第2話 魔法の基礎
朝、私は小鳥たちのさえずりで目を覚ました。
「あら唯さん、お目覚めでしたか」
ベッドに横になったまま寝起きの余韻を味わっていた私にシルフィが語りかけてきた。
「おはよう、シルフィ」
「昨日はよく眠れましたか?」
「う~ん…まだ眠いや…」
「もう少しお休みになりますか?」
「ううん、もう起きるよ!」
「そうですか。では朝食にしましょう」
シルフィは楽しそうに部屋を出ていった。
私はベッドから出て服を着替え、食堂に向かった。
テーブルには既に料理が用意されており、良い匂いが立ち込めていた。
今日のメニューはオムレツとサラダだ。
「さあどうぞ召し上がってください。飲み物を用意してきますから待っていて下さいね」
席に着いた私はまずサラダを口に運ぶ。
シャキシャキとした食感が心地いい。
「おいひぃ…♪」
「ありがとうございます」
私が食べる様子を見ながらシルフィも食べ始めた。
美味しいご飯を食べるだけで幸せになる。
これが平和というものなのだろうか。
そんなことを考えながら私は食事を続けた。
「今日から魔法の修行を始めますからしっかり食べて体力をつけてくださいね」
シルフィは微笑みながらそう言った。
その後、私はご飯が美味しくてついおかわりをしてしまった。
食べ終わって満足した気分になって少し休憩した後、私たちは外へと向かった。
外に出ると太陽の光が眩しかった。
気温は高くもなく低くもないちょうどいい感じで風も気持ち良かった。
まさにピクニック日和といったところである。
しばらく歩いて行くうちに開けた場所にたどり着いた。
ここはきっと広場のようなものだろう。
その中心まで歩くとシルフィは振り返って私の顔を見た。
そしてゆっくりと右手を前に差し出すとそこから光の玉が現れて徐々に大きくなり形を変えていった。
やがて光が完全に消えるとその手には一本の杖が握られていた。
長さ1mくらいで先端に赤い大きな宝石がついているシンプルなデザインのものだ。
シルフィはそれを両手に持ちながら話し始めた。
「魔法を教える前に、まず魔法とはどのようなものなのか説明しておきましょう。この世界には大きくわけて3つの種類が存在しています。攻撃系の魔法、回復系の魔法、補助系の魔法です。基本的に魔法を使うには魔力が必要となります。なのでまずは自分の体内にある魔力を感じ取ってもらう必要があります。そうですね。初めてですから杖を使った方が感じやすいかもしれませんね。唯さん、フローラ様からフラワープリンセスの杖、『フラワーロッド』というものをいただきませんでしたか?」
「え?ブローチとブレスレットしか貰ってないけど」
「はぁ…またですか…。全くフローラ様はいつもいつも…」
そう言うとシルフィは呪文を唱えた。すると、どこからか声が聞こえた。
ーー私を呼んだのは…
「フローラ様!全く貴女という女神様は…!」
ーーそ、その声はシルフィ!?
