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第2話 私の名前は緒川結依!

「お母さん、早く入学式行こう!」


「はいはい、車で待っててね」


 長きいとまだった。こんなにも休み明けが待ち遠しく感じたのは、私の人生で初めてだった。


 鷹化して鳩となる間がとても長く感じた。


 雲雀(ヒバリ)さえずり、うきくさ生い初む、湖西の街。

 

 真新しい制服に身を包んだ春色きらめく私。


 母の運転する車が家より出発。後部座席には胸を高鳴らせる私を乗せて。


 グリース公園を過ぎ、踏切を抜け640歩。私が入学することになる私立きらきら学園に到着だ。

 

 玄関に張り出されているクラス表。私は1年2組みたい。親と別れ、自分の教室に向かう。室内に入るとなんとなくかしこまっている新入生達。緊張してるのかな?


「皆、おはよう!」


 私はそう言って教室に入り、窓際より後ろから2番めの自分の席に座る。


 ……先程(さっき)の挨拶に誰も返事をしてくれないな……、このクラス大丈夫かな? ……もしや、私以外NPC!?


 だとしたら、このクラスは市の壮大な何かの実験のためだけに態々莫大な金を投入してこしらえられたクラスで(ラノベでよくある感じの)、被験者は私!


 何かの実験……、実験……、うーん、なんだろう?


 そのような疑懼(ぎく)が私の頭の中の競技場を奔走ランニングしている時、先生が入ってきた。


 黒髪の、スーツが似合う、クールな面持ちの女の人だ。


「じゃー、今から体育館行くぞー」


 遠目から見ても分かる面倒そうな表情に、眠そうな声。


 仕事に愛着を持っていない感を猛烈バリバリに漂わせたその駄目駄目なオーラ全開の人に、私の頭の中を凄まじい速度で駆けていた疑懼くんも足をとめた。



 春光(しゅんこう)当たる踊り場を下り、校長室やらなんやらを過ぎて、渡り廊下から体育館へ。拍手で迎えられた私達は席へと着席。で、式の様子は割愛。


 まぁ普通の何の変哲もない入学式だったということで。


 そして、また教室に戻ると、あの面倒くさそうな先生の如何にもあぁ煩わしい、って感じのあれやこれやの説明タイム。


 ていうか、片手に煙草の箱(アメスピ)を持ちながら説明しているんだけど、一服したくてしょうがないのかな……? 


 そして、自己紹介の時間が始まった。


 NPC疑惑のある子たちが類型的に次々と自己を紹介していく中、もう私の番。


 よし! やってやりますか!


 私は席を立ち、神速で教壇にあがると、


「私の名前は緒川結依おがわゆい! 好きなものは漫画とアニメと歴史に音楽!

いま嵌まっているのはBUTTHOLE SURFERS! 最近熱く心に感じたいくさは西ローマ・西ゴート連合軍VSフン族の戦!

ここでやろうとせんことはVTuber!

君達の中に眠る蝋燭に火を灯したい者は、男女動物NPC問わず、私と1年行動を()にしようではないか! ()、にね! ()、だけに!!」


 私はポーズと伴に自己紹介を極めた! これ以上なく、極まった!


 しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。


 全く反応しないクラスメイト。


 私、なんかやっちゃいました?


「ん? 自己紹介終わったのなら席に戻れよ」


 先生にそう言われ、私は普通のスピードで席へと戻った。あれ? 中学では馬鹿受けだったんだけどな……。


 そして、全員の自己紹介が終わり、最後に担任がめんどそうに名前だけを紹介してLHRは終了。高校1日目が終わった。


 ……え、もう終わり!?


 ふと、後ろを振り向くと、何時の間にか親たちがずらーっと並んでいた。私のお母さんもそこに居たんだけど、何故か目を合わせようとしない。


 私が、おかあさん! って話しかけようとしたら、そそくさと逃げるように教室を出ていった。お母さん!? 私、今日お母様の運転する車で来たんだけど!?


 徒歩では帰りたくないから、母親を追い掛け私も教室を出ようとしたけど、そういえば部活のことを先生に聞いていなかったことを思い出した。ので、窓際で堂々と一服している先生に、


「部活! 先生、部活!!」


 と、私の要件がとても理解るように言うと、……へ? って、いまいち伝わらなかったような顔したから、阿呆でも理解できるよう更に詳らかに、私、入りたい部活があるんですけど! どの先生に聞けばいいの!? って、言ったら、


「……部活なら、来週に各部から説明会が行われるぞ。さっき、話した筈なんだが」


 と、言われた。あれ、そうだっけ……。でも、確かに入学初日に部活の説明会まであったら、ちょっとアレな学校だよね!


 それじゃ、先生、さようなら! 今年1年よろしくね! と伝えて急いで教室から飛び出すと、母が私を置いて車を発進させる前に飛び乗り、きらきら学園を後にした。

 

「ねぇ、結依、あなた高校生なんだから、もう少しだけ大人にね……」


 なぜか車内で母に(さと)されつつ、私の家に着くと、部屋に戻り、ベッドに背中から落下。


「……疲れたー」


 入学式って、特段、疲れることはしていない筈のに、とても疲れる。そして、高校生活が始まったというのに、全く始まった気がしないのだ。


 友達できるかな。


 そういえば、私、全く考えてなかったんだけど、


「……VTuber部って、きらきら学園にあるのかな?」


 そう一人呟いたんだけど、まぁ、無かったら先生に相談してみよう。あの先生なら、なんだかんだ言っても協力してくれる……、いや、担任教諭なんだし、相談には乗ってくれるよね。きっと……。


「早く、来週が来ないかな」


 頭の蝋燭に火が点いている私は、この春のゆったりとした時間の流れが耐えられない。額に水を延々と垂らされる拷問を受けているみたい。


「けど、そんなんじゃ私の蝋燭の火は消せないよ!」


 お母さんが車内で説教してた、『もう少し大人になりなさい』とは、この気早なはやりごころに対してなんだなと悟った私は、まだ自分が幼いことを反省して、大人しく来週を待つことにした。

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