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出会い



 薄くオレンジ色になりかけた空を見つめながら、黒川悠希(くろかわゆき)は閑散とした校舎裏を歩いていた。土を踏む己の靴音だけが響いている。

 ——疲れた……。

 両腕を上げて軽く伸びをした。今日はとんだ厄日だった。

 どこから噂を聞きつけてきたのか、一つ年上の上級生に呼び出されてしまい喧嘩をふっかけられたからだ。

 過去に父親が空手の道場を営んでいたのもあり、小さな頃から生徒と一緒に稽古をつけられていた。

 あまり身長は伸びなかったけれど、護身術としてとても役にたっている。

 何故かこの辺を仕切っているヤンキーだと偽情報を流されていて、鵜呑みにした輩にこうして絡まれる事も珍しくない。

 真面目まではいかないが、至って普通の男子高校生なのに……。

 迷惑以外の何者でもなかった。

 心底煩わしい。骨格が細くて中性的な容姿なのもあって、楽に勝てるのだと思われているのだろう。

 見た目こそこうではあるが、悠希は黒帯所持者である。

 そこらのヤンキーにも引けは取らない。自分から喧嘩を吹っ掛けはしないが。

 悠希は大きなため息をついた。

「平肉屋のコロッケが食べたい」

 乱れてしまった制服を整えて学校を出る。

 学校から家までの途中の道のりには、ちょっとした飲食店街があった。

 そこを抜けると亡き父親が師範をしていた道場があり、もう少し進んでいくと肉屋がある。そこで売っている自家製のコロッケとメンチカツが格別に美味いのだ。悠希行きつけの店だ。

 コロッケ目当てに歩いていると、その店と店の間から人の足らしきものが見えて足を止めた。

 ——何だあれ……死体とかじゃないよな? まさかな。

 内心ドキドキしながら近付くと、その足の主がかったるそうに上体を起こす。

 攻撃されると思ったのか、やたらこちらを見る眼光が鋭い。寒気がするほどの威圧感に気圧されてしまった。

 ——喧嘩でもしてたのかな?

 強そうだな、と思うと不覚にも心が躍る。しかし座るまでは倒れていたのを思い出して、怪我人かもしれないと声をかけた。

「あんた何で倒れてたの? 何処か痛いのか? 必要なら救急車呼ぶよ?」

「……」

 男が無言のまま見つめてくる。問いかけた言葉に返事はなかった。

 ぐぎゅるるるる……。

「へ?」

 男の所から盛大な腹の音が聞こえてきて目を瞠る。

「……昨日から、何も食べてない」

「あはは、まさかの腹ペコかよっ。ちょっと待っててくれる?」

 悠希は肉屋から二人分のコロッケとメンチカツを買うと、半分を男に差し出す。

 じっと見つめているようだったが揚げたての香りに誘われたのか、男がコロッケに齧り付く。どこか面食らったような顔をしていた。

 結構な大きさがあったコロッケが二口で男の口内へと消えていった。

「美味いだろ? オレもここのコロッケ好きなんだ。そのメンチカツも美味いぜ?」

 男がパクリと食いつく。

「美味い……」

「なら良かった」

 ニッコリと微笑んでみせた。「え……」と言葉を発した男が体を硬直させている。

 ——ん? なんか変だったか?

 見つめられているのは分かっていたけれど、気が付かないフリをして食べ終わるなり腰を上げた。

「お前、名前は?」

「オレ? オレは黒川悠希。あんたは?」

蓮水然(はすみ ぜん)

「蓮水か」

「然でいい」

「んじゃ、然な。お腹膨れただろ? もう喧嘩しないでちゃんと帰れよ。じゃあな!」

 手を振って帰路につく。それが然との出会いだった。




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