「唯さんにフラワーロッドを渡すのをすっかり忘れていらっしゃるじゃないですか!!」
ーーうぅ~ごめんなさい~
「貴女という女神様は毎回毎回…」
どうやらシルフィはフローラ様にお説教をしているようだ。私はその様子をボーっと眺めていた。
「とにかく唯さんに早くフラワーロッドを渡して下さい!」
ーーはい…。では佐倉唯さん、両手を前に出して下さい。
「こうですか?」
私が言われた通りに両手を出すと急に強い光が発せられた。
「うわっ!」
あまりの眩しさに目を閉じてしまった。
しばらくして光が収まったので目を開けるとそこには私の身長と同じくらいの長さをした、先にピンクの花のようなものがついた白い杖が現れた。
「これは…」
「その杖が、フラワープリンセスとなった者のみが使うことのできる魔法の杖『フラワーロッド』です」
シルフィがそう言いながら近づいてきた。
私は何も言わずにじっとその杖を見つめていた。
これが魔法の杖なんだ。
「では、杖を胸の前で両手で持ってみて下さい」
私は言われるままに杖を持った。
すると、胸の奥に暖かいものがあるような感覚を覚えた。
「何か感じますか?」
シルフィが尋ねてきた。
私は静かに首を縦に振った。
「それが魔力です。今はまだほんの少しだけですが、これから戦いを繰り返して成長すればどんどん増えていきますよ。さて、次は魔法の使い方について教えますね」
「うん」
「まずは簡単な攻撃魔法から始めましょう」
シルフィは右手を前に突き出し、呪文を唱えた。
すると、そこから小さな火の玉が現れてだんだん大きくなっていった。
「これが初歩的な攻撃魔法のファイアーボールです」
シルフィは手を下ろすと、ファイアーボールも消えた。
「これをやってみてください」
「分かった」
私は同じように手を突き出し、呪文を唱えてみた。
しかし、何度やっても同じ結果だった。
「どうしてできないんだろう…」
「焦らずゆっくりとやってみて下さい」
私は再び挑戦した。
今度はさっきよりも集中してやってみた。
すると、手の中に小さな火の玉が浮かび上がった。
「やったあ!」
私は嬉しくなって思わず叫んでしまった。
「おめでとうございます」
シルフィも拍手してくれた。
「それじゃあ次に行きましょう」
それから私たちは毎日、何度も練習した。
攻撃系・回復系の魔法も一通り使えるようになり、補助系の魔法もいくつか覚えた。
しかし、まだまだ魔力が弱い上に上手くコントロールできず、威力が安定しない。
そのため、まだ実戦で使えそうな魔法は少ない。
ある日、私はシルフィと一緒に集落の外へと出掛けた。
目的は食料調達だ。
森に入ると、木の実やキノコなどを見つけたのでそれを採取していった。
ある程度集まったところで、帰ろうとした時、茂みからガサガサと音がした。
私たちが警戒しながら音のした方を見ると、一匹のゴブリンがいた。
緑色の肌をして、腰布を巻いているだけの小人のような姿をしている。
醜悪な顔つきをしており、口元には長い牙がある。
私は咄嗟にフラワーロッドを構え、呪文を唱えた。
「ファイアショット!」
炎弾は真っ直ぐ飛んでいき、命中したが相手は平然としていた。
「効いてない!?」
私が戸惑っていると、ゴブリンは私に向かって飛びかかってきた。
「きゃあああっ!!」
その時、シルフィが叫んだ。
「サンダーボルト!」
シルフィが呪文を唱えると、空から雷が落ち、ゴブリンに命中して感電させた。
「グギャアアッ!!!」
悲鳴を上げながら倒れて動かなくなった。
「大丈夫ですか!?唯さん!!」
シルフィが駆け寄ってきた。
「だ、だいじょうぶ…」
私がそう言うとシルフィは安心したように微笑んでくれた。
「もう…唯さんはまだチカラが不安定なんですから無理したらだめですよ…」
「ごめんなさい…」
「いえ、無事ならいいんですよ」
シルフィが優しい声でそう言ってくれると私も心が落ち着いた。
「でも…やっぱり強いなぁ…」
「唯さんだってすぐに強くなれますよ」
シルフィがそう言ってくれても私はまだ不安だった。
