第九話 食レポ・オーケストラ
四月。
城西拓翼大学、駅伝部寮。
会議室では、
新入部員のために入部式が行われていた。
新入生は三月にすでに練習に合流し、
かなり部員らしくなっているのだが、
あらためて気持ちを引き締め、
メンバーとしての自覚を持ってもらうため、
このような催しをする大学もある。
目玉はやはり、この二人である。
関西の名門、立命社大学から編入した
山之内太陽(二年、二十歳)と、
実業団から大学に入学した
宗像哲也(一年、三十路)だ。
山之内に関しては、転入者とは言え、
年も近いため比較的話しやすいが、
問題は、一回りほど年の離れた宗像である。
部員全員が、いまだに宗像に対して、
日常生活でどのように接すればよいか、
そのきっかけすら掴めないでいた。
第九話 食レポ・オーケストラ
その日の昼食時、
寮の食堂はいつも通り、いや、
宗像がきて以来、
すっかり静かになってしまっていた。
宗像自身もこの空気を察してか、
非常に気まずいと思っていた。
そしてこの日、思い切って自分から
声をかけてみることにした。
「なあ、蒼太。」
蒼太の背筋が伸び、声が裏返る。
「ハイッ!何でしょうか!?」
宗像もギョッと驚き戸惑う。
「あ、いや。ここのレバニラ炒め、
ジョーダイ焼きっていうのか?
何か美味いなって思って。」
再び、沈黙が始まった。
(何だ!?
今、俺はスベったのか?
まだまだ若いつもりだったんだけど、
これがジェネレーションギャップって
やつなのか!?)
宗像が冷や汗をかき始める。
(やべぇよ、宗像さん怒ってないよな?)
全員がこの状況を心配していた。
そして、ついに宗像は大技に出る!
なんと、唐突にジョーダイ焼きの
食レポを始めたのだ。
「うむ!さすがはジョーダイ焼きだ!
このコク、この旨み、この香ばしさッ!
三位一体となって、口の中に広がり、
幸せの襷リレーを奏でているな!!」
絶望的なくらいド下手くそであった。
(これは、竹村さんの
バリバリ君の食レポより酷い!)
(ここはお前らの出番だろ!?
関西人コンビ!!何とかしろよ!)
双子のレンとシュウが目で蒼太と涼介に
無言の合図を送る。
(いやいや、
怖いって、気まずいって、俺らもスベるって!!)
コンマゼロ一秒、無言で即答した。
(どうする!?どうすればいい!?
頼む誰か何とかしてくれ!)
その時だった。
「あ、宗像さん、白髪生えてますよ。」
キャプテン矢車のシュールな雰囲気が
その場を空気を変えた。
「え!?」
一瞬全員が固まった。
そして、
一連の流れを見ていた濱上コーチが
飲んでいた麦茶を盛大に吹き出す。
「順平コーチ!やべぇ!!」
「いや、いまの矢車は反則だって!」
「おい、矢車!!
白髪どこ?白髪どこだ!?」
「あ、すみません。宗像さん。
ちょっと分かんなくなりました。」
「そりゃねーだろ、矢車!!
俺はまだ若くいたいんだー!」
宗像の魂の叫びと
その他全員の笑い声が
合唱となり、
ジョーダイ駅伝部の食堂に
いつもの明るさが戻っていた。