表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/75

EP171.良い寝心地

「うぅむ……」


 気がついた時には、俺こと江波戸蓮えばとれんはなにやら心地よいまどろみの中に意識を彷徨わせていて、思わず唸る。

 体全体に涼しげな風が撫でてくるし、枕は柔らかいしで寝心地は最高だ。


 もうあまりにも心地よくて、もっともっと、と寝惚けた頭に欲望が蓄積されていく。

 理性というのは今の俺には存在せず、その欲望のままにぐりぐり、と何かに縋る。


「ん……」

「……ん?」


 すると、なにやら可愛らしい声が結構近い距離から鼓膜を叩いてきた。

 擽ったさかなにかに耐えるような唸り声で、その声色は聞き覚えがあるような。


 こんな寝心地の良い環境の中、名残惜しくはあったが、俺はゆっくりと瞼を開く。

 すると視界に電球の光が微かに差し込んできて、眩しく感じた時にはなれることが出来た。


 ……なんか、天井がやけに近いんだが。

 いやでも、視界半分から光が射し込んでくるし、さすがにこれは天井ではないか。


 ……というか、俺って何してたんだっけ。

 いつもの事なのだが、時々起きた瞬間に寝る前のことを忘れるのどうにかならんかね。


 えーっと、たしか姉貴が来るから正悟しょうごさんに車で駅まで送ってもらって。

 それから姉貴と合流して、かおり芙陽ふようらに顔合わせしてもらって、それで……


 ……思い出した。

 全てのことを思い出して、俺は顔がとんでもなく熱くなってくるのを自覚する。


 そういえば俺って、つい先程?にファーストキスしたんだった……

 で、理性が溶けて、小夜に逃げられて、その後……あれ、その後の記憶が無い。


 ──いや今起きたんだから寝たんだろ。

 自分のボケさにツッコミつつ、俺は自分の失態にこめかみを押さえる。


「……蓮くん、起きました?」

「……小夜さよ?」


 すると、天井?らしきものからひょこり、白河小夜しらかわさよの顔が少しだけ見えた。

 突然でてきたから多少驚きつつ、俺は昨日のことで気まずさを感じて苦笑いを浮かべる。


「お、おはよう……」

「おはようございます……あの、えっと、寝心地はいかがでしたか?」


 ぎこちなく挨拶を交わしたと思えば、小夜が突然よく分からないことを尋ねてきた。

 確かに今現在まで寝ていたが、もしかしてこの寝床は小夜が提供してくれたのか?


「とてもいい」


 とりあえず、尋ねられたことに対して結論だけを答えてみる。

 すると小夜は、その答えに何故だか安心した風にほっ、と息を吐いた。


「よかったです。もう少し寝ていますか?」


 今度は慈愛の眼差しを向けられながら、小夜はそう尋ねてくる。

 顔全体見えないから、今小夜の状況がよく分からないんだが、どういうことだ……?


 とりあえず、確かに寝心地はとても良かったものの俺は「いや」と置いた。


「起きるよ」

「そうですか……」


 俺の答えに何故だか残念そうな小夜。

 どういうことか、と俺が首を傾げながら、目の前の天井を避けるようにして起き上がる。


 振り返って、小夜の顔を確認するついでに寝床が……なに、か、を……!?


「小夜……!?」


 視界に入れた背景で自分の寝ていたところを完全に察し、俺は顔を熱くして小夜を見る。

 小夜はというと、ほんのりと顔を赤く染めてはいるものの何事かと首を傾げていた。


「え、ちょっと待ってくれ。俺ってもしかしてそこに寝ていたのか……?」


 恐らく俺が寝ていたところであろう場所を指さして、俺は目を丸くしながらそう尋ねる。

 俺が指さした先……それは、白いロングワンピースに包まれた小夜の腿だった。


 周りに置かれた物品、今俺が寝ていたところの高さを考えると、そこしか考えられない。

 そう思って尋ねる小夜は、「えっ」と呆気に取られた様子で反応した。


「今、気づいたんですか?」


 ……俺が小夜の腿で寝ていたのをほぼ肯定されてしまった。

 というか、本当になんで俺は起き上がるまで気づかなかったんだ!?


 芙陽らのを見て少し砂糖を吐きそうになった行為を、まさか自分がするなんて。

 膝枕……今思い出してみると、絶妙な肉付きの問題か、小夜のものはとても柔らかかった。


「………」


 しかし小夜はというと、遅れたのを完全に分かったらしく半目で見てくる。

 先程の顔を見る限り小夜も恥ずかしかったらしかったし、俺が気づかないことに気に食わないだろうか。


「すまん。でも本当に、よかった……」


 再び機嫌を損ねさせたくなかった俺は、恥ずかしい思いをしながらも頭を下げる。

 してくれた本人に対して、『よかった』というのは想像よりも恥ずかしいな……


「……また今度、してあげます」


 すると小夜は、静かな声でそう呟いてぷいっ、とそっぽを向いてしまう。

 ただ、機嫌を悪くしたのではないのは分かって、俺は恥ずかしさやら嬉しさやらで頬をかいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