「さあ、早く帰って修行の続きをしましょう」
私たちは急いで集落に戻った。
そして、荷物を家に置いていつもの広場に向かった。
私たちは夕方になるまで特訓を続けた。
「今日はこれくらいにしましょうか」
「うん」
私たちは一緒に集落まで戻った。
夕食の時間になり、テーブルにはたくさんの料理が並べられていた。
「いただきまーす!」
私は勢いよく食べ始めた。
今日のメニューは野菜炒めにパンとスープである。
どれも美味しい。
「唯さんは本当に食べるのが好きですね」
シルフィはクスッと笑いながら言った。
「うん!だってこんなに美味しくて楽しい食事なんて初めてだから!」
「それは良かったです。たくさん召し上がってくださいね」
「ありがとう!」
私はお礼を言いながら食べ続けた。
「シルフィは普段、何をして過ごしてるの?」
「普段は家事をしたり、畑仕事を手伝ったりしています。後はフローラ様が地上に降りてきた時のお世話ですね」
「フローラ様ってどんな感じの女神様なの?」
「う~ん…。一言で言うと、かなりお転婆なお方ですね。性格は非常に穏やかなのですが、天真爛漫なところがあり、暇だからと女神のお仕事をほっぽり出して地上に降りてきてお花を愛でていらっしゃることがよくあります。その度にお説教をしていたからですかね…フローラ様はすっかり私に怯えるようになってしまいましたわ」
「そ、そうなんだ…」
「そもそもですけど、エレメントプリンセスに魔法を教えるのだって本来は女神様のお仕事なんですよ?それなのに眷属に丸投げなんて…。クラリス様がいらっしゃったらどれだけお怒りになることか…」
「ふ~ん…」
「とにかく!フローラ様にはもっとしっかりして欲しいものですわ」
シルフィはプリプリと怒っていた。
それはまるで小学校で女子が掃除をサボっている男子に文句を言うかのような言い方であった。
私は苦笑するしかなかった。
その後、シルフィの愚痴を聞きながら食事を済ませた。
シルフィと別れて自分の部屋に戻り、ベッドの上で仰向けになって天井を見つめた。
この世界に来てもうすぐ1ヶ月になるけど、色々あったなぁ…。
最初はどうなるかと思ったけど、なんとか生活できてるし、友達もできた。
明日はシルフィと一緒に街まで行く予定になっている。楽しみだ。
そんなことを考えているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。
朝になった。カーテンの隙間からは眩い朝日が差し込んでいる。
私は目を覚ますと、すぐに着替えて食堂に行った。
「おはようございます。唯さん」
シルフィは先に起きていたようだ。
「おはよー」
「朝食の準備ができていますよ」
「うん!」
私は席に着くと、早速、ご飯を食べ始めた。
「いただきまーす!」
「はい、召し上がれ」
シルフィはニッコリと笑って答えてくれた。
「ところで、今日はどうして街に?」
「食材を買いに行こうと思いまして。森で採れる物だけだと魔力は育ちませんし、それに最近、食糧不足気味でして…」
「えっ!そうだったんだ…」
「はい。なので、今日は買い出しに行くことにしました」
そう言いながらシルフィは少し困った顔をした。
食料が不足しているのは知らなかった。
そういえば最近、シルフィが作る物の量が少なくなっていたような気がする。
もしかしたら私が気づかなかっただけでずっと前からそうだったのかも。
私は申し訳ない気持ちになりながら尋ねた。
もし、足りていなかったとしたら私のせいかもしれないからだ。
私はそのことを正直に伝えた。
すると、 シルフィはすぐに首を横に振った。
「実はここ数週間、街の方から何人もの人間が森を訪れ、大量の食料を持って行ってしまったのです。中には採取していた食料を人間たちに奪われたというエルフもいました」
シルフィは悲しそうな表情で話した。
その話を聞いていた私はあることを思い出した。
それは数日前、森の入口付近で数人の男達が荷車を引いている光景を見たことだ。
もしかして、あの人達がそうなのかな…?
