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第8話 中坊臭い連中だ。

 ――☆めちゃめちゃだんす部☆部室――


 「新入生! キレが足りないよ!」


 「はい!」


 私――糸ヶ崎恋(いとがさきれん)は、きらきら学園☆めちゃめちゃだんす部☆でダンスに励んでいた。


 入部してまだ数日なのに、その練習はとても厳しいものだ。


 止めどなく滴り落ちる汗、すでに痛みのある身体の節々。


 それでも私の心は満足感に溢れていた。


 高1より2才程は上に見られる大人な顔立ち、はきはきとしたクールな物言いに、すらっとした体型。


 たん! たん! っとシューズを鳴らし、大きく身振りをして、大型ミラーに映る自分の姿を確認しながら練習に勤しんでいた。


「10分休憩ー!」


 窓際でスポーツドリンクが入っているマイボトルで喉を潤す。先輩たちに比べ、まだまだだ。ふと、窓から外を見下ろすと1人の桃髪少女と、1人の金髪少女が並んで歩いている。中坊がき臭い連中だ。


「でさー、次の配信は私1時間無言で行くから、あかりフォロー宜しくね!」


「いや、それ、駄目だろ! せっかく私らのVTuber活動も軌道に乗ってきたってのにさぁー」


 VTuber……? 彼女あいつらの会話から察するにVTuber部の部員なのかな。この学園、そんな部活動もあったんだ。中学生臭い見た目の奴は、やることも中学生臭いのか。でも、とても楽しそうだ。


 ……もしも私が運動音痴だったら、とても中坊臭い見た目だったら、との思考が勝手に頭の中を巡った。その場合、どの様な人生を送っていたのだろうか。ダンス部じゃない私の人生……、


「……考えられないな」


「休憩終りー! 引続きステップ確認10セットいくよー!」


「はい!」


 勝手に湧き上がってきたくだらない思考を一笑に付して、私はふたたび全面(ミラー)の前に立ち、踊りだす。少なくとも、ダンスの見込みがある私はこの学園では一所懸命ダンスに打ち込めばいい。それが私であり、私の人生なのだから――


◇◇


 きらきら学園の図書室で1人の女子生徒が本を読んでいる。


「新入生ー!キレが全然足りないよ!」


 図書室の壁から叱咤する声が響いている。だん! だん! というシューズの音と、本を読むのを邪魔するに相応しい音量のBGMも共に響いている。


 この図書室の隣は、放課後は☆めちゃめちゃだんす部☆の部室となるのだ。『図書室内では静かに』の張り紙も隣のダンス部からの足踏みに合わせ、ぴらっ! ぴらっ! と捲れている。


「もう5日目……。わたし、何やってるんだろ……」


 ふと、本を読んでいた女子生徒がそう呟いた。


 正確に言えば彼女は本を読むふりをしていた。


 セネカの『人生の短さについて』を手に開き、さも読んでいますよ? 感を出しながら、


 その実、自分おのれがダンス部の新入部員となってダンスに励んでいる姿を妄想していた。


「……踊れるはずなんだけどな」


 小学校、中学校と徐々に見た目は自分の理想の自分へと近付けて行った。


 高1だけど、少し大人びている、と思う。


 ことば遣いや声に関しても、自分の理想とするところに近づいている、と思う。


 後は、クールなK-POPアーティストのようなダンスを踊れたら……、なのだけど、これがとても厳しかった。


 全体的に動きがぎこちないし、とても遅いのだ。もっと早く! もっと早く! と自分で自分の反射神経に命令しても、体は全く以って思い通りに動かない。


 なまじ、ルックスは自分の理想へと近づいただけに、踊る姿はへんてこなものとなっていた。おかしい、こんな筈じゃなかったのに……。


「はぁ……」


 と、私はため息をついた。


「このまま図書部員で3年間過ごすことになるのかな……」


 5日もここで本を読むふりをして隣室のダンス部の練習の様子を聞いていたので、図書部員に『あなた、入部希望者ね? 大歓迎よ。いっしょに隣室のダンス部をぼこぼこにして、平和な図書室の環境を取り戻しましょう!』と言われたことがある。


 私にダンス部をぼこぼこにする気なんて更に無いが、少しでもダンス部とかかわれるのなら、そんな間違った係わり方でもいいかと思い始めていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 大きなため息が聞こえた。……えっと、私、ため息ついてないけど、と思い、嘆息が聞こえた右隣を向くと、


「……どうしよっかなーーーーーー……」


 椅子に座っていても小さめの背丈と分かる、ピンクのカーディガンを羽織った桃髪の子が思案に暮れていた。

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