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悪役令嬢は踊らせ、られる。

義兄は踊らせる。

作者: 里予田 華子

前作「悪役令嬢は踊らせ、られる。」にでてきた「彼」ことレオンハルト・デントアールのお話です。

 父上は、何を考えているんだ?あんな見た目だけのバカ王子と可愛いトリアを婚約させるなんて。

もとからお人好し過ぎて、父親といえど好きになれなかった。あれでよく公爵家の当主など務まるものだと思っていたが、今回の件で完全に失望した。


 トリアというのは、ヴィクトリアといって二年ほど前に父が養子にした子、つまり僕の義理の妹だ。僕に、トリアという天使と与えてくれたことだけは、評価する。トリアにそんな事を言ったら、怒ってしまったので言わないようにしている。他人の自分への評価などどうでもいいが、トリアだけには嫌われたくないからね。

 そんな僕の天使であるトリアは、目の前で頬をぷくっと膨らましながら紅茶を飲んでいる。

「お義父様は何を考えていらっしゃるのでしょうか?あんな花畑野郎とは、結婚なんてしたくありません。あら、失礼。口が悪くなってしまいましたわ。」

「わざわざ似合わない令嬢言葉はしなくていいよ。」

トリアは母親が平民だったのもあり、普通の令嬢が使うような丁寧な口調が苦手だ。いつも敬語で話しているがたまに今のような令嬢言葉を使いたがる。

「いくらお義兄様でもそれはないでしょう。」

そう言ってトリアは怒るが、今日はそれほど続かない。すぐに王子のはなしに戻ってしまう。そんなに嫌いになったんだな、なんて他人事のように思う。


 あとから後悔してももう、手遅れだろう。トリアは基本的に誰にでも仲良くなれるが一度敵対すると、そのものに対して冷酷になる。両親が亡くなり、親戚の間をたらい回しにされたことがトリアの心の傷となり、冷酷さを生み出している。僕は冷酷なトリアも大好きだけどね。

そんな思考にはいっていると、結婚するぐらいなら死ぬと言い出して焦った。王子のために死ぬのは流石に嫌なようで父に破棄してもらおうとしていた。

こちらから王家との婚約は破棄できないと伝えると今にも死にそうな顔をしていた。

僕としても、王子との婚約は許せないので案を出すことにした。

「こちらからできないのなら向こうに破棄させたらいいだろう。」

「すごいです!お義兄様。とっってもいい考えです。じゃあ、わたくしが今、巷で有名な悪役令嬢になればいいですね。悪役令嬢は、とても性格が悪いので、わたくしがそうなればあの花頭テオドール殿下はすぐに破棄すると思います。そうとなったら早速、悪役令嬢の出てくる本を買ってこないといけないです。」

部屋から飛び出してすぐにでも買いにいこうとするトリアをとめることになった。

トリアは、まさに才色兼備なのだが馬鹿だ。そう、勉強もマナーも完璧なのに周りとずれている。

僕はこのあと、トリアに性格が悪いというのが理由で破棄されると将来過ごしにくくなる、ということをこんこんと説明することになる。





「まさかこんなことになるとは……」

予想外だ。あんなに悪役令嬢にこだわるとは思わなかった。トリアはどうしても婚約破棄=悪役令嬢というイメージが離れないようだったので、計画きゃくほんは悪役令嬢をもとにすることにした。

幸いまだこの計画きゃくほんは不足していることが沢山あるため、その穴を埋めていくうちにトリアの思考を悪役令嬢から離していく。

まだまだ、トリアのことを理解しきれない。まあ、逆もしかりでトリアも本当の僕のことを理解してない。優しい義兄なんてどこにもいないということを。トリアに向けている感情は酷く曲がっている。愛憎が深く入り混じったそんな感情。

トリアが僕ではない相手に話しかけ、微笑みかけるたびその相手を恐怖でいっぱいにして、絶望させて、グッチャグチャに誰かもわからないようにして殺したい、その死体をトリアに見せて顔を絶望で染まらせたい。いまのところ()()殺してない。一番は何より、トリアに嫌われたくない。きっと嫌われたらトリアを殺して、僕も死ぬと思う。

