第4話 信じていたよ、先生。
……VTuberって、何だ? という先生の言葉に、私は少し困惑した。そっか、先生、VTuber知らないんだ。
「先生って、何才なの?」
「……29だが?」
あれ、それなら知っていてもおかしくないと思うんだけど、この先生なら知らないほうがなんかフィットしているかも。
私はスカートのポッケからスマホを取り出し、トゥーチューブを開いて、てきとうにVTuberの動画をタップしてそれを先生に見せた。
配信タイトル【コロナに罹ったけど企業所属VTuberなんでノルマのために配信するぜ……】
「ケホッ、ケホッ……、……ゴホッ! ゴホッ! そんでー……、ゴホッ! ゴホン! ゴホン!! うぅぅぅー……、コロナまじつらぃぃぃぃ……、ゴホ! ゴホッ! ゴッホ!! ……いや、ゴッホの話はしていないけど!!!」
うわー、企業VTuberさんは大変だ! てか、微妙なの開いちゃったかな……。
先生はまじまじとその配信を怪訝な表情で見つめている。表情からなんだこれは? と思っているのが見て取れる。
企業VTuberの咳込む音が職員室中に私のスマホから谺している。ちょっとの間の後、
「……これは、パソコンのキーボードとマウスで動かしているのか?」
と、私に聞いてきた。ので、これは確かにキーボードやマウスでも手だったり顔の表情だったりは動かせたりするけど、主にはWEBカメラに自分の顔を映して、
そのWEBカメラに映された顔をこのキャラクターに追跡させることによって、この様に動かす事が出来るんだよ。だから大方顔で動かしているんだよ。
て、伝えると、
「……なるほど」
と、一言だけ返した。そして、先生は、
「これをお前はやりたいってことなのか?」
と、言ったんで、
「そう!」
て、私は元気に応えると、
「……明日、またここに来い」
と、淡々と返した。
……これは、つまるところ、思うに、VTuber部を私のためだけに創ってくれるってこと!?
胸の内から温かな気持ちが脳みそへと上る。それに反応し、脳の電気信号が私の全身を速やかに起電させた。
私は後ろを向き、数歩進んで、
「……信じていたよ、先生。めっちゃ駄目な大人の趣があるけど、なんだかんだ言っても生徒の問題を全身で受け止め、全力で悩み抜き、一緒に解決してくれるってね!」
その言葉とともに先生へと振り向く。
きまったね! アニメや漫画でよくあるちょっと感動的な場面を演出出来た!
しかし、先生は、私のことなんか見ておらず、煙草あんどコーヒータイムを再開していた。
……んー、やっぱVTuber部、駄目かも知れない!
☆
で、次の日。
私は放課後、職員室の我が担任の元へと来たんだけど……、
「……すーー……、……すーー……」
先生はすやすやと寝ていた。自分の職員机に自らの腕枕で。
んーと……、どうしよう? とりあえず、ちょっぴり頬を小指で突付いてみた。……反応はない。も少し深く突いてみた。……やっぱり反応はない。
敵城に侵入した忍者のすり足くらいの静けさで鼻から寝息を立てているだけ。
私は、ゆーっくり、ゆーっくりと、なんとなく顔を先生の寝顔に近づけていったら、
ぱちっ
と、急に目を開けたので、急ぎ顔を離した。そのまま先生は、目だけをじろりとこちらに向けた。
別に私小指で突付いたり、顔を近づけたりとかしていませんよ? なんでそんなことを先生に仕出かさなきゃいけないのでしょうか? と、断固たる抗辯を目に込め、先生を見返した。
「ん……、……あぁ、申し訳ない」
先生はクールに寝てしまっていたことを謝し、ぐっと起き上がった。
「えっと、先生! 私の部活動のことなんですけど!」
「あぁ、分かっているよ。それじゃ、付いて来い」
そう言って椅子から離れ、煙草を片手に持ち、職員室を後にしようとする。
当然、私もその後を軽鴨の子どものように、るんるんな心持ちで先生に付いて行った。
職員室から出て、資料室や視聴覚室などを過ぎ、渡り廊下を渡って、右へと行った先。
何の教室なのか不明瞭な教室の扉を開けて這入ったので、私もその不明瞭室へと這入る。
結構広めの教室だ。
でも、真新しい教室ってわけじゃなく、それなりには使われてきた趣。
「せんせー、ここなんの教室なの?」
「ここは過去、工作室、化学室、パソコン室などに短期間使われた後、現在は使用されていないところだ」
そうなんだ。なんか勿体ないな。
……一瞬だけ、あの募金活動部の部室なのかなって考えが浮かんだんだけど、どうやら募金活動部は学園外に豪勢な部室を構えているらしいから違うか。
部室と言うよりはもう豪邸って言ったほうがいいみたいだけどね。
募金活動ってすごい儲かるんだね!
「ここだぞ」
先生は、その教室の南東側に拵えられている片開き戸の前で止まり、私に言った。
室名札には、『☆わくわくぷろぐらみんぐ部☆』と、記されている。
「……プログラミング部?」
と、私が脳に?を浮かべていると、先生はその『☆わくわくぷろぐらみんぐ部☆』の扉のドアノブをガチャッと回して開けた。