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月に咲く花  作者: 麗月
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「本当に何もないって」


「そんな、年頃の男女が一緒に寝て何もないなんて言わせませんよ」


ふざけ混じりに言う凛に周りも笑う。


「もう、空月もなんとか言ってよ」


色恋沙汰には疎いのか、彼はきょとんとしている。


「昨晩は、おかげさまで素敵な夜を過ごさせて頂きました」


というかおそらく彼は色恋沙汰だとわかっていない。ますます誤解を生むような言い方を…。他意がないのはわかっているが、どうしても顔が熱くなってしまう。昨日はこうなるとは思わなかったのだ。まさか寝落ちしてしまうなんて。




朝日の眩しさに、ゆっくりと目を開ける。そして数秒後、私の頭は急に覚醒させられた。視線の先にある壁に空月がもたれて眠っていたのだ。どきどきしながら自分のいる布団を確認すると、確かにそれは自分のではなく、客人用の、空月が使っているものだった。私昨日あのまま寝ちゃったんだ…。恥ずかしい気持ちと申し訳ない気持ちが同時に押し寄せる。空月は寝巻きの上に一枚衣を羽織っただけで眠っている。これでは空月が風邪をひいてしまう。慌てて彼に近寄り、自分の着ていた布団をかける。一瞬触れた彼の冷えた手はぎゅっと布団を掴み、自分を包むようにすると目を開けた。


「お目覚めになりましたか。おはようございます」


「おは…よう」


起きて一番にこの人の顔を、それも寝顔を見るなんて不思議な感じで、なんだか恥ずかしい。私の寝起き、大丈夫かな…。そしてはっと思い出す。


「あ、えっと、昨日は…ごめんなさい。部屋に戻らずに勝手に寝てしまって。あなたの布団まで…」


「大丈夫ですよ。それに布団に関しては私が勝手に致しましたことです。本当に気になさらないで下さい」


そう言って優しく微笑む彼に、いっそう申し訳なくなる。すると彼はすっと立ち上がり、手早く布団を畳んだ。


「さぁ、雪さんが呼びにいらっしゃいましたよ」


私のことは呼び捨てだけど、その他で呼び捨てにするかしないかのやり取りをしていないらしい空月は、他の四人からの呼ばれ方に合わせて「さん」付けで呼んでいる。言い終わるや否や足音が聞こえてきた。気付くの早い。それに誰が来るかまで分かるのっておかしくない?


「おはようございます。朝餉の支度ができましたよ」


来たのは本当に雪だった。


「ありがとうございます。ただいま」


雪に言って戸口で軽く振り返った彼に続いて部屋を出る。雪は眉にかからない短い前髪を一瞬揺らしてもともと大きい目を一層大きくした。


「え、白百合…様?」


「あ…」


そこで同じ部屋から出てきたのを目撃されて、今に至る。




「とにかく!そういうんじゃないから」


まだどこか物足りなそうな表情をする彼女らに、状況を理解しているのかいないのか空月が口を開く。


「白百合とはお話させて頂いていただけですよ」


「空月さんが言うなら信じざるを得ませんね」


「ちょっとそれどういうこと」


笑いながら口を挟むも、凛は面白そうに笑う。凛はさばさばとして見えるけどこういう話題は大好物なのだ。



「でも、空月さんならもう決まった人とかいたりするんじゃないですか?顔からして」


意外にも杏から放たれた言葉に少し驚きつつ、その通りだと心の中で頷く。彼は男前というのとは違うが、顔だけ見ればうっかり女性と見紛うような綺麗な顔立ちをしている。最近は傷がましになりつつあるのでそれが際立ってきた。


「何を決めているのでしょうか?」


そして相変わらずわかっていない人。くすっとこっそり笑う。


「結婚とかそういう話ですよ。いないんですか?恋人とか」


「結婚って…交尾をする相手を定めることでしたよね。ですが合う相手とは逢ったことがなくて。…どうにも縁のない話です」


彼は自然な微笑をのせながら何気ない口調で言ったが、私たちは皆彼の結婚に対する認識に戸惑っていた。行為としては間違ってはいない。が、あまりに無機質すぎる気がして。そこに愛情が存在するのか不安になった。この人のいた場所ではみんなそうだったの…?


「ほら、皆全然食べてないじゃないか。喋ってばかりいないで食べなさい」


そこで父上が話を切り上げた。まだ空月に対する反応を考えられていなかったのでちょうど良かったかもしれない。そこで各々父上に返事をすると手を動かし始めた。そういえば空月の親とか家族の話って聞いたことないな…。

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