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勇者パーティ、働きます

作者: まりう

勇者、それは類まれなる才能と努力、そしてどんな困難にも立ち向かうその勇気。そして最後には大きな悪、その者達との勝負の上勝利を掴むもの。その全てを持ったまさに人類にとっての希望、そして英雄である。

そんな勇者は今、





『働いている』


何を言ってるかって?そのままの意味だ。仕事をし、金を稼いで生活をしている。

彼は勇者として活躍していなかったと言うわけではない。

彼は勇敢な仲間と出会い、鍛え、数々の強敵との勝負に勝ち、やがて世界を恐怖に落とし入れている魔王との決戦の末、勝利した。彼はまさしく本物の勇者だろう。

じゃあなぜ働いているのかって?


そんなものここでは通じない。嫌、もっと簡単に言おう。『誰も勇者が魔王を倒したなんて思ってないのだ』


なぜかって?



ここが彼らのいる世界とは全く違う場所なのだ。そう『異世界』である。





ガタンゴトンと荷物が揺れる音がする。その音を聞いて重い瞼と開いた。


''寝てた...のか。ギリギリ駅にはついてないか。''


目的の駅は後三駅ほど先だったようだ。しかしもう少しだけ寝るわけにはいかない。

今日は久しぶりに仲間と会う日なのだ。確か...半年ぶりくらいだったっけ。あのときは僧侶に彼氏ができたとかで揉めたっけ...戦士は僧侶のこと好きだったもんなぁ、まぁその後の連絡で僧侶は別れたことを聞いた。戦士からしたらとても複雑な気持ちだろう。

前回は魔法使いが忙しくて来れなかったからな。だからちゃんと全員が集まるのは一年ぶりくらいだ。みんなどうなってるのか気になってもう眠気すら吹き飛んでしまった。


『次は〜〜駅、〜〜駅。お出口は左側です。』


おっともうついたみたいだ。確か...この駅で降りて10分くらい歩いたところにある戦士の家集合っていってたな。電車から降りもう何年も使っているICカードを改札に通した。この動作にも慣れてしまった。懐かしいな最初は...嫌これ以上考えるのはやめよう。遅刻してしまうと魔法使いに怒られてしまう。

そうして何分か歩いているとやがて目的地であろう家につく。


''でっか...なにこの家''


私も想像してなかった。戦士の家がここまで豪華なんて、THEお金持ちの家って感じだ。車も3台止まっている。

全て戦士の物なのだろう。とてもじゃないがあの脳筋ですぐに相手に特攻する戦士がここまで稼げるとは思わない。やはり『ニホン』はよくわからん。

インターホンを押すと扉が自動で空いた。しかし誰もそこにはいなかった。多分魔法使いが開けてくれたのだろう。私は不自然に長く広い廊下と壁に飾られている謎の絵画を見ながら声のするほうへ向かう。


「あ、勇者来た!」

「おせぇぞ!お前」

「お久しぶりですね。勇者さん。」


久しぶりに見た仲間を見て私は自然に笑みがこぼれてしまう。やはりみんなこの世界に来たときからそこまで変わってなかった。


’’久しぶりだな。魔法使い、戦士、僧侶。元気にしてたか?ところで戦士...その机の上にあるものはなんだ?’’


「酒に決まってるだろ!今日は久しぶりにみんな集まったんだからパーっとやっちまおう!」

「そうそう!勇者だって今日私達に会えるのを楽しみにしてたんでしょ〜?なら飲んじゃお飲んじゃお!」


そういって戦士と魔法使いは酒瓶を持ってじりじりとにじり寄ってくる。

私が勇者時代から酒だけは苦手なのは覚えているだろう。グラス2杯飲むだけで酔ってしまうくらい弱い。だがそんなことは気にしてないように彼らは私に飲ませようとしてくる。


''ちょ、僧侶!助けてくれないか。この酔っぱらいどもうるせぇ!''


私はパーティの中でも比較的まともな僧侶に助けを求める

「諦めてください勇者さん。それに今日は特別な日なんですから多少羽目を外しても天罰は下りませんよ。」

さすが僧侶、僧侶っぽいこと言ってくる。まぁ確かに今日くらいはいいか...さすがに仕事でつかれた。


飲み会が始まってからどれくらいたっただろうか。


「そういや、お前らって今どんな仕事してるんだ?」

私はおもむろにパーティに聞いた。何回かこうやって飲み会はしているのだが各々の仕事関係の話になったことがなかった。

「わたしはね〜マジシャンしてるの!」

すでに酒にやられているのか少しテンションが高い魔法使いが答えてきた。

「魔法使いさんってすごく有名なマジシャンでしたよね?たしか...日本一タネも仕掛けもわからないマジシャンって呼ばれてましたよね。他のマジシャンでもタネを見破ることができないって...」


''タネも仕掛けもわからない?それはすごいな。''


そんなにすごいのか?同業とかならわかるもんだと思っていたが...他のマジシャンでもわからないって相当じゃないか?


「うん!実際ほんとにタネも仕掛けもないよ!だって魔法つかってるもん!」

私の感心を返してほしい。

「魔法だぁ?ここでも魔法って使えるのか?」

僧侶も同じようなことを思ったのか戦士の質問にうなづいている

「うん使えるよ〜。でも大きな魔法とかは魔法陣描かないと使えないけどね。」


もともと魔法使いは魔法陣をストックしててその魔法陣に魔力を注ぐことで大きな魔法を出していたはずだ。日本にきたときにストックしてた魔法陣は大体機能しなくなったらしい。


「そういう戦士はどうなのさ?」

「俺か?俺は格闘家だぜ!今じゃ世界大会にも出てるくらいだ!この家とかも大会の賞金で買った。」


''もともとドラゴン相手にタイマンはってたやつが戦闘したらそりゃ世界レベルにはなるだろ...んで、僧侶は?''


