第七話 宗像の目利き
「どうだった?ジョーダイでの初練習は?」
コーチの濱上が、実業団あがりの宗像に
感想を求める。
「ああ。荒削りだが、大学生にしては
なかなかいいチームだ。
特に世間が言ってる『悲劇の世代』、
あいつら、まだまだ伸びるよ。
それから…。」
キツめの朝練だったにも関わらず、
宗像はまだまだ余裕の表情をしていた。
一方、他の部員はゼェゼェ言いながら、
その場で倒れ込んでいる。
「ヤバいって…。ホンモノだよ。
あの速さは。やっぱりスゲェ…。」
「今日の講義、爆睡決定だわ…。
俺の意識と共に単位も落ちてしまうんだ。」
「いや、今春休みだし講義なんかねーよ。
悪夢からはやく目を覚ませ。クソバカ。」
「…。」
これで、箱根駅伝の十区のメンバーのうち、
早くも一つが決まってしまったと誰もが思った。
第七話 宗像の目利き
「それから、順平…。」
宗像は、改まったように、
コーチの濱上に話かける。
「ありがとうな。
ジョーダイに誘ってくれて。」
濱上は首を横に振って応える。
本当は宗像が今シーズンを持って
競技人生を終える予定だったことを
知っていたからだ。
「いいや。こちらこそだって。
あいつらと一緒に走りながら、
お前の持ってるものの
全てを伝えてやって欲しいんだ。」
宗像は、「分かってる。」と言いながら
ドリンクを口に含んだ。
そして、
ぐったりしている部員たちを一人ひとり
指差しながら、それぞれの特徴を
見事に言い当てていった。
高砂、高橋、釣賀の元サッカー部トリオは、
体幹の発達具合から、
それぞれ任されていたポジションが、
センターバック、ウイング、中央フォワードで
あっただろうということ、
蒼太たちの弱点が集団での駆け引きや、
一対一になった時の勝負所の見極めであること、
そして、最後に矢車の方を指差し
こう言った。
「なんで今まで、
あいつを箱根で使わなかったんだ?
もし、伸び悩んでいるなら、
俺に預けてくれよ。
あいつは坂道に、特に上りに強いはずだ。」
コーチの濱上は、
宗像の目利きに驚いて声も出ない。
(一度見ただけで、そこまで見抜けるのか!?)
対照的に、宗像は「別にこのくらい普通だろ?」
と言う顔で淡々とストレッチを再開していた。