EP139.準備
俺だ、江波戸蓮だ。
さっきの通りなわけで、自室に戻った俺はカジュアルな服装に着替えて急いで用意を進めていた。
さっき聞いたばかりなので、かなり急がなければダメだな……
洗濯はしてくれそうな事を加味して4種の服一式、夏休みの課題一式に自主用の教材や筆記用具を、1つずつ床にまとめる。
……誰かの家に泊まりに行くなんて俺としては初めてなため、忙しくも少し楽しみな準備をすすめていた。
……あ、そう考えれば俺この夏休みに学校の花の水やりできねえじゃん。
枯れることは絶対にないだろうけど、今もまだ習慣になっていたため少し悲しい。
「兄さん。チューブタイプのシャンプーとか、歯ブラシやワックスの予備とかってこれであってる?」
「……ん?ああ、合ってるよ。さんきゅ」
元々俺の部屋で泊まる予定で、用意が粗方終わっていた妹の瑠愛が用意の手伝いとして生活必需品を持ってきた。
……ワックスは一応念の為だ。
俺は微笑んでそれを受け取って床に置き、手を伸ばして瑠愛の頭を撫でた。
おさげにしているためゆったりめな感触にセットされた瑠愛の黒髪は、キューティクルバッチリでサラサラとしている。
瑠愛は俺に頭を撫でられて、心地良さそうに目を瞑っている。
白河小夜とまた違った手触りの良さに、俺もまた既に虜になっている。
……尤も、申し訳ないが優先すべきなのは小夜だと思っているんだけどな。
床に置かれた荷物を視界に収め、忘れ物はないかと俺は腕を組んで考える。
……あ、お土産とか……は駅前で後で買えばいいか。
特にないだろうと判断して、俺は荷物をすべて紺色のキャリーバッグへと詰め込む。
そんなに大きくないキャリーバッグだが、荷物はそこそこだし行けるだろ……
「……よし」
無事にキャリーバッグに全部荷物を突っ込むことに成功し、俺は満足気に息を吐く。
すると、<ピコンッ>とマナーモードオフにしていたスマホが太ももで鳴り響く。
なんだ?と思って画面を開いた。
:白夜:
【そういえば、恐らくあの子たちならプールに行きたがるでしょうし水着の用意をお願い致します。】
最近チャットしてなかった小夜からだった……そういえばあいつ、チャットアプリの名前って厨二病じみていたな。
あの子たちってもしかして親戚の子か?……いや、一番に思い浮かんできたのが見えないかもって、どういうことだよ俺。
……で?え?水着?プールは行ったことあるけどもう3年前だし水着ないんだが……
「瑠愛って水着は持ってるか?」
一応一緒にいく瑠愛にそう訊くと、瑠愛は「え?」と首を傾げた。
「水着?」
「ああ、水着だ。もしかしたらプールに行くかも知れないだとよ」
俺がそう告げると、瑠愛は「えっ……」と絶望したような表情になる。
……瑠愛も持ってないやつだな、これは。
:草連:
【俺も瑠愛も水着持ってないんだけど、どうすればいいかね?】
ほぼ諦めたようにそうメッセージを送ると、小夜からの返事は早かった。
……いや、10秒もせずに返信した割には文長いな!?
:白夜:
【それでは、まだ時間がありますし駅前のショッピングモールで買ってみるのはどうでしょうか。
私も、一年前の水着だとそろそろキツくなってきているのでちょうどよかったです。】
……いや、そら小夜って一年前から結構体成長しているからな……
身長だけ言わせてもらうが、パッと見俺と同じくらい伸びてるって結構凄いぞ……?
そんな事を考えながらも、俺はどう返事しようか悩む。
いや、多分瑠愛としても買いに行きたいだろうし行くべきなんだろうけどよ……
小夜の水着も買うって……あ、よく考えたら別々に買えばよくね?
いや、見たくない訳じゃなくて……見たいんだけどさ……絶対死ぬ自信あるわ。
よし!絶対別々に買うぞ!
そう思っていたら、更に小夜からメッセージがやってきた。
:白夜:
【あ、もちろん別々で買わないですよ。同じ店で、同じタイミングで買う予定です】
なんで直接話してないのに心読んできたんだ!?本気のエスパーかよ!?
……はあ、と俺はため息を吐いて了解の旨をメッセージとして送る。
:白夜:
【では、行きましょう。蓮くんの部屋の前で待ってますね】
はええな……まあいいか。
「瑠愛。今から水着、買いに行くぞ」
「え?今から?」
首を傾げる瑠愛に、「ああ」と頷く。
カジュアルな格好なだけで外に行ける服装だった俺は、財布をとって立ち上がった。
「でも、お金あんまり持ってない……」
「いや一応貯金してるしそれくらい奢るよ」
苦笑しながら俺がそう言うと、「でも……」と瑠愛が言い淀んだ。
「決して安くないのは知ってて言ってる」
「なんで知ってるの?」
……いや、ラブコメ読んでたら勝手に知識として貯蔵されてたやつなんだけどな……
だから瑠愛、真顔で無邪気だけどそんな風に訊かないでくれ……なんだか怒られている気がしてならないんだ。
幻のオーラに仰け反りつつも、俺は「ほら」と瑠愛に手を差し出す。
瑠愛は俺が出した手を素直にぎゅっ、と握って、一緒に部屋を出た。