「私に話をふらないでください...」

少し顔色の悪い僧侶がそういってきた。よくみると額からどっと汗がでているようだ。

「もしかして...僧侶さんニート?」

「え?僧侶ニートなん?」


''僧侶...お前.....''

三人が冷ややかな目線を僧侶に向けていると僧侶はついに

「仕方ないでしょう!?だってここにきてから神のお告げは聞こえないし、就活にいっても宗教家とか思われて落とされるし!!もう日本腐ってるだろ!ふざけんな!!!◯ね岸◯!!!!!」


''僧侶、キレすぎてキャラ変わってるぞ。もっと淑女らしいこと言え'''


「うるさいですね!そういうあなたはどうなんですか!!!どうせあなたも勇気以外なにも持ってない一般人に成り下がってるのでしょう!!!!?」

僧侶の変貌に驚いた二人を置いて僧侶は私に話をふってきた。いわゆる逆ギレってやつだ...ちょっと待て僧侶。酒が入ってるのか本音が出てるぞ。確かにずば抜けた才能あるわけではないがこれでも魔王倒してるんですけど?最後勇者らしく魔王とタイマンして勝ってるんですけど?


「ちょ僧侶さん!?流石に言い過ぎですよ!?」

「そ、そういや俺も勇者の職業知らないな...結局何してるんだ?」


''私か?私はな、小説家だ。''


「「「小説家!???」」」


''おう、そうだぞ。いわゆるライトノベル作家だ。''


「えっ!?勇者小説家なの?すご〜い!!私も勇者の書いた小説読みたい!!」

「勇者...お前そんな頭よかったか?」

「勇者さんはどんな小説を書いているんですか?」


''私はなんとか太子さんじゃない。一人ずつ言ってくれ。小説のジャンルは...そうだな。が、学園ものかな?''


言えない、私が書いてる小説が異世界もので勇者が魔王を倒すお話なんて...ほぼすべて俺等の旅路をそのまま書いたなんて言えない...


’’はいこの話やめやめ!そろそろ私は疲れたから寝るぞ?''


「むぅ〜勇者のけち」

けちとかいうな。俺の仕事がお前らの思い出綴りとか言いたくないに決まってるだろ。

「勇者さん。おやすみなさい。」

「おう。俺等はもうちょい飲んでるからな〜」

まだ飲むのか...まぁいい。俺はこの愉快な元仲間たちに呆れながら客室のふかふかなベットに体を預けた。意識は深淵へと沈む。その最中、夢なのだろうか。ひとつの魔法陣がわたしの脳裏にこべりついた。しかし私の意識は沈んでいく。あの魔法陣はなんだったか。たしか...魔法使いが開発した時空移動の魔法だったような...そんなことを思いながらわたしの意識は深淵のさらにさきへと落ちていく。






「....しゃ!....うしゃ!...勇者!!」

わたしの意識を呼び起こしたのは魔法使いの焦ったような声。わたしは混濁とした意識のなか昨日より数段硬いベットから重い腰を上げた

''なんだよ...今日は私はやすみだ...か.....ら?''

目を見開いた。それもそうだろう。豪邸で優雅な睡眠をきめこんでいたはずなのに目がさめたらそこは....なんか見たことのある平原だったのだ。


「勇者さん。目が覚めましたか。どうやらここは我々がもといた世界『エルド』のようです。」

「俺らもさっき起きたばっかでな。未だに何がなんだかわっかんねぇ。」

「とりあえず、私達戻ってこれたんだよ!」


何がなんだかさっぱりわからないが...とりあえず戻ってこれたってことだ。


''とりあえず落ち着こう。ここはわたしたちが魔王討伐に出た最初の街に近いはずだ。とりあえず王都で各自情報を集めよう。集合は昼時、食堂だな。''


「「「了解」」」



昼時になり、食堂前で合流し各々が得た情報を交換した。


・ここは我々が魔王討伐から5年後の世界。(我々が日本で過ごした時間も5年だからここに違和感はない)

・我々は魔王相手に相打ちになり死んだことになっている。(魔王討伐と同時に日本に飛ばされたんだ。しかも五年間帰ってこなかったらそりゃ死んだことにはなるよな。)

・私が旅に出るきっかけをくれた王女様が結婚している(婚約者◯したい)


「勇者〜ここで話し合うのもいいけどお腹へったからさ〜。なにか食べながらにしない?」

「それはわたしも同感です。」

''そうだな。じゃあなにか頼もう。’’


「いらっしゃいませ〜ご注文お伺いします!」


「そうだな、ここってまだタロイドの唐揚げってやってるか?」

「はい!」

「じゃあタロイドの唐揚げ4つ頼む」

「お会計3500エルドです!!」


''今日くらいはわたしがみんなに奢ってやろう。''

そしてわたしは財布から五千円札を出す。

「おっ、さっすが勇者!」

「ありがとうございます勇者さん。」


''すいません、細かいのないで5000円でお願いします。''


「え?なんですかこの紙。ふざけてるんですか?」


「「「''あっ、''」」」


エルドはエルド硬貨が主な通貨だ。そして日本は円。しかも札に関してはここでは紙切れにすぎない...つまり。

俺等は一文無し勇者パーティってことだ.....


''お前らやることはひとつだ。''


私の問いかけに全員が頷く


「「「’’よし!働こう!!''」」」



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