最終話
三月某日。
私は、里穂と海辺の町に来ていた。温泉地帯で有名らしく、里穂からのリクエストで旅行先が決まった。旅行の名目は、卒業旅行。
「あぁあ、これで千晴との禁断の恋が終わりかぁ。残念だな」
「嫌な言い方やめてくださいよ。あと、終わりませんから」
「そんなこと言って、生徒じゃない私には興味ないんじゃない?」
「人聞きの悪いことを……」
あれから、少しずつ二人の関係を深めた。
最初は友人のように二人で遊んだり、日々の愚痴を言い合ったり。
学校では知り合う前の関係性を保っていたが、放課後や休日には殆ど同じ時間を共有していた。
そうして行くうち、本格的に想いを寄せ合って、二ヶ月前から付き合い始めている。
せっかくなら卒業を待って私から思いを伝えたかったのだけど、あまりの盛り上がりに、勢いで押し倒されてしまった……情けない。
「それにしても、無事に卒業できてよかったです。里穂はただでさえ成績が悪かったのに、無断欠席で単位も危うかったですから」
「その節は……お世話になりました……」
夏の一件で無断欠席が続き、里穂は単位を落としかけた。
欠席の原因が私だっただけに、サポートに奔走せざるをえず、他の先生に頭を下げて回ったのだ。
「私の責任もありますから、あまり強く言えませんけどね。専門学校にはちゃんと真面目に通ってくださいよ」
「分かってまーす」
里穂は四月から理容師の専門学校に通う。昔から憧れがあったらしい。明確な夢があるのは良いことだ。
専門学校に行けば、私と里穂の関係はまた少し変わるだろう。その先も、変化の連続に違いない。
それでも、その度に二人の形を見つけていきたい。
「んむぅ!」
ボーッと真面目な事を考えていると、突然に唇を重ねられた。
犯人を捜せば、悪戯に成功した子供のような里穂が居る。その笑顔が、私の鼓動を狂わせた。
どうやら、悪い女に釣られたのは、私の方だったらしい。
彼女の楽しそうな顔を見て、私は胸の内の昂ぶりを言葉にする。
「I'm crazy about you.」
英語が聞き取れなかったのか、意味が理解できなかったのか。里穂は眉を八の字に曲げて小首を傾げる。
「今、何て言ったの?」
「なんでしょうね。教えてあげません」
「えー!」
いつかの授業を思い出す。
あのときの私たちは、教師と教え子だった。
そして、――今はもう違う。
最後までお付き合いいただき有難うございました。
カクヨムにて長編版を連載開始しました。
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