剣とバランス
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魔王、それは言わずと知れた魔の王。
魔物という強大な怪物を従え、人を害することを喜とする厄災。
長年魔物による甚大な被害を出していた人類にとって、魔王討伐は、悲願であった。
人類は何度も魔王攻略を試みたが、死体の山を作るばかりであった。
悲嘆にくれ、諦めムードが人類を支配していく中、一筋の光が現れる。
「必ず、皆の仇をとって帰る! どうか俺に力をくれ!」
男の名はユズル。
歴代の冒険者たちを圧倒する鬼才が、小さな村で誕生したのだ。
村が長年苦しめられてきた魔物を粉砕し、周囲の村村を魔物の恐怖から解放して回った。
人は彼を、勇気ある者、勇者と呼んだ。
急激な成長と、驚異的な生命力を武器に脅威を払い除け、誰もたどり着くことの出来なかった魔王の城へとたどり着く。
迷子になりながらも何とか魔王の元へ辿り着いた勇者。
「魔王!! 人類の誇りにかけ、貴様を討伐する!!」
「よくぞここまで来たな、その勇気を称え、貴様に褒美をくれてやろう」
魔王は勇者を懐柔するつもりだ。予習復習バッチリの勇者は、魔王の傾向をバッチリ把握していた。
何がなんでもその手には乗るまい、みんなの思いが託されているんだ、と、頭の中でみっちりと対策をしてきた勇者。
「……押し黙ってどうした?」
勇者は赤面した。
出るとこは出る、引っ込むところは引っ込む、の完璧なボディ。それを覆うのは、服としてはあまりに心もとない、申し訳程度に局部を隠す衣装のみ。スラリと伸びた脚は無防備に晒されている。
魔王の格好は、田舎からでてきた少年には、少々過激であった。
その結果、勇者は頭が真っ白になる。今まで積み重ねてきたものが、勇者の頭から消えてしまう。
「パンツを! パンツを見せて欲しい!!」
「……は?」
「魔王のパンツだ!!」
勇者は男であった。
そして、その男は1点の陰りもなく、まさしく勇気ある者、勇者であった。
「(……何を言っておるんじゃこいつは?)お前、何しにここに来た?」
「パンツを見せてもらいにだ!!」
(絶対違うじゃろ……)
「そのために、剣の腕を磨いてきた!!」
(な、なんじゃこいつ、やはりやる気か!)
「ほう? やはりわらわをころすつもりか? その鉄1本で何が出来るというのじゃ? にんぜんふぜいが調子に乗りおって」
「俺がゲームに買ったら、パンツを見せて欲しい!」
(ほんまにこいつはなにをゆうとるんじゃ?)
おもむろに勇者は剣をだす。魔王は一瞬構えたが、それを他所に、勇者はその剣を床に置き出した。
「バランスゲームだ!」
(ほんまにこいつはなにをゆうとるんじゃ?)
言うと、勇者は床に置いた剣に片足をのせ、
「こうして、」
もう片方の足を持ち上げ、
「こうだ!!」
(いやわいの字バランス…)
「お前に誇りは無いのか……?」
「そんなものは無い! あったらパンツを見たいだのと抜かしていない!!」
(なんじゃこいつ、)
「誇りもへったくれもないヤツよのう」
「どうした。次はお前の番だぞ魔王!」
「王であるワレがすると思っているのか?」
「なんだ、逃げるのか? 負けるのが怖いのか」
魔王の頬がピクンと痙攣した。
勇者の挑発は成功したらしい。勇者が剣の上から降りると、魔王は一瞬で剣の上へと移った。
今まで戦ってきた魔物とは明らかに違う異質な動き、勇者は一歩あとずさる。
「ふん」
その間に、魔王は一瞬でYの字バランスを完成させた。
これでわかっただろう、とその体勢を崩そうをした時、勇者が声を上げた。
「待て!! お前がほんとに成功しているのか、判定が必要だろう!」
そういうと、足が上げられている方へと周り、腰を落とした。
「おい……これはなんの時間じゃ」
「お前がなんらかの不正を働いていないか、じっくり観察しているところだ」
「その割には一点しか見つめておらんようじゃが」
「うるさい!」
(は?)
「貴様、ワレを倒すのではなかったのか? 人類の誇りにかけだのなんだの威勢を張っていたじゃろ、今は絶好の機会だと思うが?」
「パンツを見た後に、倒したい!」
(決意から願望に下がっとるがな)
「パンツが見えない……」
「誇りもクソもどこに置いてきてしまったんじゃろうな。もうよい」
次の瞬間、振り下ろされた魔王の脚は闇を纏い、突き出された勇者の頭に強烈にヒット。
轟音と共に床がひび割れ、勇者の体は光となり霧散した。
「何じゃこれは!? まあ、居なくなったようで何よりじゃ」