ご無沙汰しております
「お世話になりました」
「いやいや、お世話になったのはこっちのほうだよ」
源山の皆さんにお辞儀をして山を出た。すっかり短くなってしまった影を連れて見知った道を歩く。初めて来たときはただの溝だった山の麓は美しい川が流れている。ざぶざぶと川を渡り、あの屋敷の見える丘の下に立った。
本当に、もう一度行っても良いのだろうか。ご迷惑ではないだろうか。
絶対また来て!
不安の中で、白百合の声がよみがえった。
「大丈夫」
声に出して真っ直ぐ屋敷を見る。一歩また一歩と進むうちに心臓の音は大きくなって行く気がした。戸を叩こうと扉の前で拳を作り、深呼吸する。
「わかった!ちょっと待ってて」
突然人の気配が戸のほうへ近付いて来た。思わず屋敷の陰に隠れる。白百合だ。丘を降りようとしたようだったが、何を思ったか急に振り返った。
「わぁっ!」
「あっ…」
「早く入って!」
空月の顔を見て嬉しくなった私はすぐ屋敷に戻って戸を開けた。
「お帰りなさい…って空月さん!?」
「お久しぶりです、ご無沙汰しておりました」
驚く雪に空月は笑いかけた。
「杏ー!お昼空月さんの分もー!」
「え、空げっ…!??はーい」
戸惑うような杏の様子に、雪と空月は顔を見合わせて笑った。私はこんなときすぐに話す言葉は思い付かなくて、ただ笑ってこの様子を見ていた。
ちらっと空月のほうに目をやるとばっちり目が合ってしまった。何か言葉を準備していた訳ではなかったので、思わず目を逸らそうとしてまた彼の目に戻した。
彼が私の名を呼んだからだ。
「白百合」
「…何?」
すると彼はさっき雪たちに見せてたのとはちょっと違う、もっと暖かい感じのする笑みを向けてきた。
「遅くなって申し訳ございません。またお会い出来て嬉しいです」
頬がかっと熱くなる。「次会う時」、来ちゃった…。
「私…も」
なんとか言うと空月は嬉しそうに、まるで子どもみたいに笑った。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
シーンの都合で短いです!不安定でごめんなさい!