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第1話 私、高校ではVTuberやるね!

「んー……どうしよっかなぁー……」


 最近お気に入りのIncubusのMorning viewを聴き終えて、私――緒川結依おがわゆいは悩んでいた。


 とても退屈極まりないのだ。


 好きな娯楽はうんとあるが、それでも尚、私の脳みそは更なる愉しみを欲している。


 何かが足りない……。


 中学を楽しく卒業おえて、高校入学までの休み期間。


 振り返っても別段不満なんてないし、将来にも特に悩みなんてない。

 

 大人になって一企業に務め働くことにも憂鬱を感じていない。


 それが()だからだ。

 

 それなのに、現在いま此の時、私は何かを熱望している。不安に趣の似た憂慮を抱えそれに危惧している。Cave inのBrain candleの歌詞の様だ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「んんー……どうしよっかなー……」


 もう寝てしまうか? はたまた、徒爾むえきに夜を更かすか? どちらも不毛に感じる……。


 とても苛立つ。ものすごくムカムカする。


 私の頭のろうそくに火が灯ってないことにめちゃくちゃ腹立ち、不安なのだ。


「……新しい更新のあるまったり解説でも見よっか……」


 厚い激励で以って故郷から送り出されたのに、全く戦果を挙げられなかった古の兵士の様な感情でトゥーチューブを開くと、TOPページに私の知らないVTuberが表示されていた。


 同接は165とそんなに多くは無いから私へのお薦めなのだろう。なんとはなしにそれをクリック。


 カチッ!


 配信タイトル【心霊スポットの井戸に2周間潜み、肝試しに来る奴を脅しに脅すぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!――グランドフィナーレ――】


「で、井戸の中に2週間も居るとね~、もうこの世に私は居ないっていうか~、でも居なくても確かにこの世に存在してるっていうか~、エヘヘへ、あっ! 来たよ!」


〝何言ってるん?〟

〝来た!?〟

〝おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!〟

〝次の獲物だ!〟

〝頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ!!!!!!〟


 どこかの山奥。荒れ果てた小屋。前庭(まえにわ)に古びた井戸。そこへ何処いずこよりかくる男と女。


「……ここがそうなの?」


「そう。2人の女学生がこの小屋で仲良く首吊したって噂の……。で、あそこが例の井戸! あの井戸からは夜な夜な陰鬱なメンヘラ幽霊が『彼氏になって~、彼氏になって~』って恨めしそうに出てくるんだって……」


「え? そのメンヘラ幽霊なんか陰キャすぎない!? てか、女学生らはどこいったの!?」


「あまりにも彼氏ができなくて世を怨んで自殺したんだと。一度見ると10年は付き纏われるみたいだぜ」


「絶妙にしつこいね! ぜったい陰キャじゃん、そのメンヘラ幽霊!!」


 ふと井戸の方から声。


「……すぞ」


「ん!? 今なにか聞こえなかった!?」


「私にも聞こえた! クラスに居た靉靆(あいたい)なオーラを纏った明らかに陽キャを妬んでるのにその思いをおくびにも出さない陰キャの心の声みたいな気持ち悪い声!! たつくん、私怖いよ~」


「大丈夫。かなみは俺が必ず守るから! おい、メンヘラ幽霊! 彼氏ができないくらいで自殺とか、お前の先祖様もさぞ呆れてるだろう!


そのうじうじな魂じゃ阿弥陀様にも『この魂、臭い』てゴミ箱に鼻かんだティッシュを捨てるかのようにぽいってされたんだろ! 


そうして捨てられた先がその井戸ってわけだ! お前、極楽浄土から門前払いを食らってるじゃねーか! 


てゆーか、お前が彼氏できないのって、お前の顔があまりにもぶさ……」


「てめぇ~ら~、……ぶっころすぞ~~!!」


 不意にカップルの背後から声。白装束に頭には五徳(ごとく)を冠りそこに火の付いた蝋燭を3本指し、手には金槌、眼は黒目が見えぬほど白目にひん剥いたおどろおどろしい形相の女。


 怯えるカップルの頭上よりおもむろに持ち上げた金槌を一気に振り落とさんとする!


「「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」


 カップルは泡を吹いて気絶した!


〝やったぞ!!!!!!〟

〝wwwwwwwwwwwwwwwwww〟

〝これで累計50人目!〟

〝うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!〟

〝今回滅茶苦茶恨みこもってたぞ!〟

〝いいぞ! もっとやろう!!〟

 

「いや~、もう無理だし~! 今日最終日だよ~!?」


 配信画面には泡を吹いて倒れているカップル。画面の右下に申し訳程度に置かれているVTuberアバター。

 最終日に相応しくコメントが異様な熱気で盛り上がっている。


 正直、驚いた。これくらいの同接だと大抵内輪向けのまったり配信の方が多いから。私も今夜はそれを求めてこの配信を開いた。

 それなのに、意に反して、めちゃくちゃ面白かった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それって、面白さが担保されている配信より心に残るんだ!


「これだ!」


 私は部屋を飛び出し、階段を降りて、居間に居た両親に向かい、


「私、高校ではVTuberやるね!」


 そう宣言して、またすぐに自室へと駆けていった。


「……VTuberって、何だ?」


「さぁ? それよりあの子、高校生になったらもう少し大人になってくれるといいんだけど……」



 部屋に戻った私は先程までの私とは違っていた。


 頭の蝋燭ろうそくに間違いなく火が灯っていた。


 未だ盛り上がりの衰えぬ先の配信を映しているPCモニタをじっと見つめながら、燃えていた。


 私に足らなかったもの。私の頭の蝋に火を灯してくれるもの。それは、ずっと外からの熱だと思っていた。でも、そうじゃなかった。


 私の蝋は、私で点火するものだったんだ!

 

 自らに火を点けるのがこんなにも心地良いものだと、私は知らなかった。


 春の夜空が瞬く中、私は休みが明けるのをもう待ち侘びていた。


「高校生活、楽しみ!」


 そして、私は未来への期待にしづ心なくその夜を明かした。

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