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可愛いは嫌だ



 然は転入してきたばかりだし、己が〝可愛い〟と言われるのを嫌いだと知らない。

 ——もし知っていれば言わなかったかもしれないよな……。

 やっと己が子どもじみた怒りをぶつけていたのだと気がつく。

「然てさ、買い弁? 持ち弁?」

 声をかけると然が大きな尻尾を振り回さんばかりに表情を明るくした。

「持たされた」

「じゃあ、一緒に屋上……行かないか?」

 バツが悪くて俯く。正面から視線を合わせられなかった。

「行く」

 二人で屋上に続く階段を上がって外に出る。真っ青な空がどこまでも続いていて、風が心地良い。

 校舎の影に移動して鞄から弁当を取り出し、そして固まった。

「何で重箱!?」

「? これ弁当じゃないの? 料理人たちが作った物をいつもコレに入れて、家政婦たちが持たせてくれるよ?」

 ——然てもしかしてとんでもなく良いとこの坊ちゃんなんじゃないのか?

 コロッケとメンチカツに満足気な顔だったので予想だにしていなかった。

「然て何者?」

「普通だと思う」

「普通は重箱で弁当持ってこないし、料理人も家政婦もいないぞ?」

「そうなのか?」

 首を傾げているのが小憎たらしい。何だか怒っていたのが馬鹿みたいに思えてきて、声に出して思いっきり笑った。

「はははっ、お前めちゃくちゃな奴だな。腹減らして道端に行き倒れてるし、なのに重箱弁当てなんだよそれ。ホント変な奴」

 然が呆けた顔をして見つめていた。

 若干顔が赤くなっているのは陽射しのせいだろうか。

「あのさ、然。オレ可愛いって言われるの嫌いなんだ。こんな顔だし昔からこれをネタに揶揄われてるから本当にすっげえ嫌い。だからさっき怒ったんだよ。然は知らないのにごめんな。あと、こんな見てくれだけど空手段持ちだから守って貰うほど弱くないぞ。だからあまりそういうの言ってほしくない」

「そっか。嫌われてなくて安心した。ごめんね。もう言わない」

 さっきからずっと見つめられている気がした。

「どうかしたか?」

「何でも……ない」

 ——もしかしたら何か幻滅させてしまったんかな。

 顔を赤くしたまま視線を泳がせ、挙動不審になった然の顔を下から覗き込んだ。

「ぜーん?」

「~~っ!」

「お前さっきから何でそんなに顔赤いんだ? 熱でもある? 保健室行くか?」

「平気。何でもない。悠希もこれ一緒に食べる?」

 然が重箱の蓋を開ける。視線は中身に釘付けになった。

「え、いいのか!? 凄い!! 高級料理店のパンフとかに載ってそう!」

 悠希の表情に花が咲いたのと同時に然の顔はまた赤くなる。

 ——え、何? またまたどうしたんだろコイツ。

 然が分けてくれた彩り鮮やかな弁当を口の中に入れた瞬間に、世界が輝き出した気がした。

「うっま!! 何これ!」

 然はやはり良いとこの坊ちゃんだ。悠希はそう確信すると納得するように一人頷いた。

 隣で何故か然が地面に転がっていたのでまたまた首を傾げる。

「どうかしたのか?」

「かわ……っ、あの頃のままとかズルい……っ、ん゛ん゛ん゛、いや……何でもない」

 ——変な奴だな。

 口の中に広がる旨みを噛み締め、然の持ってきた重箱弁当を堪能したのだった。




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