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月に咲く花  作者: 麗月
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人間

随分長く歩いた。


あれか。


一旦立ち止まって奥を見ると、確かに大木のある林が見える。主から教わった、休憩に良い池のある林だ。そろそろ疲れを感じていたので少し安心する。


「よし」


気合いを入れ直して一歩踏み出したときだった。


ふっと一瞬身体の感覚が途切れた。体勢を崩して膝を付く。


もう水分補給が必要になってしまったのだろうか。


月夜様は説明してくださったとき、林までは余裕だろうと仰っていたのだ。推測されたものよりも遥かに劣る自分の力に唇を噛む。今の自分は期待未満だ。このことは報告しないことにしよう。


しようとしまいと何も変わらないのだが、そっと心に決めると膝に力を込めてゆっくりと立ち上がり、また歩き始めた。どこか足元のおぼつかない感じがするが、林までにこと切れてしまうことはないだろう。林は少しずつ近付いて来る。


幾分か大股にして歩いていると、見覚えのある美しい鶴が視界を掠めた。ぱっと顔を上げる。山の長の右腕のような存在で、長と同様に昔からその山に住む者なので私もよく知っている。鶴は私が目印にしていた大木の中心のほうの枝に止まった。まだ遠く、大声を出さなければ声が届かない距離だ。


声をかけるか思案しながら進んでいると、その鶴から少し離れた背後に人間の姿があった。二人いて、どちらも長い棒を鶴のほうに向けている。嫌な予感がして走り出すと、彼らはその棒を力いっぱい引いて離した。先の鋭く尖った棒は一直線に鶴に向かって飛ぶ。


「鶴殿、空へ!」


腹の底から叫んだ。鶴が瞬時に空へ羽ばたくと、棒は空気のみを裂いて林の中に消えた。鶴は背後の人間を確認しながら此方へやって来る。


「有難う。危ないところだった。その声は、海の従者殿で宜しいな。ようこそおいでくださった」


彼が私の、人間を模した姿を見るのはこれが初めてだ。声だけで気付いて頂けたのには驚いた。


「いかにも。ご無事で何よりです。後程そちらをお伺い致します」


「その旨伝えておこう。そうだ、猪の子が迷子なのだ。見かけたら教えてやって頂けないだろうか。では、待っているぞ」


手短に話すと鶴は高く飛び立ち、遠く山のほうへ消えた。その姿を見送ると、少し走った疲れが重い身体にどっと来て膝に手を付く。



このとき私は油断していたのだ。決して油断の許されないこの異郷の地で。思い通りにいかない自分の身体への静かな苛立ちの中で見知った顔を見て安心してしまったのだ。


気配を感じて振り返ると、先程鶴を狙って飛んでいた棒を、鋭く尖った先端を目の前に見た。


すぐに跳びすさると同時に頬のあたりを痛みが掠めた。支障のない場所で良かったと思いかけたが、次が来るのが早すぎた。避けたときによろけたせいで反応ができない。


攻撃が来るのが気配でわかっているのにどうにもできないもどかしさを感じるのは初めてだった。なんと陸は不便なんだろう。


すぐに左肩に衝撃が走り、身体が持っていかれる。なんとか足を着いたが、力の上手く入らない膝はがくりと折れ、地に突っ伏す形となった。視界の端にある左肩からは貫通して赤く濡れた棒の先端が見えている。いつ次が来るかわからないのですぐに立ち上がろうとするが、自分の動きよりも速いその攻撃は、立ち上がりかけた右太腿を襲った。


「 っ……!」


声になりきらない声が押し出される。


少しでも彼らから離れようと縺れる足をなんとか操るが、少し動かしただけでいちいち痛むその足は、まるで言うことをきかない。いくつかの不調が相次いで、感覚も鈍くなっている。あのような速く飛ぶ武器に背後から迫られては気付くのが間に合わない。


