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17/30

あえて目指すは全力脱力タイムズ

「はあ……」


 バイト帰り。

 俺はため息をついていた。

 もうすぐ梅雨入りするかという時期で、暑く晴れているにも関わらず、なんともいえない重たさを持った空だった。

 この調子で仕事が増えていけば、バイトしなくてもすむかもしれない。

 そんな状況なのに、気分が重い。

 正直俺がお荷物な自覚がある。

 呼ぶ側も、もはや彼女だけでいいのだ。それはわかっているのだが。

 マネージャーにそれとなく聞いてみると……。


「ピンの仕事はNGと言われています」


 乃絵美は、コンビでの仕事しか受けない。そう言っていたというのだ。俺は聞いていない。

 そして、俺は当然ピンがNGなんて言っていない。

 これってつまり……同情だよな……。

 情けねえ……。

 年下の、養成所にも行ってない、芸歴もほとんどない相方に、同情されてる始末。


「牛丼食ってくか……」


 本来の俺は、持ち帰る派。

 わざわざ店で食うのは、紅しょうがをたっぷり使いたいからじゃない。単に家に帰りたくないから。

 この時間に帰ったら、乃絵美がいるからだ……。合鍵なんて渡すんじゃなかった。

 惨めだ……結婚して無職になったような気持ちだよ。あわせる顔がない。

 暗くなっていく外を見ながら、牛丼をつついてると、前の相方を思い出した。


「あいつ、こんな気持ちだったのかな……」


 俺は、相方が使えないやつだったことが許せなかった。

 ネタが書けない。ギャグもできない。大喜利も駄目だし、基本的にお笑いが何もできない。

 何をやるかと思ったら、ファッションだの、メイクだの。男のくせに見た目ばっかり気にして。

 くだらない。

 モテたいだけなら、お笑いじゃなくてもいいだろう。

 そう思っていた。

 そう思って、バカにしていた。

 でも、あいつはあいつで、自分にできることを探していたのかもしれない。

 今、見目麗しい相方を持ってみると、それが仕事に繋がっていることがわかる。


「バカは俺だ……」


 そもそも俺はネタを作りたい人間だった。そして、ピンネタはあまり好きじゃなくて、コンビでお笑いがやりたい人間だった。

 だから、あいつとコンビを組んだのは必然とも言えた。

 そうだ、俺が望んでいたんだ。俺が、俺のネタを、黙って受け取ってやってくれる相方を望んでいた。

 だからネタができないことはわかってて組んだのに。

 

「あいつを、じゃない方にしてたのは俺だ……」


 劇場で多少の笑いを取っただけで、俺のネタだ。俺が笑わせたんだ。そういう態度を取っていた。なんて幼稚だったのか……。

 あいつにしおらしくネタをつくってなくてすみません、みたいな態度を期待していた?

 あいつが「じゃない方感」を出してないことが気に食わなかった?

 感謝して欲しいみたいな言い方だったけど、それってそういうことだよな。だって俺からは感謝なんてしてないんだから。対等な関係だって認めてないんだから。

 俺がネタを書いてるから。お前はそれを感謝して、頭を下げろって。それって本当の相方って言えるのか?

 自分にできることをやろう。そう思うほうが健全な考えじゃないか?

 劇場では、女性人気は重要だ。

 実際にお金を払ってライブに来てくれる、SNSなんかでも推してくれる。そういうのは圧倒的に女性が多い。特に俺らのような男性の若手は。

 それにファンレターは本当にモチベーションになる。ウケなくて、貧乏で、なんで芸人なんてやってんだって思うとき、立ち直れるのはファンの手紙だったりする。

 ファンレターをくれるのは、ほとんど女性だ。そしてルックスがいい方が、ファンレターを貰いやすい。

 別にあいつは合コンしまくってたとか、ファンに手を出してたとか、そういう話は聞いたことがない。

 そう考えてみれば……


「あいつ……」


 そう言ってくれれば……なんて言えるわけもない。

 まともに話なんてしたことないんだから。

 飯の途中だと気づき、一口かきこむ。

 せっかく牛丼屋にいるからと、紅しょうがを多めに食ってみるが、普通に食った方がうまい。

 肉と米、それと紅しょうが。どれかが多すぎてはいけない。バランスが大事なんだと気づかされる。

 コンビもそうだ……肉だけ食ってもしょうがないんだよ。そりゃ牛丼の主役は肉だよ。でも肉が偉いとか、そういうことじゃねえんだ。

 肉とごはん。両方あって、牛丼。だから、うまい。

 それをわかってなかったってことだ。

 そう考えれば、今度は俺が白飯になるのも悪くないか……。


「いないか」


 あまりにもゆっくり牛丼を食ったせいか、家に帰ったら誰もいなかった。

 会わないようにしてたんだから、当然か……。

 ちゃちゃっとシャワーを浴び、布団に入って、スマホをいじり……配信されていた動画のコメント欄を見る。

 

『ればさしさん、カワイイです』

『ればさしちゃん可愛すぎ、動画も見てます』

『ればさし最高、ライブあったら行きます』

『アイドルファンやめてお笑いファンになります。ればさしちゃーん!』


 いや、すごいよな。マジで……。

 配信だなんて、たいしたもんじゃないと思っていたが、マネージャーにもこれを見たってかなり問い合わせが来ているらしい。あのムカつくやつ、マジで人気あんのな……。

 来週から、そのおかげでYouTubeのゲストの仕事がいくつか入っている。当然目当ては俺じゃない。俺はオマケだ。でもそれでいい。

 次からは本気で脇役に回ろう。

 全力で、じゃない方をやる。相方の邪魔にならない時間を過ごす……全力脱力タイムズだ。俺の今後は。


全力!脱力タイムズ。毎週楽しみに見ています。

アンタッチャブル再結成とか、山里亮太の結婚のきっかけとか伝説をつくってることで有名ですね。

企画で翻弄されまくる芸人が面白いのですが、斎藤先生が東大自慢するとか、先生方が活躍する方が好きかも。

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