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エピローグ


ギリシャ神話にある夢の神、モルペウスは薄暗い洞窟の中で、ケシの花に囲まれて眠っているといわれる。


それは崇拝する人々にとっては、確かに「夢の神」だった。


まどろんだ浮遊感と心地よい逃避を与えてくれる神であった。


それは遠い昔の伝説である。








──鳥が鳴く声が聞こえる。


何の鳥だろうか。


頬がじんわりと熱い。

目をゆっくりと明けると、朝日が体を照らしていた。


身体を動かそうとすると、ひどく痛んだ。



「……ここは?」


身体を横たえたまま首を動かして周囲を見渡すと、森が広がっていた。


衣服についた草木の破片が身体をチクチクと刺激する。

その痛みが、徐々に意識を覚醒させていく。


だが、気分は晴れない。



──生きている。


自分は、なぜ生きているのだろうか。


なぜ、生き残ってしまったのだろうか。


命はすでに、自らの意思で捨てたはずだった。


しかし、身体は痛みを訴えてくる。



身体を起こそうとすることに対し、それに首を振るかのように痛みが身体を駆け巡る。



なぜ、自分は身を起こそうとしているのだろうか。


こんなにも、痛いのに。


自分には、もはや何も残されていないはずだった。



やがて立ち上がり、よろめきながらも足を進めてみた。


意識ははっきりとしているのに、思考がまとまらない。


混乱、とは少し違う。

考えることを放棄しているような、結論を導くことを怖れているような、奇妙な感覚。



しかし、無思慮に歩き続けた先に現れたのは、街の家々の姿だった。


いつの間にか森を抜け、山を降り、そして人々が住む世界が眼下に広がっていた。



それは、自分自身にとって、開けた未来そのものだった。


自らが望んで断った未来は、まるで鎖のように再び自らの前に広がって、気がつけばまた自身に絡みついていたのだ。



鎖に引きずられるように、前を見る。




「……ふぅ」


と、大きくため息をついて、ゲッティ―坂田は、彼の未来へと目を向けた。




これから何かをしてみようという気は特に起こらない。


考えても、結論は今は出せない気がしたからだ。








歩く。



歩くたびに、「生」が彼を手招いているのが見える。



それに対して今はため息をつくことしかできない。




だから自身の前に広がる世界に、今はまだ何を描くこともなく、坂田はただ本能によって歩き始めた。






彼が自身を通り過ぎて行った出来事や人々を思い起こすのは、もう少し先になるのだろう。



今は思い出に浸ることはもちろん、

今のことすら考えることができない赤ん坊のような一人の人間が日常へ戻っていくだけだったのだ。




その足取りは重く、緩慢であったが、しかし確実であった。



<了>


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


まさかの坂田ENDですんません。


でも、陽子が生き残れないのは、最初から決まっておりました。


これで『天国への招待状』は終りになります。


この作品は「モバゲー」内でも投稿されておりますが、同一作者による投稿です。


こちらでは初めての投稿作品となります。


あなたの暇つぶしの一助になれたなら幸いです。


それでは。

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