気配を感じてまた身体を横へずらすが、棒は身体の中心に当たらないだけで、身体には当たるのだ。二本立て続けに来たそれは、片方は左腰に、その後は背骨に当たり、強く前に押されたかのようだった。腰をやられたせいか足に力が入れられず、為す術もなく前に倒れこむ。


そしてふと思った。足音や威力の上がり具合から考えて、彼らは最初より随分と近くまで来ているはずだ。距離が短いのなら、的は低いほうが当たりにくいのではないだろうか。そう思い、一旦そこから動かないことにした。


狙ったのかどうなのか、棒は顔のすぐ隣に突き刺さった。もう少しずれていたらと思うとひやりとする。


棒は雨のように降り注ぐ。自分が殺られるのと向こうの武器が尽きるのとどちらか先か。


幸い致命傷を負う前に雨は止んだ。当たったのは軽く右足をかすって地に刺さったものを除くと、右手の甲と左の二の腕に深く突き刺さった二本のみだ。それらが平気だと言えば嘘になるが、首や頭じゃなかったのは救いだ。


しかし問題がある。手や腕を貫通したものを含め衣を貫通して地に刺さっているものも数本あり、ろくに身動きがとれないのだ。

さて、どうしたものか。


とうとう男達がここへたどり着いた。目の前に二人分の足が並ぶ。


「反省はできたか。これは報いだ」


うつ伏したままの私を覗き込んで一人が若干楽しげに言った。


「あの鶴が捕れれば一体どれくらい食い繋げたと思う? 立派な鶴だった。それを! どうでも良い善意で邪魔されると困るんだよ。こっちは!」


男は喋り続ける。


「この代償はしっかり払って貰わないとなあ!」


「おい。矢、回収するぞ」


そこに低めの男の声が聞こえた。


「や」?


もう一人の声に応じるように、調子良く喋っていた男も視界から消えて私の身体の横へ動く。訳がわからずにいると、男は突然肩の棒の刺さっている辺りを踏むと、その棒を勢いよく引き抜いた。傷口をえぐられるような痛みだ。声になりきらない呻き声が漏れた。彼らは構わず次々に抜いていく。


身体が自由になっていくと同時に、傷口から血液がどくどくと溢れていくのがわかる。あと残るは右手に甲から刺さったものだけだった。しかし、なかなか傷口は踏まれない。怪訝に思ったときだった。


「……っ、……ぁあ!」


かすれた声が押し出される。男はその矢と呼ばれる棒をより深く刺し出したのだ。使う矢を最小限で獲物に逃げられないようにしようとしているのだろう。抵抗しようにも、もう一人のほうが馬乗りになって私を固定しているせいで、されるままになってしまう。


手に刺さった矢がのろのろと進み、とうとう矢の半分以上が地に埋まった。満足したのか上に乗っていた男が立ち上がり、身体がふっと軽くなる。しかし出血のせいで体調は最悪だ。


「さあ、代償を払ってもらおうか」


先程と同じようにやってきた男に、ぼうっとし始めた頭を上げる。


「……何をお望みで」


「お! 喋った!」


そう言って笑う男に腹が立つ。やはり人間と関わるとろくなことが無い。もし今本調子ならこんな茶番に付き合ってやる義理などないのだ。思わず鋭くなった目が合う。すると男は目を丸くした。


「え……、どうなってるんだ……?」


想像もしなかった反応に此方が驚く。男達は二人して私の顔を覗き込んだ。


「これは……」


「……使えるぞ」



まさかと思った。



「こんな鮮やかな青をした目なんて見たことがない。しかも片目だけだなんて奇妙で面白い。見世物にしたら稼げるんじゃないか。隣村ならこういうの、好きなやつ多かっただろう」


