第三話 最後の希望と見えない襷
「ついに、俺たち三人だけになっちまったな…。」
一ノ瀬が呟く。
「皆んな、部屋に戻っちまったからな。」
先ほどキャプテンに指名された矢車が、
ため息混じりで応えた。
「なあ、矢車、イッチー。」
マネージャーの真中が二人に声をかける。
「俺たちの代だって、最初は十人いたのに、
結局残ったのは三人だけ…。
その上、俺たち『狭間の世代』の中で
駅伝メンバーとして頑張れてるのは、
もう、矢車しかいないんだよな。
だから、俺はヤグに最後まで
キャプテンを頑張ってほしい。
大和さんや竹村さんみたいじゃなくても、
ヤグにしかできないことがあると思う。」
一ノ瀬と真中は、
昨年、櫛部川監督から、
選手として先がない旨を伝えられていた。
つまり、事実上の戦力外通告である。
そのため、最後の大学生活を
チームサポートに徹することを決めていた。
そんな二人にとって、
矢車は、
『狭間の世代』の最後の希望なのだ。
第三話 最後の希望と見えない襷
(これも、きっと、
見えない『襷』ってヤツなんだろうな。)
真中からのエールに、
矢車は心の中に新たな鼓動を感じていた。
「ヤグちゃん、俺と真中は、
もう、レースに出場できないけど、
それ以外のことなら何でもやる。
走ることだけが『駅伝』じゃない。
必ず、箱根駅伝でシード権をとって
ジョーダイの礎を築くんだ。
『狭間の世代』、最後の大仕事だぞ!
だから、俺たちは何があっても
最後までチームと一緒にいるぞ。」
一ノ瀬の気持ちは、
弱気になっていた矢車のハートに
煌々と火を灯した。
「ああ。やるしかねー!
それにあの時に比べれば、
今の悩みなんて、何てこともないしな。」
矢車たちは、
蒼太たちが入学してくる前、
つまり、自身らが一年生の時に起きた
あの事件のことを思い出していた。