EP145.説得
「薫ちゃん。蓮くんのこと、見えているのですか……?」
俺こと江波戸蓮と繋がれた手を通して隣に立つ白河小夜が、そう驚きの声を上げた。
そんな俺らの前に立つは、薫と呼ばれた色素の薄い茶髪をショートボブにした少女。
薫はそんな小夜の言葉に、ぴくっ、と体を反応させ俺を指をさした。
「それ、名前呼び……?それに、その手……あなた、小夜ちゃんのなんなの……?」
薫は小夜の言葉を無視し、更に溢れだしている殺気を強めてそう問うてくる。
体質的に向けられたことがほとんど殺気を向けられたことの無い俺は、そのとてつもない迫力に頬を引き攣らせた。
ただ、見た目的に薫は純玲の姉……つまり小夜の親戚だというのは察せる。
だから俺は、その質問にどう答えようかと繋がれていない方の手をキャリーバッグから離して顎に添えた。
なぜ俺のことが見えているのかは、その後に考えればいいだろう。
あの殺気……EP114みたいにノリと勢いで言っても処されてしまう気がする。
いや日本人の少女が処すってのもありえない話だけどな、うん。
……普通にここは、下に立ってみるか。
「……初めまして。小夜とお付き合──」
「まさか付き合ってるなんてとんだ烏滸がましくてふざけた事、言わないわよね……?」
いや最後まで言わせてくれよ!?
てかお前!絶対それ続きを聞きたくなくて言葉被せてきたやつだろ!?
……はあ。
薫の言う『烏滸がましくてふざけた事』をしてるため、どうしたもんか、と俺は繋いでない方の手で頭を搔く。
小夜が可愛くて綺麗で優しくて、それで能力が高いのだから気持ちは分かるがなあ……
そう思っていると、隣の小夜が口を開いた。
「ええ、そうですよ。私と蓮くんは、一ヶ月ほど前から付き合っています」
何故か眉を顰めて、事実を口にした。
そんな小夜から発した言葉に……薫は、絶望した表情で指してる指を震えさせる。
……いや、オーバーリアクションすぎんか?
「な、なんで……?どうしで小夜ちゃんともあろう子がそのどこの馬も分からぬ穢らわしい男に穢されちゃったの……?」
いや初対面に酷い言いようだな!?
お前小夜のこと信仰しすぎだろ!?
あと小夜を穢してなんかねえよ!?
怒涛の三連発ツッコミを、俺は心の中で叫び、俺は何故かぜえ、ぜえと息を吐く。
すると小夜は、眉をさらに潜め……何故だかその瞳を涙で濡らした。
「なんで、薫ちゃんも学校の方みたく蓮くんの事を貶してくるのですか……」
「ちょ、小夜っ……!」
涙目になった小夜に、俺はどうすればいいのか分からず咄嗟に頭を撫でる。
しかし、「触るな!!」と薫に叫ばれた。
「そこまでお前は小夜ちゃんを穢してくれたのね!!よくも!!」
「いやなんでだよ!?どんだけだよ!?」
その信仰心に、心の底から恐怖した。
まだ素が分かってないから嫌う事は出来ないが……怖すぎる!?
「薫ちゃん、蓮くんは小夜をちゃんと任せられる男の子だよ」
すると、俺らの間に立っていた小夜の父親正悟さんが苦笑してそう諭す。
しかし薫は「でも……」と零す。
「蓮くんは正月の時に言っていた男の子、つまりは小夜の初めての友達の子だ。
それを話す小夜の顔、覚えてないかい?」
そういえばEP85の時に正悟さんがそんな事を言っていた気がする。
「ええ……あの時も、まさか小夜ちゃんが男に穢されて……!?と思っちゃいました」
「いや、なんでだよ!?」
思わずそうツッコむと、睨まれる俺。
何、小夜に男近寄るの嫌いすぎじゃね!?
「はは、その考え方はもうそろそろやめようね。あの時の表情、とても嬉しそうで楽しそうだっただろう?」
「お父さん!?」
涙目だった小夜が、少し前の話に頬を赤らめてそう叫んだ。
……やべ、その時はまだ小夜を嫌っていたが、なんだか胸がジーンとくるな。
「まだ友達時代だった頃でも、彼のいない所でそんな楽しそうに話してくれたんだ。
そんな男の子に、小夜を任せられると思わないのかい?」
諭すようにそういう正悟さん。
いつもはなんだか掴めない人だが、こういう時はとても強いと感じる。
薫はまだ認めたくないらしく、「で、でも……」と俯いている。
「じゃあ薫ちゃん。この約一ヶ月の間で、蓮くんが相応しくないと感じたら処すって感じで……どうだろうか?」
いや薫って本当に処してくんのかよ!?
今日はなんだかツッコミが疲れる……
すると薫は、「それなら……」と、渋々といった感じで頷いてくれた。
「よし。それじゃあ、そういう事で」
「あ、はい」
<パンっ>と手を叩いて終わりを示す正悟さんに、俺は頷いた。
そして正悟さんは、リビング?の方へと姿を消す。
……で、落ち着いてきたのはいいものの。
「……あの、ずっと気になっていたんだが、薫……さん」
「……呼び捨てでいいわよ。私小夜ちゃんと同い歳だし、蓮もそうなんでしょ?」
「え?あ、ああ」
『小夜''ちゃん''』と呼んでたし、もしかしたら歳上か?と思ったが違ったらしい。
「んじゃ、薫」と言うと、薫は「ん」と相槌をうってくれた。
「薫は、俺のことを……小夜と一緒に入った時から普通に見えていたのか?」
「……どういうこと?」
……まあ、当然の反応か。
俺は、自分の影が絶望的に薄くて普通なら見つけられないと言う説明をした。
「へえ、なんだかオカルトチックねえ。言っとくと、私は最初から見えてたわよ?」
「そうか」
俺の事が見えるのは、姉貴と従兄弟と小夜に続いて、これで四人目になるのか……
「一体どんな法則なんでしょう……?」
小夜が口を挟む。
「んー、例えば霊感とかあるけど、私はそんなの全くないのよねえ……血筋?とかかしら」
「えっ、でも私は見えなかったよ……?」
すると、初めて純玲が口を挟んだ。
そう言えばさっきから体を震わせて縮こまっていたが……喧嘩に怯えてたのか。
「ああ純玲、さっきはごめんね……ふむ。それじゃあなんなのかしら……」
「本当にな……」
謎の話題で薫と距離が縮まっている気がするが、まあいいだろう。
そんな事を考えていると、リビング?へと向かっていた正悟さんが顔を出した。
「みんな、ご飯ができたみたいだよ」
「あ、はーい。……まあ、興味あるし今後考えてみましょ」
薫がそう微笑んで、手招きをしてきた。
……本当に距離縮まるの早いな。
またそんなことを考えながら、俺は小夜の手とキャリーバッグを握って「ああ」と答えた。