男達は勝手に話しているが、言葉から察するに私の瞳の色は片目だけが完璧に人間のそれのように変わり、もう片方は全くと言って良い程変わらなかったらしい。


「そういうことだ。ついてこい」


相談が終わったのか、一人の男が私のほうを向き直って言った。

言うことを聞けば無事でいられるのかもしれないが、任務のこともあり、のこのこと付いて行く訳にはいかない。


「申し訳ありませんが……承諾しかねます」


答えると、突然目の前に刃を突き付けられた。腰に別の武器を持っていたらしい。


「自分の置かれている状況が解っているのか。お前の持つ選択肢は大人しく付いてくるか、ここで殺されるかの二つだけだ」


ああ、面倒なことになった。このときどうするべきだったのか、私は未だに分からない。


「それは困りましたね、私は用事があってここへ参りましたので寄り道をしている時間は無いのですが」


言いながらゆっくりと起き上がり、なんとかその場に座る。駄目元ではあるが一応謝罪をしておくに越したことは無いだろう。


「先程鶴を逃がしたことに関して、あなた方には悪いことを致しました。申し訳ございませんでした。弱肉強食のこの世で狩りは否定致しませんが、あの鶴には面識がございましたので見過ごすことができず……。残念ながらあなた方のご要望には応えられそうもございませんが、どうかここは一度見逃してはいただけませんでしょうか。他に私にできることならば致します」


彼らは茫然としたように顔を見合わせた。その隙に、固定された右手で刺さっている矢を軽く揺らしてみる。よし、本気で引けば抜けそうだ。


男たちは元の表情に戻って振り返る。


「ふざけているのか。言ったはずだ、そんな選択肢は無いと。まあ良い。素直に従わないなら力ずくでするまでだ。覚悟しろ、抵抗もできない状態にしてから生け捕りしてやる」


やはり駄目だったか。


この状況で彼らから逃げ切ることは一般的に考えて不可能に近い。固定されている獲物は既にぼろぼろで、対する狩人は万全の状態のが二人もいる。


男が刃を振り上げる。そこで私は素早く刃をかわして力いっぱい矢を引き抜いた。やっと地から離れた右手から矢を外す間も無く、肩に触れそうになった刃を矢で受け止める。刺さったままの右手にも衝撃が走り、顔を歪めた。


あまりに不便すぎる。


左手で持った矢を動かさずに、一息で右手を引き抜いた。血がぼたぼたと溢れるのはわかるが、手の感覚はほとんど無い。利き手でなかったことを心底良かったと思う。これではたいして使い物にならないので、その手首から下はだらりと下げたまま、左手に持った矢に右腕を添える。きっと見上げると男は少し怯んだ様子を見せた。


「お前……急に普通に動き出して何なんだよ! さっきまであんなにへばってたくせに……!」


「もう慣れました」


痛まない訳ではない。ただ、慣れたのだ。


昔からそうだった。少し時間が経ったところで痛みが楽になるはずがないのは解っているが、そう自分で思うことで平常に動けるのだからそういうことにしている。第一いつ襲われるか知れない海の中、痛いから動けない、ではとっくに喰われて死んでいる。

そのまま立ち上がると、男の刃を矢で受け止めながら少しずつ後ろに下がる。背後になった林に、一刻も早く到達しなければならない。この出血量では身体が駄目になるまであまり猶予はないはずだ。



それから、どれくらいの応酬があっただろう。身体のあちこちが痛む。影が少しばかり長くなってきた。やがて男が私の持つ矢に両手で思いっきり刃を降り下ろすと、矢はぱきんと軽く音を立てて折れてしまった。


生憎私はもともと武器を持ち合わせていない。その上、相手の使っている長い刃など使ったことも見たこともなかった。


極端に短くなってしまった矢でなんとか応戦していると、暫く様子を見ていたもう一人の男が突然走ってきて背に向かって刃を振り下ろした。来るだいたいの場所は判ったので横に跳んで変わらず前の男の相手をする。

