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第8話 同じ力



 光が収まった時、向かい合っていたのは二人の姿は変化していた。


 翅人の男はシンプルな純白の鎧から、金色の竜のような装飾が浮かび上がり、握っていた剣には2匹の蛇がまとわりついたような装飾が現れる。そしてその背にはまばゆい輝きを放つの光輪(グローリー)が。


 そしてルヴィはと言うと、ただの布の服から狼の如き意匠が施された赤と黒の具足を着込んだ武者の姿となっており、腰には立派な刀が現れていた。



「……なっ…………は?」


 今から力の差を見せてやると意気込んでいた翅人の男が驚愕にその目を見開く。


 だが、驚いたのはこちらも同じだ。


「なんで、俺と同じ力を持っているんだ?」


 腰の刀を抜き、腰を少し落として頭の横で切っ先を相手に向けるようにして構えをとる。


 いつでも殺し合えるように、警戒は怠らない。


 同じ力。同じ文言。違うのは変化した姿のみ。

 この状態でどちらが格上なのかは不明だが、相手が格上であるとした上で常に対処するのが勝利への近道だと、狩りについて教えてくれていた頃のガライ爺さんが話していたのを思い出す。


 が、どうも相手の様子がおかしい。


「魔装? なぜ、人間ごとき下等生物が? それに魔装()()……リエラ様と同じ? 『権天(アルカ)』の私よりも序列が高い『智天(ケラス)』の魔装……しかし光輪は出ていない、なぜ?」


