嫌じゃない人間
「ねぇ、ひう」
「んー?て、つぐさ そのくさ ちがくない?」
「さいきんみつけたんだけど、このくさいれたら しみるのましなんだ」
「へぇ、そうなんだ。みせて」
使者様が眠っている間、僕らは特にやることもないから辺りにある薬草で薬を作ることにした。実は僕らの作る薬はよく効くって山ではちょっと有名だ。
「ごめん、さっき なんかいおうとしてたよね」
思わず遮ってしまったことに気付いて顔を見る。
「べつに ようじがあったんじゃないんだけどね。ひう はさ、ししゃさまってなまえあると思う?」
突然のことでちょっと考える。確かに知らないけど、海じゃ名前は教えても良いって思った相手にしか教えないのが普通だって聞いたことがある。
「なまえは、あるんじゃないのかな。きゅうにどうしたの」
「ううん、なんとなく きになっただけ。さっき かお みてなまえよんでもらってうれしかったんだよね」
弟はちょっと照れくさそうに笑った。
「ぼくも」
声だけじゃなくても、僕ら双子を見分けられるひとは少ない。
「でもだれかが ししゃさま のことなまえでよんでるの、きいたことないね」
なんて、他愛のない話をしながら薬が出来ていく。しみて起こしてしまわないように、でもよく効くように。
「「うん、じょうでき!!」」
水から出ている部分の傷にだけ塗っていく。わかるところを全部塗り終わっても、使者様は微動だにしなかった。
「誰か、いるの…?」
びくっ。
突然知らない声が聞こえた。その声の主を見て、つい逃げそうになる。
「だいじょうぶ」
弟とくっついて、現れた人間を真っ直ぐに見た。不安そうにしている人間は、髪が肩のちょっと下くらいまであって、目のぱっちりした少女だった。使者様の言ってた人かな。
「ねぇにんげん、ししゃさまのともだち?」
勇気を振り絞って声を出した。
「使者様…?」
でも人間はあまりわかっていないみたい。
「ししゃさま」
今度は弟が使者様を指してもう一度言う。
「あ、この人のことね」
人間はようやく合点のいった様子で少しこっちに近付いて来て僕たちの前にしゃがんだ。
「友達では…ないと思うけど、知り合いかな。ところであなた達は?」
怖くなさそうで安心したのか弟が普通に応える。
「ぼくらは ししゃさま のともだちだよ」
「そう」
人間は寝ている使者様に近付いて、そっと首に触れた。
「ちょっとねるだけだからしんぱいしないでって、でんごん あずかったよ」
危うく忘れるところだった。
「伝言って私に?」
僕らはこくこくと頷く。
「私が来るってわかってたんだ」
すかさず弟が訂正する。
「ちかづいてきたからきづいたんだとおもうよ」
僕らはまだそこまでじゃないけど、強いひとは皆生き物の気配にすぐ気付く。
「嘘、そんなこと分かるの」
人間はそうじゃないのかな。もしかしてあんまり言うと使者様が人間じゃないってばれちゃうかも。それ以上言っちゃだめと、弟を見た。一瞬不思議そうにしたが、すぐに一つ頷いた。その様子を人間は怪訝そうに見ている。
「ぼくらの かんちがい かもしれないけどね」
とりあえず添えておく。
「ねぇ、にんげん」
「その人間って呼び方どうにかならない?人間なんて山ほどいるんだけど。私の名前は白百合よ。良い?」
白百合はちょっと笑って言った。
…あれ?今まで任されたことに必死で気付かなかったけど、僕らは人間とは話せないはずだった。人間の使う言葉は僕らでは話せないから。どうなってるの?弟と白百合は楽しそうに喋っている。絶対言葉、通じてるよね…。
つぐさはまだ気付かない。白百合もおかしいと思わないのかな。それとも白百合が凄い人とか…?困って弟を見たが、弟は目の前の人間に興味津々だ。もうっ、つぐさ気付け!すうっと息を吸った。
「ねえ!」
 