しかし背後の男は降り下ろした刃をすぐにそのまま上げてもう一度斬りつけに来たのだ。思いもよらなかった連続攻撃に反応が遅れる。咄嗟に身体を半分捩らせて左腕で受け止めたが、食い込む刃に呻き声が漏れる。男はそのままゆっくりと肉を剥がすように上へ上げてくる。まずいと思って地を蹴って離れたが、その間際に前にいた男が正面から斬り付けた。帯の少し上辺りに赤で大きく一の字が現れた。


「 くっ……!」


衝撃に耐え兼ねてよろける。その腹にすかさず拳が打ち込まれ、体を折り曲げたところにまた刃が来た。右目を狙っているようだ。


「左目はやるなよ」


「わかってる!」


完璧に避ける余裕は無いので首を仰け反らせるようにすると刃は顎を斬って再び目を狙って帰ってきた。



きりが無い。



親指に意識を集中させ爪を伸ばすと刃を無視して手を伸ばす。刃が右目の少し上辺りに食い込んだ直後に男の首に左手の爪が触れた。


今は自身が弱っているのに加え、人間相手は初めてなのでどこまで効くか分からないが、私は手の爪から相手に毒を注入することができるのだ。勿論今は殺すつもりは無いので、急に睡魔を与える類いのものにした。


「痛っ……!」


男は驚いた様子を見せた。まさか反撃してくるとは思わなかったのだろう。動きの止まった相手の様子を見ながら後ろ向きに歩を進める。林まではもう走って数十秒といったところだろうか。

男は武器を構え直すと両目を繁く開閉させた。そして少し覚束ない足で此方へふらふらと向かって来る。効き目が出始めたようだ。


「お前……俺に何をした……?」


なんとか目を開けて鋭い目つきで睨み付けてきたかと思うと、男は急に走り出した。すぐに対処できるほどの力はもう私には残っていない。反応し切れず、武器の持ち手のほうで胸を突かれた。仰向けに倒れた私の首を馬乗りになった男が全力で締める。


「おい、殺すなよ!」


相方の制止が聞こえたのか否か、男はひたすらに首を締めながら喚いた。


「舐めた真似しやがって! よくも……よくも……!」


腕を両方とも踏みつけられているのでろくに抵抗ができない。目の前が白くなってくる。


流石に身の危険を感じ始めたとき、攻撃がぱたりと止んで男が降ってきた。我慢の限界が来たのだろう、くずおれて寝息を立てている。激しく咳き込んだ。喉がひゅうひゅう鳴っている。なんとか呼吸を整えながら男をどけて立ち上がる。


見ていたほうの男は急な展開に、訳がわからないといったように慌てて倒れた男に駆け寄った。


今だ。


どうせこのまま終わることはできないのだから、追い付かれることを覚悟で背を向けて林へ走る。林はぐんぐんと近付いてきたが、追ってくる足音は一向に聞こえない。まさか逃げ切れるのか……?


そのときだった。


「……っ!」


どすん、と背中に重い衝撃があった。これは何だ?


少し速度は落ちたが走れない程ではない。できる限り林に近付いておきたい一心で振り向かずになんとか進むうちにも五、六発とそれは続いた。


もう少しと思ったとき、次発は少し違った。じんじんと痛む背をざっくりと何かが斬り裂いたのだ。足が縺れ、斜めに倒れこむ。荒く息をする。


少し遅れて敵は追い付いてきた。武器を持っていた手にはぎりぎり片手で持てるくらいの大きさの石が握られている。今まで背に投げつけられていたのは石だったのか。さっきまでの刃を持っていないところを見ると、最後に投げたのがそれだったのかもしれない。


呼吸が薄くなっているのが自分でも分かる。さて、どうやって終わらせようか。



「お前、あいつに何をした」


先程眠らせた男とは違い、彼は静かに問うた。懸命に声を絞り出す。


「……少し……眠っていただいているだけです」


「そうか」


男は淡々とそう言うと、持っていた石を私の左足の上に落とした。


「ちょこまか動く奴は足を潰すのが早いんだよ」


言いながら、男は何度も何度も繰り返す。彼は私の腰の上に座り、足を器用に使って手足を固定している。早く逃げなければ。それは分かっているが、この状況を脱する方法は何も思いつかなかった。


