第十五話 エースの条件
「どうして、上級生は涼介さんが
城西拓翼大学のエースだって
言うんだろうな。」
「そうだよな。箱根での実績なら、
早稲田学院大学の速水さんと渡り合った
蒼太さんの方が、スゴい気もするけど…。」
二軍の練習での小休憩時に
一年生たちがそんな話をしている。
そこにフラッと二年生の元サッカー部トリオの
治希と悠慎、そして拓生が現れて、
後ろから声をかけてきた。
第十五話 エースの条件
「実績だけじゃ、ウチのエースにはなれねーよ。
駅伝はそんな単純なものじゃない。」
一年生に先輩風を吹かせながら、
治希はニヤリと笑う。
「そうそう。お前らも涼介さんと
一緒に走ってみれば分かるよ。」
悠慎も俺は駅伝通だろと言わんばかりの
顔をしていた。
「そりゃ、実際に涼介さんのトラックでのタイムは
チームで一番だ。エースになるには、
実力がなければ話にならない。
だけど、それに加えて、
実績より大切にしなければならないものが
あるんだと思うな。」
拓生は先の二人よりも
賢そうなコメントを残すことができ、
ご満悦な顔をしていた。
そして、その頃。
ジョーダイ陸上競技場の
トラックで行われていた
一軍の一万メートル走では、
石川涼介が蒼太たち九名を置き去りにし、
圧倒的な実力で完封していた。
あの日の途中棄権から半年、
その苦しみを乗り越えた涼介は、
いつ何時であっても
背中でチームを引っ張れる存在にまで
這い上がっていたのである。
自力で絶望や困難を打ち破る力があるからこそ、
城西拓翼大学のエースを
名乗ることができるのだ。