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月に咲く花  作者: 麗月
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知らないこと

ずっと黙って私達が話すのを見ていた、もう一匹の瓜坊が急に大声で話を遮ったので、私達は驚いてその瓜坊を見つめる。すると、その瓜坊は必死そうに訴えかけてきた。


「なんできづかないの!なんでふつうにしゃべってるの!」


言われてはっとする。ほんとだ、普通に喋っちゃってたけど動物が人間の言葉を話すなんて聞いたことない…。その場がしんと静まりかえる。


「えーと…じゃあ、しらゆりは ぼくたちが なにいってるのかわかってるんだよね?」


恐る恐る沈黙を打ち破ったのは、さっき私達に静止をかけた双子の兄のほうの瓜坊だった。


「…うん。でも私、他に人間以外で人間の言葉話してるのなんて見たことないけど」


私も自分の分かることを伝える。すると、弟のほうの瓜坊が何かに気が付いたように


「あ、もしかして…」


と小さく呟いた。


「なに!?どうしたの!?」


と兄のほうの瓜坊が身を乗り出す。


「ちょっとあたま、さわってもいい?さっき ししゃさまが なでたところ!」


弟が兄に言うと、兄は快く、でも不思議そうに弟に頭を差し出す。すると弟はそのてっぺんにそっと触れる。そして、


「やっぱり」


と言うと、兄にも自分の頭を差し出して、その一部を指差す。兄もそっと触り、


「あ、そういうことかぁ」


と納得したように頷くと、弟と目を合わせる。そして、困惑している私に向かって異口同音に言った。


「「これ、ししゃさまの じゅつだよ!」」


…え?

二匹は構わず話し続ける。


「ししゃさまの じゅつって、じゅつをかけられたばしょを かけられたひと いがいが さわるとちょっとひんやりするんだよね」


「そうそう。ぼくらにじゅつをかけたから ししゃさま、きゅうにねちゃったんだ」


そこまで言うとさっきまでみたいにこちらに向き直る。


「よくかんがえたら ふつうぼくらじゃ でんごんはむりだもんね」


その言葉に少し納得する。


「それであなたたたちを喋れるようにしたってこと…?」


術とか言ってるのについては、わからなそうだから考えないことにしよう。それにしても、もしこの伝言無しにぐったり眠っているのだけを見たとして、私はもちろん心配にはなるけど彼が困ることは何も無いはずだ。それならそんな疲れた身体で疲れることしなくても良かっただろうに、どうしてそう他人が優先なの、この人は。そっと心の中で呟く。


「ししゃさまって みんなにやさしいけど、じぶんには ぜんぜんやさしくないよねー」


片方の瓜坊から自然に出た発言のようだった。なんだか心の中を見透かされたようでどきっとする。やっぱりこんな小さい子たちでもそう思うのだからそういう人なのだろう。でも、そういう人はすぐに無茶をする。あんまり無茶、しなきゃ良いのに。すやすやと寝息をたてながら眠る彼の顔を見ながら、そう思った。


それから半刻程、私は瓜坊たちとのお喋りに花を咲かせていた。山での暮らしのこと、村での暮らしのこと、他にも、好きな星座とかの他愛のない話まで、たくさん。


すると、ずっとほとんど動かずにただ寝息をたてていた彼が少し身じろいだ。かと思うとすぐに起き上がると私達に言った。


「お早う御座います。昨晩はあまりよく眠れなかったので少し(やす)ませて頂いておりました。申し訳ございません。でも、お陰様で疲れはすっかり取れました」


そして今度は瓜坊達に目を向ける。


「先程は、許可も頂かずに勝手に術をかけてしまったこと、お詫び致します。でも、仲良くなれたようで安心致しました。許して頂けますでしょうか?」


彼が問うと兄弟は慌ててこたえる。


「そんな、あやまらないで、ししゃさま。おかげでとってもたのしいんだよ」


すると彼は安心したように優しく微笑んで2匹の頭を撫でた。


「それなら良かったです」


それから今度は私の方を向いて言う。


「白百合様、昨日は本当にお世話になりました。まだ傷は痛みますが、お陰様で体調は回復し、万全です。昨晩は棲み処まで送ることができず、結果としてあのような暗い中独り歩きさせてしまったこと、申し訳ありませんでした。親御さん、心配していらっしゃったでしょう。大丈夫でしたか?」


