むこともあまり無い。さすがに学習能力は高いって言うことかしら?誰かさんと違って」
うなずくアメリアを見ながら素早く背筋を伸ばして帰っていくかえで達に誠は敬礼した。
「おう、ご苦労さん!」
ピリピリとした雰囲気をかもし出しているカウラ達を面白そうに眺めていた嵯峨が振り返って義娘に手を振った。
「ところでアメリア、学習能力がねえのは誰だ?アタシのことじゃねえよな?島田だよな?あのヤンキーのことだよな?アイツは確かに学習能力ゼロだからな。バイク泥棒を何度も繰り返してその度に近くの警察署のお世話になる。確かにアイツには学習能力はねえ」
かなめは分かっていてその場にいない整備班長でヤンキーで何度も窃盗を繰り返しては警察のお世話になっている技術部長代理兼整備班長の島田正人准尉の名前を挙げてそう言った。
「え?自覚が無かったの?かなめちゃん。あなたの事よ。学習能力が無いのは。いつも前進突撃ばかりで回りがまるで見えてない。ランちゃんが好きな将棋と違って前だけ見てて戦争は勝てるほど甘くは無いのよ。そんなかなめちゃんを学習能力が無いという他のどんな表現で表すのが適切なのかしら?他の表現方法が有ったら教えてもらいたいくらいだわ」
アメリアは挑発的な態度で着替えを終えようとしているかなめにそう言った。
かなめが着替えを終えたらアメリアを射殺するのではないか。誠はいつものかなめの銃に頼る性格を知っているので恐怖に駆られた。
「アメリア。西園寺に学習能力が無いのは今に始まったことではない。すべては小隊長である私がその西園寺の性格を知った上で指揮を出していれば良かっただけだ」
自分を責めるような調子のカウラの言葉がさらにかなめの怒りに火をつけた。
「おい、カウラまで何を言ってるんだよ!実戦経験ってもんがアタシに比べて無いに等しい人間に指図される覚えはアタシには無いね!戦闘は一に実戦、二に実戦だ。安全の保障されてる訓練なんていくらやっても無駄!訓練しかしたことのねえテメエ等とアタシじゃレベルが違うんだよ!叔父貴が強いのはその実戦経験の差だ。さすがのアタシも叔父貴が潜った地獄の戦場を生き残る自信はねえ」
かなめはふてくされてそう叫ぶと制服の上に着用しているホルスターから愛銃スプリングフィールドXDM40を取り出そうとした。
「お三方、止めてくださいよ!ここは『特殊な部隊』の隊内じゃないんですよ!借り物の施設なんですよ!少しは自重してください!」
三人の仲裁を押し付けられた誠は泣きそうな表情で、部隊長である嵯峨の隣の席に座って彼のにんまりと笑う顔を見つめていた。