あの王子と父はいま、殺したい。王子はトリアを悪く言ったから、父は僕じゃないそんな王子と婚約させたから。でも殺せない。トリアの計画きゃくほんがあるから。その時が来たらすぐに殺してやる。




*************************************




「言ってくださればっ、わたくしは、あなたのために、いくらでも、踊って、差し上げましたのに、では、お元気で、さようなら、ですわ。」

そう言い残したあと、トリアの首がとんだ。自分が酷く動揺しているのがわかる。もう、動くことのないトリアにきく。きかずにはいられなかった。

「本当に、言えば、君は僕と踊ってくれたのかな?こんな狂気じみた僕と一緒に、隣にいてくれたのかな?」

眼から、トリアが海みたいと言ってくれた瞳から水が流れ落ちる。これが涙か。止めようとしても止まらず溢れ出てくる。

トリアの遺体を優しく抱いて処刑場から足を動かす。

「おい!どこに持っていくんだ!」

後ろで王太子が何かを言っているが今の僕には雑音にしか聞こえない。やっと、気づいた。僕は間違っていた。最後にトリアが気づかせてくれた。


 僕はトリアを裏切っていた。協力するふりをしながら、トリアが処刑になるように動いていた。これは、自分のエゴだ。婚約破棄がトリアのせいではないと分かれば、きっとトリアに求婚するものが出てくる、自分ではない他の男がトリアのそばに立つのが嫌だった。だれかのものになるくらいならその前に殺そうと思った。


計画を立てだした頃は殺そうとは思っていなかった。殺そうとおもったのは、僕が公爵になってからしばらくしたときだった。18歳になり、成人した僕は無能な父から当主の座を奪った。父が当主のままだと計画に影響が出そうだと感じたからだ。王家から頼み込まれて、トリアを婚約させたように。だから、父を言いくるめて隠居させた。トリアには真実を伝えず、隠居したことだけを伝えた。これで完璧だと安心していた。でも、ある日知ってしまった。公爵家当主になってから一年経っていない僕は、女性に求婚することができなかったのだ。


昔、妻にうつつを抜かして公爵になったばかりの男が仕事を放棄したらしい。男は仕事を教えるものがいなくなって初めて、事態の大変さを知ったがもう色々と手遅れだったらしい。公爵が仕事を放棄したため国は打撃を受けたらしい。そのため、公爵家の当主になって一年以内は結婚、求婚をすることを禁止にし、妻を迎えてから一年以内は当主になることも禁止にしたらしい。


トリアに求婚できないという事実を知ったから殺すしかないと思った。今思えばこのときの僕は普通じゃなかった。僕が当主なのだから、僕が許可を出さない限りトリアは結婚などできなかったのだ。焦る必要など、裏切る必要などなかったのに。殺してしまった。

「トリア、僕はこんな奴だよ。王子のことを馬鹿にしてたのに、一番の馬鹿は僕だったよ。」

トリアの遺体を屋敷のベッドに横たえる。

「今から、君のもとに行くよ。きみは赦さなくていい、怒って、軽蔑してくれていい。」

オイルを床に撒き火を付ける。

「次があるなら、君のことは殺さない、絶対に守ってみせる。君の幸せのためなら、死んでも構わない。」

煙のせいで息苦しくなった。

「ヴィクトリア、僕と踊ってくれるかな?」

空中に向かってそう言い僕は自らの首に短剣を突き刺した。





その日、デントアール公爵家の屋敷から火の手があがった。使用人には全員暇が出されており無事だった。公爵は、見つからなかった。






この話は、復讐やざまぁではなく、後悔を書きたかったため、花畑王子や浮気相手が消えることはありません。こんな生き方はするなよ、的な感じで書いたので、なんか思ってたのと違うと思われた方、申し訳ございません。機会があったら、花頭王子のざまぁを書くかもしれません。

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