 何やら顔を青くして、ブツブツと呟いている。

 話している意味はわからないが、これは明確な『隙』だ。


 トンと軽く大地を蹴っただけで、十数メートルはあっただろう奴との距離が一瞬で詰まる。


「『次元斬』!」


「ぬぐぅっ!?」


 相手の驚愕した顔が見える。

 必死にその身をひねって回避しようとした彼。持っていた剣が、振り抜いた刀に触れた。


 その瞬間、翅人の男の目が更に驚愕に見開かれた。


「馬鹿な……っ!?」


 刀が彼の剣に触れた瞬間、激しくぶつかり合うかと思われたそれは、豆腐でも切るかのように容易く翅人の光り輝く直剣を斬り裂いたのだ。


「『燕返し』!」


「くっ!」


 返す刃に危機を感じたのか、翅人の男は必死の形相で転がりながら回避し、超低空で羽をはためかせて距離を取る。


「なんだ、その武器は……!」


 冷や汗を垂らしながら男が問う。

 とはいえ彼もこちらの能力については大方想像がついているのだろう。


 だが、わざわざ敵にネタばらしをしてやる義理なんてない。


「次は殺す」


 再び構えた刀がチャキと静かに音を鳴らす。


 魔装神将【伐折羅】は、魔力を持たずに産まれた俺が生まれつき持っていた12の能力の内の一つだ。


 能力の内容は単純明快。

 あらゆる防御の無効化。


 魔法だろうと、物理的な守りだろうと、容赦なく全てを切り裂く。

 もちろん身体能力の向上も著しく、殴り合いだけでも大型の魔物すら簡単に殺すことが出来てしまう。



「そうか、そうか……これは態度を改める必要がありそうだ」


 膝をついていた翅人の男は、乾いた笑い声を出しながら立ち上がる。何をするのかと警戒していれば、それは意外なものだった。


「我が名は『リウェト』! 権天(アルカ)のリウェトである!」


「……ルヴィだ」


「そうか、ルヴィか。ではマナフィールドにより強化された私の魔装【ズメイ】の力、受けてみよ!」


 名乗りを上げた翅人の男『リウェト』。


 彼は黒紫の炎を折れた剣に纏わせて、一気に前へと突き出した。


 すると剣にまとわりついていた二匹の蛇の装飾が黒紫色の炎を纏って巨大化し、見上げるほどの炎の蛇となって襲い掛かってくる。


「その炎は毒の炎! まともに受ければ一瞬で死に至るぞ!」


 リウェトのそんな声が二匹の炎の蛇の向こう側から聞こえてきた。


 んなもん聞かなくたってまともに食らったらヤバい事ぐらい誰だってわかるわクソ野郎。なんて悪態を心の中でつきながら、刀を一度しまい、そして居合いの要領で抜き放った。


「『次元斬』!」


 赤黒い閃光の如く輝く斬撃が、振り抜いた刃から放たれる。

 全てを切り裂く一筋の斬撃が、二匹の炎の蛇を真っ二つに切り裂いた。


 命を持たぬ、武器として生み出された炎の蛇。

 しかし伐折羅の刀にそんな道理は通じない。


 斬れば死ぬ。

 斬れば止まる。

 斬れば終わる。


 相手を殺すという一点に特化した能力はどんな『例外』も許さない。


 斬り裂かれた炎の蛇はあり得るはずの無い苦しみにのたうち回り、まるで最初から存在していなかったかのように空気に溶けて消えていった。


「奴は……!」


 二匹の炎の蛇が消え去ったあと、視界が晴れたその先に翅人リウェトの姿はどこにも無かった。おそらく奴の渾身の一撃を囮にして逃走していったのだろう。


 周辺を覆い尽くしていた緑色の光もいつの間にか消えている。


 ひとまずの危機は去ったとして、良いのだろうか。

 自然と身体から力が抜け、魔装の力が解けていく。


「る、ヴィ……ぐふぅっ」


 ふと、背後から声がした。

 はっとして振り返ればガライ爺さんが倒れたままになっている。


 敷石を削った剣戟の跡。

 大地を焼いた毒の炎の焦げ付いた跡。

 村には翅人との戦いの跡がくっきりと残されていた。







「結局、お姫さんの出立は延期かい」

「仕方ないじゃろう……出立出来るような状態じゃ無くなってしもうたんじゃから」


 辛気臭い様子でブル爺さんとメディ婆さんが会話している。


 戦いの後、負傷した村人をそれぞれの家へと運び込んでの治療が行われた。幸い死人は出なかったが、重傷者はいまだ予断を許さない状況である。


 俺の魔装の一つに癒やしの力を司るものがあったため、それで治療しようともしたのだが、何故か身体が急にぐったりとして魔装を使うことすら出来なかった。


 身体の機能は使わなければ衰えると言うが、魔装の能力も使わなければ衰えると言うことか。そこまで肉体の一部らしくしなくても良いだろうにと、恨めしく思う。


 村の空気はいつもじゃありえないくらいにピリピリしていて、誰も彼も暗い様子。こんな状態で姫さまが出立できるわけもなく、ガライ爺さんが読んだ馬車も無駄になってしまった。


「それにしても、ルヴィの坊や……話に聞いてた力、『翅人』って奴と同じだったねえ」


 ぐったりと中央広場の噴水の縁に腰掛けていた俺に、アリス婆さんがそんな事を話しかけてくる。


 そんなこと言われたって、俺だって驚いたのに。

 なんだって翅人とかいう連中が俺と同じ力を持ってるんだか。


「俺は何にもしらないですよ、ホント。俺の力は生まれついてのものなのに……なんで翅人なんて連中が同じ力を」


「……もしかして、ご先祖に翅人がいたとかかい?」


「んなわけないじゃないですか。もう縁切れてますけど、ウチはがっつり血統書付きですよ。そりゃもう血にこだわってたんで」


「なんだかそれはそれで嫌な話だねえ」


 はぁとため息をつきながらアリス婆さんは疲れたように隣に腰をおろした。


 俺が翅人と同じ力を使ったのは村の皆に見られていたのだから、もっと警戒されているものだと思っていたが、意外にも今まで通りの扱いをされている。


 コガラの村の、ただのルヴィとして。


「俺のこと、怖くないんです?」


「怖くなんてないよ。ルヴィの坊やはルヴィの坊やだろう? どんな力を持ってようが、坊やはなあんにも変わらないのよ」


 そう言って、彼女はポンポンと俺の頭を軽く撫でた。

 子供扱いされているようで少し恥ずかしい。


 けれど、同時に少し嬉しくもある。


「それより……ショックを受けてるとしたらお姫様かしらねえ。ルヴィの坊やと同じ力を持ってる連中に国を滅ぼされて、家族もみんな失っちまったんだろう?」


「そこはまあ、どうにかしますよ」


 実のところ、考えなんてものは何も浮かんでないけれど。


 とりあえず行動で示すしかないというのは、わかってる。

 上っ面だけ取り繕える言葉よりも、行動というのは何よりも信頼に足る証拠だから。


「ガライの爺さんが言った通り、姫さんを狙って襲いに来るだろうって予想も当たっちゃったし、明日には出発しますよ」


「坊や、ついていけるのかい?」


「無理矢理にでも付いていくって、もう言ってあるんで」


 立ち上がり、自宅へと足を向ける。

 彼女に言い訳するわけではないが、どうにか信用してほしい。


 少しだけ、ただその旅の無事を守らせてくれるだけで良いから。




【魔装神将『伐折羅』】

 ルヴィの持つ12の能力の一つ。武器は刀。狼の如き意匠が施された赤と黒の具足の姿へと変化する。能力は全ての防御能力の無効化および概念切断。刀が触れたものは何であろうと全て斬る。武器には任意で斬撃を飛ばす力が宿っている。攻撃極振り性能。


【魔装審判『ズメイ』】

 リウェトの能力。武器は直剣。龍と蛇の意匠が施された鎧の姿へと変化し、背後に光輪が現れる。能力は毒を持った炎の操作。生み出した炎を自律させて敵を攻撃させることも出来る。


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