なんだか、起きてすぐなのに自分の言うべきことを判断してすらすらと述べる彼に圧倒されてしまって、反応が少し遅れる。


「え、ええ。全然平気だったわ。それより、昨日私を送っていかなかったなんて、気にしなくて良いのに。あなたはそんなに怪我してるんだから当然でしょ」


答えてから、瓜坊達と目を合わせる。


「この人寝起きだよね?」

「ししゃさま、ついさっきまで ねてたんだよね?」


私達には、全く寝起きに見えない。その会話を見た彼は少しきょとんとする。


「えっと、私、寝起きは良い方なんですよ。起きてすぐぼぉっとしているようでは寝ているときに敵襲が来たりすると困りますからね」


寝起きが良いとかそういう範囲を超えている気がする。それに、敵襲だなんてそんな非日常的なことをさらりと言わないでほしい。


「まあ、それもそうだけど」


もう深く考えることを放棄して無理やり納得してしまう。絶対おかしいのに。今考えると、なんでこういう時にまさかの可能性を考えなかったんだろう、と不思議に思う。この時の私じゃ、知る由もないんだけど。


「そういえば、昨日あなた、足をある程度治すとか言ってたけどどうなったの?」


ふと思い出したので聞いてみる。彼は、半身浴状態から上がって、私に足の傷を見せた。その傷は昨日見たときよりだいぶ良くなっていた。あんなに痛々しかったのにもう軽く塞がっている。血も一応出る様子はない。


「まだ痛みはありますが、普通に歩ける程度には回復させられました。これで用事が済ませられそうです」


そういえば昨日は他のことに気を取られて言及しなかったが、彼は仕事の一環でここに来たと言っていた気がする。


「用事って…?」


こちらに知り合いがいるのだろうか。


「ああ、源山を訪ねるために来たのですよ」


「源山?あそこの動物はみんなとても賢くて、怒らせたりしたらきっとただじゃ返してくれないわ。行くのは危ないと思うけど」


これ以上危ないことはしてほしくない。こんな状態なのに。


「大丈夫ですよ。彼らは決して敵ではありません。快く迎え入れてくださるはずです。それに、放っておけばこの里は枯れてしまいます。雨が降らなすぎて」


本当によく分からない。自分とこの人はきっと生きる世界が違うのだろうと思う。でも、出来る限り力になりたいとも思うのだ。


「雨が降らないのとその山と、何の関係があるのかさっぱりわからないけど、その源山なら私の屋敷の裏にあるわ。案内、しようか?」


すると、彼は少し考えてから、申し訳なさそうに笑う。


「有難うございます。貴方にはお世話になりっぱなしですね」


話が一段落付くのを待ってか、一匹が口を開いた。こっちは弟のほうだったかな。


「ふたりはさ、こいびとなの?」


「こっ…!」


思いもよらなかった言葉に耳を疑う。


「あ、あなた達、急に何言うのよ。言ったでしょ、昨日初めて会ってただの知り合いだって」


恥ずかしくてごそごそする私に対し、彼は平然としている。


「こいびととは…?」


「何でもないから!」


なんだ、知らないんだ。問いには答えずに立ち上がる。全然そんな気持ちがなくても色恋沙汰にされるのは気恥ずかしい。くすくすと笑っているこの子達は悪戯好きのようだ。


「ちょっと、からかわないでよね」


「はぁい」


ふぅ、と一つ息を吐いて彼を振り向く。


「じゃあ、行こっか」


「はい。あ、その前に…」


立ち上がりかけた彼は瓜坊たちの前にしゃがんだ。会話は聞き取れなかった。見ていると何をしているか気になってしまうのでふいと顔を背ける。


「では」


話が終わったのか彼は私の隣に立った。昨日は気付かなかったけど思ったより背が高い。頭一つ分くらい違うかもしれない。


「じゃあね」


瓜坊たちに別れを告げると、私たちはその林をあとにした。

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