第十三話 価値観の違いと尊重
「なあ、速水…。
気持ちはありがたいんやけど、
俺は城西拓翼大学で
みんなと駅伝がしたいんや。」
蒼太は下を向きながらに答えた。
(それに、俺なんかがマラソンで
通用するわけがない…。)
正直、自信がない。
箱根駅伝が一区間、
二十キロ程度であることに対し、
マラソンは、およそその倍、
42.195キロを
一人で走らなければならないからだ。
速水は大きくため息をついた。
そして激しい口調でに言い放つ。
「どいつもこいつも、駅伝、駅伝!
それだから、日本人はいつまで経っても、
長距離でメダルがとれないんだ。
インカレや箱根駅伝ごときじゃあ、
世界への通過点にもならないんだよ!
世界をとりに行く上で
駅伝がもはや弊害でしかないことに
誰か、早く気づいてくれよ!!」
長距離に人生を賭け、
世界で戦う覚悟を持つ男の
魂の叫びであった。
速水のスケールのデカさに、
蒼太の心にとてつもない衝撃が走る!
しかし、それと同時に、
駅伝を格下に見たような発言に
蒼太の怒りは頂点に達していた。
第十三話 価値観の違いと尊重
「箱根駅伝ごときだと!?
バカにしてるんか?速水!!
駅伝がオリンピックにないからって、
マラソンより格下の競技やなんて
誰が決めたんや!!
お前みたいに才能がなくても、
皆んな襷を繋ぐために、
必死にやっとるんや!
誰にもそれを否定する
資格はないやろ!」
しばらく、沈黙が続いた後、
冷静になった速水が再び口を開いた。
「箱根駅伝が最終目標なら、
俺もお前と同じ気持ちだっただろうな。
でも、世界で勝負したいのなら、
駅伝という枠から飛び出さなきゃいけない。
誰が何と言おうと、俺は世界に挑戦する。
オリンピックが俺の目標なんだ。」
ふぅーと息を吐きながら、蒼太は天井を見上げる。
「やっぱり、すげぇわ。お前。
でも、俺は駅伝を続けるで!
速水はマラソンでメダルを獲る、
俺は駅伝が最高の競技だと証明する。
それでええやろ。」
速水の顔は、少し残念そうであったが、
どこかしら穏やかでもあった。
「ああ、そうだな…。」
蒼太と速水。
この日を境に、
二人は別々の道を歩むことにした。
しかし、これは決別ではない。
価値観の違いを認め、
理解し合ったからこそ、
互いの人生を尊重したのだ。