私はそう思った。
「このままでは食料を採ることができなくなり、私たちエルフは飢え死にしてしまいます…」
シルフィはとても辛そうだった。
その時、外から爆音が聞こえた。
「何事でしょうか!?」
私たちが外の様子を確認しようとした時、一人のエルフが飛び込んできた。
「大変だ!人間たちが攻め込んできた!」
「何ですって!?」
私とシルフィは急いで外に出ると、そこには武装した大勢の男たちがいた。
彼らは手に持った武器を振り回しながら集落内を走り回り、食料を強奪していた。
「やむを得ません」
シルフィは杖を構えて呪文を唱えた。
「ウインドカッター!」
風の刃が飛んでいき、何人かの男の胴体を切りつけた。
「ぐあっ!」
「くそぉ!なんだこいつ!?」
「構わん!殺せ!」
リーダーらしき男が叫ぶと、周りの仲間が一斉に襲いかかってきた。
「助けないと…!」
私はフラワーブローチを天に掲げた。
「花の女神のチカラを秘めしブローチよ、契約に従い我にチカラを貸せ。プリンセスエンゲージ!」
その瞬間、私の体が浮いて強い光が包み込んだ。
「うわっ!!」
男たちが一気にたじろいだ。
「唯さん…!」
「あの姿はまさか…!」
やがて、私の体を包む光が弾け、私は変身を終えた。
「あれが、フラワープリンセス…」
私が着地した瞬間、辺りに花が咲き誇った。
「シルフィ、私も戦うよ!」
私はフラワーロッドを構えた。
「は、はいっ!」
ーーお待ちなさい。
「その声は…!?」
次の瞬間、天から見覚えのある女性が降りてきた。
「フローラ様!」
シルフィが叫んだ。
「唯、エレメントプリンセスのチカラを争いのために使ってはなりません。そしてシルフィ、あなたの魔力であの者たちに魔法を打ち込めば確かに倒すことはできるでしょう。しかし、そのようなことをすれば、彼らは確実にこの集落を滅ぼしに来ます。そうなればあなたは確実に殺されてしまうでしょう」
「そ、それは…」
シルフィは言葉に詰まった。
「そしてエルフを襲う人間たちよ、あなたたちの街のことは私もよく知っています。ですが、どんな理由があろうとも私の眷属に手を出して良い理由にはなりません。もしあなたたちが彼女たちに手を出すのであれば、私はあなたたちに天罰を下さなければならなくなります」
「なっ…!」
「それに今、彼女たちに手を出せば、そこのエレメントプリンセスも育たず、あなたたちも滅ぶこととなりますよ」
男たちは武器を強く握りしめていた。
そして次の瞬間、リーダーと思わしき男が叫んだ。
「我らが女神フローラ様を騙る不届き者め!構わん!エルフ共々皆殺しにしてしまえ!!」
その叫びと同時に他の仲間たちが襲い掛かってきた。
「やむを得ません」
そう言うとフローラ様は、持っていた杖を軽く振った。
その瞬間、強い風が吹き荒れ、男たちを柵へ叩きつけた。
「グアッ!」
「ガハッ!」
男達はそのまま倒れ込んでしまった。おそらく気絶しているのだろう。
「す、凄い…」
「これ以上苦しみを負いたくなくば、今すぐこの場から立ち去りなさい!」
「くっ…」
男は悔しそうな顔をしながら倒れた仲間の元へ向かうと、引きずるようにして去っていった。
「フローラ様、ありがとうございました」
シルフィは深々と頭を下げた。
「いえ、眷属を守るのも女神のお仕事ですから」
「ところでフローラ様、少々お話があるのですがよろしいでしょうか?」
「え?し、シルフィ?」
「そもそもエレメントプリンセスに魔法を教えるのも女神様のお仕事ですよね?」
シルフィがそう言って詰め寄ると、お説教されると察したのかフローラ様は後ずさりし始めた。
「今日という今日は逃しませんよ。そこに正座して下さい」
「ひぃ…」
フローラ様は怯えながら地面に座り込むと、シルフィはフローラ様の前に仁王立ちになった。
そして、シルフィによる長いお説教がはじまった。
フローラ様は叱られている最中、終始涙目になっていた。
その姿はまるで小学生が先生に怒られて泣きそうになっているようだった。
しばらくして、ようやくお説教が終わった。
フローラ様はすっかりしょげていた。
「シルフィ、フローラ様に厳しくない?」
「いいえ、むしろフローラ様にはあれくらい言った方が良いのです。もしクラリス様がいらっしゃったらあんなものでは済みませんよ」
