近所の男の子にヤンデレの兆候があることに、主人公はまだ気づいていない
学校の校門を出て少し歩いた時、後ろから名前を呼ばれた。
「ルカ姉ちゃん!」
「リュウ!」
抱きついてきた細い身体を抱きしめる。
彼は近所に住む男の子だ。私のことを「ルカ姉ちゃん」と呼んで慕ってくれている。
「一緒に帰ろ?」
「ええ」
形の良い頭を撫でて、肩を並べて歩き出す。
学校が終わると、よく彼と一緒にこうして帰ることが多い。
この年頃の男の子は、女子と一緒にいるの恥ずかしいんじゃないのかな?って思うのだけれど、彼はそんなことはないみたいだ。
手を繋いで私の隣を嬉しそうに歩く。
ぶんぶんと手を振る仕草が、子どもっぽくて可愛い。
「嬉しそうね。何かいいことあった?」
「今日も、ルカ姉ちゃんと一緒に帰れてる!」
でもたまに、こんなことを不意打ちで、キラキラした笑顔で言うから軽く赤面してしまう。
まったく、将来女たらしにならないといいのだけれど…。
「…そんなこと誰にでも言ったらダメよ?」
年上として、たしなめてみたけれど、
「こんなことルカ姉ちゃんにしか言わないよ」
頬を膨らませての追撃を受けてしまった。
…本当にこの子は…
顔を背けて、赤くなった顔を隠す。
けど
「怒った?姉ちゃん…」
しょげた声に顔を戻した。
「バカね、そんなんじゃないわよ」
安心させるように微笑んでみせると、リュウは嬉しそうに笑った。
…流石にこんな小さい子の言葉に照れたとは言えない。
「そっか、よかった!」
光り輝くような笑顔を向けられて、もう一度撃沈しそうになる。
…本当に将来凄いことになりそうね。
こっそりため息を吐いたとき、肩を叩かれた。
「よっ、ルカ」
「あ、サイモン」
クラスメイトの男子だった。
リュウが、立ち止まった私にぴったりと身体を寄せてきた。リュウは私が他の人といるとき、よくこういう態度を取る。
人見知りなのだ。
そういうところも可愛い。
「どうしたの?」
「いや、見かけたから声かけただけ」
「そうなんだ」
また歩き出す。今度は三人並んで。
サイモンと他愛もない話をしながら歩く。サイモンは、面白い男の子だ。誰とでも気軽に話すから、クラスでも人気がある。
私も、彼とは今年知り合ったばかりなのに、すっかり仲良くなった。
話に夢中になっていると、きゅっと手を強く握られた。リュウが寂しがっているみたいだった。
きゅっきゅっと握り返してなだめる。
今度は両腕を絡めるようにして抱きつかれた。
…ちょっと歩きにくいなぁ。
リュウを軽く引きずるようにして歩きながら、サイモンと話し続けた。
だってリュウは身内みたいなものだから、クラスメイトより優先するわけにはいかない。おまけに人見知りだから、どうせ会話に混ざりたがらないし。
「あ、俺ここ寄ってくから」
「うん。じゃあまた明日」
食料雑貨のお店の前で、手を振ってサイモンと別れた。彼は色々あって一人暮らしをしているから、食材でも買って帰るのだろう。大変だ。
そこから少し歩いたところで、リュウが突然立ち止まった。
「ルカ姉ちゃん、さっきの…」
「うん。クラスメイトよ?」
俯いた顔を、腰を落として下から覗き込む。
「…知ってる」
プイっとそっぽを向かれてしまった。
放っておかれて拗ねちゃったか。可愛いなあ。
頭を撫でる。
でもリュウ、サイモンのこと知ってたんだ。どこで知り合ったんだろう?
「姉ちゃん楽しそうだった…」
「うん。サイモンは面白いからね」
サラサラの髪が気持ちいいな、なんて思いながら撫で続ける。
「っ…あいつのこと好きなの?」
「んー。嫌いじゃないわよ?」
「っ…!僕より?」
わー。ヤキモチ焼いてる。可愛い。
頬を膨らませてムキになるリュウの柔らかい髪の毛を、くしゃくしゃにしてみた。
「リュウの方が好きよ」
少し不機嫌そうに撫でられていた頭を振って、リュウがジト目で睨んできた。
「本当に?」
「本当に」
膨れた頬をつつく。
可愛いなー。実の弟よりリュウの方がずっと可愛い。
つい、柔らかい頬の感触が楽しくて触り続けていたら、両手で手をつかまれて指先にキスされた。
「っ…!?」
いくら年下とはいえ、そんなことをされたら流石に動揺してしまう。
慌てて手を引いた私にリュウがにっこり笑った。
「ならいいよ。帰ろっか」
「うん…」
また手を握られて歩き出した。
今度はリュウが、私を少しリードするように。