よっちゃんはサンタクロース
雪がしんしんと降り始め、町に白いカーテンがかかりはじめると、クリスマスがやってきます。子供たちはみな、サンタクロースを心待ちにし、胸をときめかせているでしょう。ですが、5さいのよっちゃんは一つだけわからないことがありました。
「どうしてサンタさんはよっちゃんにしかこないのだろう?ママとパパも良い子なのに。」
よっちゃんはとてもやさしい子。自分だけプレゼントをもらうのはずるいのではないのか?と思っていたのです。
はじめてサンタクロースがよっちゃんのおうちにやってきたのは、よっちゃんが四さいの時でした。ママはこういいました。
「サンタクロースはよい子のところにやってくるのよ。」
「ママとパパのところ、サンタさんきた?」
「ママとパパはもう大きいから、サンタさんはこないの。」
「ママとパパ、いいこだよ?」
よっちゃんは不思議に思いました。サンタさんは世界中の良い子みんなにプレゼントをどうしてあげないんだろう?よっちゃんだけ、新しいお友達の熊のくーちゃん、もらっていいのかな?よっちゃんはずっと、ずっと考えていました。だって、よっちゃんのパパとママは、いつもよっちゃんのことを助けてくれます。よっちゃんが泣いていたら抱きしめてくれる、ママとパパが悪い子のわけないでしょう?
「よほっほ!クリスマスだよ。よい子のみんな、風船はいかがかね?」
「あ、サンタさんだ。」
あるとき、よっちゃんは、町の中でサンタさんを見つけました。
「サンタさん、お出かけかな?」
「そうだね、そろそろクリスマスだから、みんなに会いに来たのよ。」
「そうなんだ。」
「よっちゃん、風船もらう?」
「うん。」
「じゃあ、一緒にいこうか。」
よっちゃんは、ママと一緒にサンタさんのところへ行きました。
「やあ、やあ、かわいいお嬢さん。風船はいかがかい?」
サンタさんは、よっちゃんに赤い風船をあげました。
「ありがとう!」
よっちゃんは元気よくサンタさんにお礼を言いました。
「ねえ、ねえ。サンタさん。よっちゃんね、聞きたいことがあるの。」
「なんだい?かわいいお嬢さん。」
「どうして、サンタクロースはみんなにプレゼントをあげないの?子供だけなんてずるい。みんなにあげたほうが、きっとみんなうれしい。」
サンタさんは少し困った風にこう言いました。
「うーむ。こんど、えらいサンタさんに確認してみよう。」
「えらいサンタさん?」
「そうさ。サンタの中には、すべてのサンタクロースを束ねる、スーパサンタがいるんだ。でもね、困ったことに彼は、忙しくてね、なかなか連絡がとれない。でもね、わしは彼の秘密の連絡先を知っているんだ。少しだけここで待っていてくれないか、お嬢さん。」
「うん!」
そういって、サンタクロースは、どこかへいってしまいました。よっちゃんはママと一緒にサンタクロースをまつことにしました。
「またせてごめんね、お嬢さん。少しだけ耳を貸してくれないか?秘密のお話をしよう。」
「ないしょのおはなし?」
「そうさ。」
サンタクロースはよっちゃんに小さな声でこう言いました。
「スーパサンタがね君に頼みたいことがあるらしい。」
「え!」
「最近、サンタクロースは人手不足でね。だからね、みんなにプレゼントをあげたくてもあげることができないんだ。そこで、お嬢さん、君のママとパパのサンタクロースになってくれないか?スーパサンタはね、お嬢さんにサンタクロースの仕事を手伝ってほしいと言っているのさ。」
「よっちゃんは、サンタクロースの真っ赤なお洋服も、ポンポンがついたとんがり帽子も、プレゼントをいれる大きな袋も持っていないの。それでも、サンタクロースはできるの?」
「何も問題はないさ。サンタクロースはやさしい心をもっていれば、誰でもなれる。」
「わかった。」
「じゃあ、お嬢さん、君のママとパパのほしいものを探すんだ。見つけることができたら、クリスマスイブの夜に、ママとパパのところへ置いておくんだ。そっとだ。バレてはいけないよ?」
「うん。よっちゃんがんばる。」
こうして、よっちゃんは、サンタクロースになりました。クリスマスイブはもうすぐそこです。うかうかしているひまはありません。早速、よっちゃんは、準備にとりかかりました。