「そういえばこの前も言ってたけど、クラリス様っていうのは誰なの?」
「クラリス様はこの世界と、フローラ様を始めとした五大元素の女神様を生み出した、いわばフローラ様のお母様にあたる女神様です」
「つまりこの世界で一番偉い女神様ってこと?」
「そういうことになりますね」
「今はどこにいるの?」
「クラリス様は深い眠りに就かれています。目覚めさせるにはフローラ様を始めとした全ての五大元素の女神様のチカラが必要となります。ですが今、フローラ様以外の女神様はそれぞれの大陸の女神の神殿で深い眠りに就いています」
「そうだったんだ…」
「女神様を目覚めさせることができるのは女神様か、女神様のチカラを持つエレメントプリンセスだけです」
「そういえばシルフィ、ウィンドプリンセスとファイヤープリンセスは大丈夫ですか?」
「その件についてはフローラ様に緊急の書簡をお送りしたはずですが…」
「え?あ、あれ、その件だったのですね」
フローラ様は思いっきり視線を逸らした。
「まさか…お読みになられてないなんてことはありませんよね?」
シルフィはフローラ様に詰め寄った。
すると、逃げられないと察したのか、フローラ様は読んでいないことを白状した。
「はぁ…貴女という女神様は…」
シルフィは大きな溜息を吐いた。
「結論から言えば、ウィンドプリンセスは既にチカラを使い果たしてしまいました。ファイヤープリンセスにつきましても既にほとんどのチカラを使い果たしており、チカラを失うのも時間の問題だと思われます」
「となると先にフレイアを目覚めさせた方が良いでしょう。しかし、フレイアの眠る炎の大陸、プロミネンス島には炎属性の魔物が大量に生息しています。花のチカラでは到底太刀打ちできません」
「そう…なんですね…。それじゃあどうすれば…」
「では、アクア様を目覚めさせるのはいかがでしょうか?」
長老が割って入ってきた。
「アクア様?」
「私の妹の女神の一人で、水のチカラを操る女神です。確かにアクアのチカラがあればフレイアのもとに辿り着くこともできるでしょう。ですが…」
フローラ様の表情が曇り出した。
「アクアの加護を受けたエレメントプリンセス、アクアプリンセスはまだいないのです。アクアを目覚めさせたとしても、エレメントプリンセスがいなければ、炎の魔物たちに対抗することは敵わないでしょう」
「エレメントプリンセスがいないなら眷属のチカラを借りれば…!」
フローラ様は首を横に振った。
「アクアの眷属はイルカです。地上に上がって戦うことはできません」
「そんな…」
「ですが、アクアを目覚めさせるのは悪い考えではありません。アクアを目覚めさせれば、アクアプリンセスを誕生させることができるようになります。ただ、そのためには唯さん」
「は、はい!」
「アクアの眠る大陸、バブルアイランドに行くためにはあなたの魔法が安定している必要があります。そしてシルフィ」
「はい」
「唯がいない間、あなた方エルフがこのエアリアルを何としてでも守り抜く必要があります。この大陸が魔王軍に制圧され、女神の神殿が襲われてしまえば私も深い眠りに就かされ、唯のチカラも少しずつ失われていきます。そのような事態になれば、この世界が滅ぶのも時間の問題となるでしょう」
フローラ様は厳しい口調で言った。
私たちは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「唯、今から私が貴女に魔法をお教えします。ですが、私が教えるのは呪文だけ。その後の修行は…」
「ですから呪文を教えるのも修行をするも女神様のお仕事ですよね?」
シルフィはフローラ様を睨みつけた。
フローラ様はシルフィに迫られ、とうとう観念したようだ。
フローラ様が杖を振ると、私とシルフィは天界へと連れて来られた。
「フローラ様、どうして私まで…」
「シルフィ、貴女にも唯に教える魔法を教えます」
「え?」
「唯がいない間、エアリアルを守れるのはあなたたちエルフのみ。その中でも貴女は魔法の使い手として最も優れた能力を持っています。だからこそ、私は貴女を選んだのです」
シルフィは少し考え込み、「分かりました」と答えた。
「ファイヤープリンセスのチカラはあまり残されていません。急ぎましょう」
こうして、私たちはこれまで以上に厳しい修行に励むこととなった。