もう既に足の感覚は無いに等しく、衝撃だけが伝わってくる。

「あの時の攻撃、左手が怪しかったんだよなぁ」


無機質な声にぞくりとする。ああ、何か方法はないのか。考える間にも止まらない出血は私の視界を霞ませてゆく。



そのときだった。



「何してるの!!」


突然高い声がした。



視界がはっきりとする。


攻撃が止んで、声のしたほうに目だけをやると、大人とも子どもとも言えないくらいの歳の少女が、怯えたように、でも真っ直ぐに此方を見ている。男はちっと舌打ちすると私を跨いで落としていた刃を私の袖に刺し、少女のほうを向いた。


「ああ、これはどうも。弱った化け物がいたんで退治しようかと思っていたところなんです」


 男の言葉に少女は眼光を鋭くする。


「何言ってるの。どう見ても人間でしょ。人に対して過度な暴力を奮う者は父上に言って罰を与えて貰わないといけないんだけど」


「あれ、人間に見えます? おっかしいなぁ。青い目と髪を持った人なんていないだろ。まあ良いや。じゃあ人間だったら悪いんで私が責任持って連れて帰って看病しますね」


「え、でも……」


私に背を向けて立つので男の表情は見えないが、その溢れる圧に、強気だった少女が怯え、困っているのが見てとれた。


「あれぇ、新入りは信用してくれないんですかぁ?村長の〝娘様〟は」


〝娘〟の部分を強調して言う嫌味な姿は、暗に「退け」と言っているかのようだった。雲行きが怪しい。この機会を逃せば本当に逃げられなくなってしまうかもしれない。


もう残っていない力を振り絞って男の帯に右手を伸ばし、無理やり腰を降ろさせる。


「なんだ、まだ生きてたのか」


男は余裕そうな表情ですぐにその手を掴まえ、微かに不敵な笑みを浮かべた。


私は男の目の前で両目を大きく開いた。そして袖に刃の刺さったまま左腕を強引に上げると、青い為に狙われているらしい自分の左目を爪を長くしてさっと斬り裂いてみせた。たちまち視界の半分が真っ赤になる。男は目を見開いて青ざめた顔を此方へ近付けた。


「自分で価値を失くしやがった……」


今だ、と先の男にやったように左手の爪でそのまま男の首も軽く切る。男は怪訝そうに傷口を触ったが、何も無いと判断したのか立ち上がると袖から刃を抜き取って振り上げた。


「もうお前に用は無い」


少女が止めようとしてか慌てて走ってくるが、着くより早く男の手から武器がぽとりと落ちた。


男は手を震わせる。


「嘘だろ、手が……」


今度注入したのは、しばらくの間全身が痺れる類いのものだ。効き目が出るのが想定より遅かったので危ないところだった。

「さっきのだな、また妙なことしやがって!」


まだ痺れの来ていないらしい足を名一杯使って男は私の首を踏みつける。


死ね、死ね、と低く呟きながら繰り返す男に少女が声を張り上げた。


「今やめたら村長には言わない!」


その言葉に男の動きが止まった。


「言ったな」


足にまで痺れが回ってきたのか、よたよたとした足取りで近付く男に少女が後退りする。


「もし言ったら、この男もお前も殺してやる」


男は、少女がなんとか頷くのを見届けると向きを変えて不気味な笑みをのせて此方に向かってくる。


「お望み通り見逃してやる。次会ったら、分からないけどな」


左目の辺りを思いっきり一発蹴ると、男は今にも転びそうな足取りで、まだ眠っているもう一人のほうを担いで去って行った。




もう空は橙に染まり始めている。


長かった。ふう、と息をついて目を閉じた。ああ、帰りたい……。


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