EP102.魔王の気持ち
俺だ、江波戸蓮だ。
あれから、またもや目を合わすことが出来ずに普通に帰ってきてしまった…
市民の方々や、八つ当たりにはなるけど盛大に恨むぞ、おい。
さて…帰ってきたのは言いものの、別れて数分も経っていないのに白河小夜が愛しくなってきたな…
…悪い、さすがに気持ち悪かったな…久しぶりに自分の頬を思い切り殴る。
殴った頬を擦りながら、俺はスマホの充電をしようとベッドへと向かう。
充電器を刺そうとしたところ、スマホに一つの通知が来ていることに気がついた。
スマホを起動して、通知を確認する。
:ZERO:
【交際おめでとう。熱い告白だったぞ】
そのメッセージ確認した瞬間、俺はその送り主にコールをかけた。
2回コールして、ノイズが走った。
「どうしたんだ──」
「1回ででろよ魔王様」
「今回はえらくスパルタなんだな」
…EP43の時の事か?黒神零が苦笑するのが電話越しに想像できた。
いや、それはどうでも良くてだな。
「おい!聞いてたのかよあれ!?」
夜分遅いのに大声を出してしまった。
いやだって仕方なくね!?【熱い告白だったぞ】ってどういうことだよ!?
「ああ。蓮の勝利か…と思ったな」
「いやそれはどうでもいいんだよ」
いや別にどうでもよくないけどよ。
いやどっちだよ。
…すまん。
「…どこから聞いてたんだ」
「真後ろの窓からだが?」
正門玄関棟からは、花壇が見えるように窓が少しだが設置されている…あそこか…
てかよくよく考えると、あそこ平日だとそこまで告白定番にしては見え見え過ぎないか…?いや、花壇あるしムードはあるのか…
いやそれはどうでも良くてだな。
「なんで聞いてんだよ!?」
「興味津々だし、蓮ならあそこですると思ったからだ」
「なんで聞こえてたんだよ!?」
「告白直前に白河の名前を呼ぶ時、少し強い口調だっただろ?そこからは全部聞こえてたな」
あぁぁぁぁぁぁ…最悪だ…
零はこういう物にはかなりしつこく聞いてくるのは分かっている…報告はしようとしてたが、現場見るとかデリカシーの無さよ…
「まあ、デリカシーが無いのは謝罪しよう。深く聞いておくのも辞めておく」
…なんでこいつにも心読まれてんの?それも表情見られてないのに?
まあ、深く聞かれないのならいいが…
「で、あれから後はどうなったんだ?ハグはしてたみたいだが、それ以降は分からないな」
「聞かないって言ってたよな!?」
数秒で真面目な謝罪に矛盾しないでくれないか!?
「告白時のことは深く聞かないって意味だが?」
「屁理屈やめろよ!?」
告白後もあんま言いたくねえよ!?
「冗談だ」
「はぁぁ…」
全く笑えない冗談だ…
まあ、相当仲良くならないとこういう冗談を言ってこないやつなのは分かっている。
だからそれほど信頼されているのは嬉しいことではあるのだが…
「まあ、とりあえずおめでとう。この気持ちは本心だ。あの蓮が、あんな熱い告白をするまでになるとは…些か驚いたな」
「……」
…若干からかってねえか?こいつ。
「ああいや、からかったつもりはないんだ。僕と初めて会った時の蓮は、人生を諦めたような姿だったからな…」
零と初めて会った時って言うと、EP34…つまり年初めか…そう考えると結構経つなぁ…
で、あの頃の俺は両親のことでまだやる気が失せていた頃だし、それを表した顔の事をを言っているのだろう。
余談だが、今は…小夜のことが好きになったEP55から、このまま小夜との関係を保っていたいという気持ちが起きている。
つまり、今はその状態は解消されているって訳だ。
「それが今学期から…そして今、見違えるようになったから、僕はとても嬉しい」
「…そんな変わったか?」
苦笑しながら訊く。
「変わったさ。昔も良い奴だったが、今はもうキラキラしているよ」
「影は薄いけどな」
「それでもだ。…まあ、口はかなり悪いが」
「うるせえ」
捻くれ者で悪かったな。
…改めて、零と友達…いや、親友になれて良かったと思う。
本当にいい親友を持ったものだ…運がいいよ。
「…まあ、さんきゅ」
「おう。…ただ、勇翔が少し気がかりでな…」
「……」
若林勇翔…EP99の時に小夜に直接フラれていたのを思い出した。
…俺が小夜と会う前からあいつはずっと好きだったはずなのに…罪悪感を感じてきた。
「…おい蓮、罪悪感を抱くなよ。抱いたらそれこそ勇翔に対して失礼にあたる」
さっきから心を読んでくるのはもう突っ込まなくていいよな、うん。
で、確かに…これで罪悪感を感じていると、捉え方によっては嘲笑っているようにもなるな。
「わかったよ」
「あぁ…悪いな、急に勇翔の話をして。それに、蓮に相談することでもなかったな…」
「そうかもな。でも、大丈夫だ」
一応軽く接してきた程度だが、あいつはかなりの完璧少年…つまり良い奴だ。
そいつの事を心配する零の気持ちはわかる。
「ありがとう…おっと、そろそろ時間だし僕は寝させてもらうよ。蓮、おやすみ」
「わかった。おやすみ」
そう言った瞬間ノイズが走り、確認すると零との通話が切れていた。
沈黙の時間やゆっくり話していたこともあってか、通話時間は8分と結構長かった。
さて…俺もそろそろ寝るか…
<ピンポーン>
風呂には行く前に入ったので、歯を磨こうと欠伸をしながら洗面所に向かっていると、インターホンがなった。
…なんだよ、こんな夜遅くに。
悪態を付きながらドアを開けると…さっきまで愛おしくなってた少女の姿が。
「…小夜?」
小夜だった。
小夜は顔をほんのりと赤く染めて、上目遣いにこちらを見る姿はかなり可愛い。
「…すみません蓮さん。夜分遅くに」
「あ、ああ。大丈夫だが…どうした?」
俺が訊くと小夜の頬はさらに赤くなり、モジモジとしだした…えまって、可愛すぎない?
そうじゃなくて…
「あの…蓮さんが居なくなって、寂しくて…眠れそうにないので、蓮さんの部屋で泊めてくださいませんか?」
「…………」
……は?