まず、よっちゃんはママに尋ねました。
「ねえ、ねえ、ママ。ママは何か欲しいものはある?」
「そうね、、、、、、、ママは、かわいいよっちゃんがいてくれれば充分よ。」
次に、よっちゃんはパパに尋ねました。
「ねえ、ねえ。パパは何がほしい?」
「そうだな。俺はなあ、ゆっくり温泉にでもつかりにいきたいなあ。」
よっちゃんのお財布には100円玉がたったの二枚。温泉に行くためにはもっともっとお金が必要なことをよっちゃんは知っていました。
よっちゃんは頭をかかえてしまいました。どうしよう、どうしよう。よっちゃんはサンタクロースになれるのかな?でも、よっちゃんはどうしていいかわかりませんでした。
そしてとうとうクリスマスイブがやってきました。よっちゃんは、元気がありませんでした。ママは、いつもとは様子が違うよっちゃんが心配です。
「よっちゃん、よっちゃん、元気がないね?どうしたの?」
「ママね、それはね秘密なの。よっちゃんはサンタクロースだから。」
ママは不思議そうに首をかしげました。そこで、ママは少しでもよっちゃんを元気づけるため、よっちゃんを買い物に連れ出すことにしました。
「よっちゃん、クリスマスの準備をしよう。」
よっちゃんはママと手をつなぎ町に出ました。ママはクリスマスだからと、よっちゃんの好きなものをたくさん買いました。かぼちゃ、じゃがいも、さつまいも。
「ママ、頑張るぞ!」
それでも、まだよっちゃんの顔はくらいままでした。
「よっちゃん、何か悲しいことでもあった?」
ママはよっちゃんにそう尋ねました。
「うんうん。なんにもないの。」
では、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?
「やあやあ、お嬢さん。そんな暗い顔をしてどうしたんだい?」
よっちゃんが顔を上げると、そこには風船をもったあのサンタクロースが立っていました。
「サンタさん。どうしよう、よっちゃん、サンタさんになれない。」
「おやおや、どうしたんだい。僕に話を聞かせてごらん。」
よっちゃんは、サンタクロースにママとパパの欲しいものを、よっちゃんはあげることができないと話しました。
「そうか、そうか。そういうことか。」
「ママはよっちゃんがいればいいっていうし、パパをよっちゃんは温泉につれていけない。」
「いいかい?プレゼントは形じゃない。心だ。」
「そうなの?」
「そうさ。一番大切なのは形じゃない、心だ。よし、いいものをあげよう。」
サンタクロースはかぶっていた赤い帽子を外し、よっちゃんにかぶせました。ですが、よっちゃんには少しだけ大きすぎたようです。帽子はよっちゃんをすっぽりとかくしてしまいました。
「ありがとう。本当にいいの?」
「僕は大丈夫だ。メリークリスマス、お嬢さん。」
よっちゃんは、大切なことに気がつきました。おうちに帰り、すぐにプレゼントを用意しよう。よっちゃんは、黄色い小さな鞄から、クレヨンをひっぱりだします。
ママには、よっちゃんがかいたよっちゃんの似顔絵。よっちゃんの顔だけだと、少し恥ずかしいので横にパパとママ、そしてあのサンタクロースの顔を描きました。パパにはおんせんけんです。おんせんと画用紙いっぱいに字を書きました。これは、よっちゃんが大人になったらパパともちろんママ、みんなでおんせんにいく券なのです。
夜、よっちゃんはママとパパが歯を磨いているうちに、テーブルの上にプレゼントを置きました。その横には、サンタクロースの帽子もそっと起きました。朝、パパとママはとってもびっくりするだろうな。この胸の中のキラキラした思いはなんでしょう。名前はわからないけど、きっと素敵なものに違いありません。よっちゃんは大切に抱きしめました。
翌朝、よっちゃんの枕元にはプレゼントが置いてありました。今年は、くーちゃんのおうちをサンタクロースにお願いしたのです。よっちゃんは、真っ先にリボンを解こうとしましたが、大切なことを思い出しました。机を見に行こう。よっちゃんは裸足のまま駆け出しました。リビングからは、ママとパパの優しい声が聞こえてきます。メリークリスマス、よっちゃん。
どこからか鈴の音が、いえ、気のせいではありません。だって、サンタクロースは本当にいるんですから。ね?