針穴
季節に似合わない日照りの中を木佐美ケイトは歩いていた
雨上がりの道路にはまばらの空があちこちに溜まっている
いつも一握りの希望を抱いて反射する水面鏡に足を踏み入れる
「...」
どうやら今回も失敗だったらしい
子供のころから夢見た美しい空の世界には残念ながら行く手段はないようだ
中学生くらいの男の子が珍物を見る目で水たまりに入っている彼女の傍らを通り過ぎた
ーいけない、こんなことをしている暇などなかった
灰色のブロック塀を通り抜けると所々にブルーシートが見られる民家が見えた
家を取り囲んでいる野次馬たちの足元を通り抜ける
野次馬たちを抑えている警官の横を通り過ぎ雑に張られたトラテープを潜り抜ける
「ちょっと君、そこから先は立ち入り禁止だ。下がってくれ。」
あっ、と声を漏らして大事なことを忘れていたことに気づいた
「失礼、ワタクシきさみけいと、と申します。杉森さんから話は通してあると伺っていますが...」
「杉森さん?」
男性警官は眉間にしわを寄せた
どうやら信じてもらえていないらしい。彼は私のことを怪しげな目で見降ろしている
「揉め事かな?」
上からよく通った声が降ってきた。同時に男性警官の顔色が変わるのが分かった
ケイトもつられて、振り返る
彼女のすぐ後ろにワイシャツ姿の男が立っていた
180cmはあるだろう図体で彼女のことを見下ろしていた
「杉森さんからの...」
警官が何かを言おうとしたとき男の顔色が変わった
「杉森...さん...」
一瞬虚空を眺めた彼はケイトの方へ再び顔を下げた
「失礼ですが、お名前は?あ、いえ、これといって深いわけは...」
「木佐美ケイトと申します。何卒よろしくお願いします。」
「木佐美...」
男は顎に手を当て何かを思い出しているかのような仕草をした。
「...なるほど。ではこちらに、僕についてきてください、案内します。」
トラテープを潜り、洋風の白い民家の玄関へとのびたレンガ造りの道を進む
白い扉の前に立った彼は、ノックを2回繰り返す
数秒してドアの向こうから暴力団と言われても疑わないほどの刑事が出てきた
太い眉が特徴の彼は眉間に皺を寄せて無合いそうな声で「入れ」と言ってきた
照度の差から、一瞬目がくらみそうになる
ひんやりとした空気に包まれた玄関は、天井が高く二階部分の天窓から光が差し込んでいて、さほど暗くはなかった
けして狭くない足場には靴が乱雑に散らばっていた
ふと備え付けの棚を見ると、一枚の写真が、小さな木の枠に飾られていた
どうやら家族写真のようだった
手前には母親らしき人物と中学生ほどの女の子が、奥には眼鏡をかけている父親らしき人物とそれほど父親と背の変わらない青年がたっていた
皆幸せそうな顔をしている
だが、ケイトは写真の中のその青年に釘付けになっていた
デジャヴに近い感覚に陥っていた
「木佐美さん?」
案内人が不思議そうな顔でこちらを見ている
奥にいる強面の刑事二人をにらんでいた、早くしろということだろう
「すみません..」
我に返り彼の後に続く
この家、いや事件にはもしかしたら彼女が求めているものがあるかもしれない、そう確信できるものがあの写真にはあった
床を軋ませながら三人の正義は歩いていく




